智弁和歌山|攻守の要・東妻純平が気づいた「準備と周囲を見渡せる視野の広さ」の大切さ
昨年春夏甲子園に出場し、選抜大会では準優勝に輝いた高校野球の名門・智弁和歌山高校。そんなチームの4番打者であり捕手を務める攻守の要、東妻純平選手に自身の幼少期の話や甲子園で経験したことなどのお話を聞きました。
ゲームよりも外で遊びたかった幼少期
春夏の甲子園出場、うちセンバツでは準優勝。2018年は東妻にとって両手に収まらないほどの経験を重ねることができた。ただ、それが満足のいくものだったのかと自身に問うと首を縦に振れない自分がいる。
それは勝ったことよりも負けたことの方が鮮烈に頭の中に残っているからだ。センバツ決勝で大阪桐蔭打線に打ち込まれた試合、そして秋の近畿大会の準決勝で明石商に大量点を奪われて大敗した試合。いずれの試合にも共通する“敗因”があった。
「準備ができていなかったと思います。キャッチャーはチーム、ピッチャーと周りが活躍するためにどうサポートできるかだと思うんです。そのためにはまず配球やキャッチングも大事なんですけれど、それもちゃんと出来るかは準備があるかどうか。キャッチングの良さでピッチングも決まってくるし、ストッピングがしっかりできればそれだけピッチャーも安心して投げられる。そういうところはすべて繋がっていると思うんです」。
1年秋から正捕手。現チームでは4番打者として攻撃面でもチームを引っ張る。155キロ右腕の兄・勇輔(日体大)は、この秋のドラフト会議でロッテから2位指名された。先日まで教育実習のため帰郷していた兄とは色んな話題に花が咲いた。「お風呂屋さんに一緒に行って色んな話をしました。大学野球での話も聞きましたし、自分の負けた試合に関して気づいたことも教えてくれました」。
もともと仲の良い兄弟。小学2年生の時からキャッチャーを始めたが、キャッチボールの相手が兄だったから……という訳ではなかった。5歳上の兄は物心がついた頃から大会や練習で帰宅するのが遅く「だいたいは壁当てをしていることが多かった」という。3歳上の姉と軟球で遊ぶことも多かったが、その姉はバスケットや柔道もこなすスポーツウーマンで現在は警察官。両親もバスケットボール経験者というアスリート一家で育った。
同世代の遊びといえばテレビゲームが中心だが「自分はゲームが面白いと思うことがなくて。ずっとゲームをすることがしんどい。外で体を動かす方がよっぽど楽しかったです」と幼い頃からボール遊びに興じていた。
甲子園を本格的に意識するようになったのは、やはり兄の存在だった。兄が3年春のセンバツ初戦。明徳義塾に延長15回サヨナラ負けを喫したマウンドにいたのが兄だった。だが大舞台で投げる兄よりも夏の県大会決勝で市和歌山に敗れ夏の甲子園切符を逃した兄の姿の方が今でも印象に残っている。以降「市高(市和歌山)を破って甲子園に行きたい」という気持ちが強くなり、兄を追って智弁和歌山の門を叩いた。
甲子園の対戦相手から学んだ「いいキャッチャー」像
小学生の時から肩は強く、体力測定のソフトボール投げの数値もずば抜けていて、軽く投げただけで小学校のグラウンド外にあるプールに投げ込めていたほど。だが、強肩以上に意識するのは配球だ。昨年1月には捕手出身の大先輩で現在は監督の中谷仁コーチが就任したことが大きな転機となった。中谷監督の指導スタイルは持論を“叩き込む”のではない。
「まず、自分が実際にやったことを踏まえて“自分はこう思ったのでこうやりました”と話すと“それは○○になるから、こうなんじゃない?”という感じで、失敗を反省しながら吸収していくんです。その時、自分はまだまだ技術が足りないと思いました」。
全体練習後、自主練習ではブルペンに走り、ストッピングのコツを徹底的に伝授された。そして配球。どうしても単調になりがちだった自分のリードを突き詰めていくと、ある要因が浮かんできた。
「自分は今まで、うまくいかないとすぐにイライラするところがありました。それを一番出してはいけないポジションなのに、感情がリードにもろに出ていて、ピッチャーに影響を与えてしまっていました」。
ピンチになると周りが見えなくなり、自分の世界に入ってムキになってしまう。負けず嫌いな性格が故に、結果が出ないと“何で出来へんねん”と自分にいら立ってしまうのだ。
「中谷監督からもそこはよく注意されました。周りから見れば“このキャッチャーは何ですぐイライラするんや”って思われますよね。でも”負けず嫌いだから“なんて理由になりません」。
昨夏の甲子園の初戦で対戦した近江の同じ2年生の正捕手・有馬諒の動きを見ると、自分との差は一目瞭然だった。
「有馬君はピッチャーの特徴を分かっているし、打たせると相手が乗ってしまうからと簡単に中軸に打たせない術も持っていました。声を掛けるタイミングもそうですが、周りが見えているなあと。見ていてすごく勉強になりました。ピッチャーのいい球をどんどん投げさせられるキャッチャーこそが、いいキャッチャーなんやなあと」。
そのためにはピッチャーをよく知ることも重要だ。今秋の近畿大会の明石商戦では大会初登板の山本雄太が先発したが、2回に捕まり5失点でマウンドを降りることに。結果的にコールド負けという屈辱を味わったが、普段からリードし“慣れていない” 山本が打たれたことで、山本のことをもっと知っておかなくてはいけないと猛省した。
準備と周囲を見渡せる視野の広さ
この冬の課題を挙げると、ひとつだけでは収まらないという。キャッチング、配球、リード……すべてにおいてレベルアップが必要だと感じている。負けて学ぶことが多いとはよく言うが、今まで見えていなかった課題があまりにも多かった。克服のためにどれだけの時間を要していくのか不安に苛まれているのかと思いきや、東妻の目は生き生きとしていた。
「去年の今頃に比べたら、今年はやるべきことが多い。だからこそ、この冬の間に何としても克服していこうという気持ちが強いです。克服できた自分がどうなっているのかと思うと、センバツがある意味楽しみです。ただ、経験があるとはいえ、自分が自分が、とはならないようにしたいです」と気を引き締める。
準備、そして周囲を見渡せる視野の広さ。基本的なことだが、それは世代を問わず野球をやっている以上最も大切なことだ。
「試合で、何でここに構えているのに投げてくれへんねんって思うことがあります。でも、その前にピッチャーに声を掛けたのか。ちゃんとした構え方ができたのか。自分がちゃんとそういう準備ができていたのかだと思います」。
これはこれから高校野球界を目指す中学生へのメッセージでもあり、自戒を込めた率直な思いでもある。(取材・写真/沢井史)