【横浜】オフのキーワードは「マインドセット」
練習終了後、ネット裏にある監督室で、練習の狙いをじっくりと聞いた。
「夏の甲子園が終わったあと、わずか5試合の練習試合で秋の県大会に入っていきました。関東大会で負けて感じたのは、チームとしては発展途上で、まだまだこれからということ。公式戦が終わったあとから、改めて腰を据えてチーム作りをしています。夏の大会までに、どれだけ選手ひとりひとりが自立できるか。練習メニューを選手に任せているのも、そのひとつです」
秋は神奈川大会で優勝するも、関東大会準々決勝で春日部共栄にコールド負け。頼みのエース及川雅貴が序盤から崩れ、センバツ出場が遠のく敗戦を喫した。
今のテーマは、考える習慣を身につけること。だから、選手への問いかけが増えている。キーワードに挙げているのが、「マインドセット」だ。
「つまりは、“心の持ちよう”ということです。今日、エンドランをやっていましたけど、ただやるのではなくて、どういう心構えで打席に入ればいいのか。それを指導者が決めるのではなく、自分たちで話し合って考えてほしい。作戦の性質上、大胆さが必要ではあるけど、やみくもに振っていてはランナーが進まない。難しい作戦の中で、どんなマインドセットであれば、心地よくプレーができるか、ということです」
ミーティングでは、選手の意見をまとめたキャプテンの内海貴斗が、「バットの芯に当てることを優先的に考える」という話をしていた。それを頷きながら聞く平田監督。選手が考えたことに関しては、頭ごなしに否定しないように心がけている。
「テーマを与えて、問いかけて、喋らせることで、考えが整理されて、語彙も増えてくると思っています。出てきた言葉に対して、大人が『違うだろう』『何だ、その考えは』と否定すると、もう自分の考えを言わなくなってしまいますよね」
指導者として意識しているのは、「傾聴力」と「質問力」だ。耳を傾けることによって、選手の考えを引き出す。それが、考える力となり、将来的な自立につながっていく。
確認・アドバイス・鼓舞・フィードバック
平田監督は、練習中の声かけにもテーマを与えていた。
「確認」
「アドバイス」
「鼓舞」
「フィードバック」
この4つの声かけを、状況や人に応じて、使い分けていく。
バント練習ではこんな“アドバイス”があった。一塁線を狙い過ぎたバッターに対して、「セカンド方向でいいぞ」と仲間の声。すると、次の球できっちりと送りバントを決めた。このあたりも、マインドセットに関わってくる考え方だ。
「秋の公式戦を終えてから、確認・アドバイス・鼓舞を徹底していて、最近新たにフィードバックを加えました。良いプレーも悪かったことも、しっかりと振り返って、仲間同士でアドバイスを送れるようになること。どれだけ主体的にやれるか。試合もないわけですから、この冬はそこにじっくりと取り組んでいきたいですね」
体を大きくしやすい冬場ということもあり、体作りにも力を入れる。シーズン中よりもトレーニングの量が増え、個々に設定した目標体重も存在する。ただ、こうしたすべての取り組みに通じるのは、「自らの意志で目標に向かってほしい」ということだ。指導者にやらされているようでは、本当の意味での強いチームにはなれない。
「最近はよく、モチベーションについて考えています。モチベーションが高まるのはどういうときか。『モチベーション3.0』という本にも書いていましたが、取り組んでいることそのものが楽しいことが一番の動機になる。では、その楽しさを感じるには何が必要かとなると、自分の成長を実感することと、自分で決めて自分でやり遂げたという自己決定感。指導者としてヒントは出しますが、最終的には自分たちで自己実現に向かってほしいと思っています」
それでも、「任せっぱなし」にすると、方向性がずれていくこともある。そうならないように、「課題を与え、起きたことに対して評価すること」を監督の役割と位置付けている。
12月後半から1月末にかけては、実戦練習はしばし休みとなり、トレーニング期に入る。バットを振る量、ノックを受ける量、走る量が増えていく。
自らの意志で主体的に取り組んだ先に、夏の神奈川4連覇、そして日本一が見えてくる。(取材・大利実/写真・編集部)