【越谷ボーイズ】重視するのは選手に「考えさせる」こと
2017年春の全国大会に出場するなど、近年躍進を遂げている越谷ボーイズ(埼玉)。1998年4月に創部され今年で22年目を迎えるチームだが、その指導方針は設立当時のものとは大きく異なっているという。創部当初からチームを指導する金澤正芳監督に話を伺った。
金澤監督は埼玉県草加市出身。埼玉県立越ケ谷高校、明治大学で硬式野球部に所属し、大学の同期には現在ヤクルトでスカウトグループのデスクを務める橿渕聡氏がおり、中日とメジャーで活躍した川上憲伸投手は一学年下にあたる。大学卒業後、越谷ボーイズを立ち上げることになった中学時代の恩師の誘いを受けて監督に就任。仕事の都合で監督を退いた時期もあったが、再び指導の現場に復帰した。そんな金澤監督が掲げるのが『管理と自由の融合』だという。
「最初に監督になった時は完全に勝利至上主義で、常に怒鳴っているような感じでした。ただ自分の息子も越谷ボーイズでプレーしていたのですが、中学2年の春にチームを辞めてしまったんですね。野球を嫌になって辞めてしまう子どもを持つ親としての辛さを実感しました。
その後、桐蔭横浜大学の齊藤監督や本庄ボーイズの横堀監督、菅原コーチなどから色々学ばせていただいて、あくまで野球、スポーツは人間形成の一手段であるということ、プロ野球ではなくアマチュア野球の指導者であるからこそ人間形成を大事にしないといけないことを実感し、指導方針を大きく変えました。
管理という意味では取り組む姿勢や練習態度、生活態度を指導します。逆に技術の部分は押しつけることはせずに選手の発想と感覚を大事にしています。基本的な部分はもちろん教えますが、細かいところまで強制はしません。“術”は教えて“技”は個人という方針です。以前はできないことに対して常に怒っていましたが、現在は技術のミスについて怒ることはありません。ただ準備不足や怠慢なプレーに対しては厳しく叱責するようにしています」
口頭では上手く話せないかもしれないということで、これまでの経緯と指導方針を資料にしてこちらに手渡していただいたが、そこには「指導者としての立場」、「理念づくり」、「組織づくり」、「環境づくり」といった項目に分けてチームの方針がまとめられていた。そして指導するうえで特に重視しているのが選手に「考えさせる」ことだという。
「色んな方にお話を聞くと、日本のスポーツ、野球は指導者がどうしても教えすぎてしまっていることがあるように思います。ただそれだと選手が考えることがなくなり、指示待ちの人間になってしまいます。そうならないために最近特に心がけていることが『中立的フィードバック』です。ああしなさい、こうしなさいとこちらの考えを押しつけるのではなく、バットの動きがこうなっている、というようにあくまで客観的な事実のみを伝えることです。指摘されたことで選手が考えるようになり、それが成長に繋がると考えています」
こちらに手渡された資料だけでなく、練習場にはチームの活動理念、部訓、徹底厳守事項が掲示されていた。指導者、チームとしての考え方は様々なものがあって当然だが、このように明示することは指導方針、理念を常に確認できるという意味で非常に重要なことではないだろうか。
選手が考えたことを否定せずにまずは認める
選手に考えさせることが重要と話す金澤監督だが、もう一つ大事にしているのは選手が考えたことを否定せずにまずは認めるということだ。そのエピソードとして面白い例が選手の髪型である。高校野球を筆頭に野球部員は丸刈りというチームが多いが、越谷ボーイズは身だしなみとして乱れていなければ髪型は自由だという。これも監督の考えではなく、選手からの意見がきっかけだったそうだ。
「ある時3年生の一人が坊主頭からだいぶ髪が伸びていたので指摘しました。そうするとその子が髪を伸ばしたいと言ってきたんですね。その時はすぐにOKにしたわけではないのですが、『坊主頭にすることと野球が何か関係あるんですか?』と言われて、確かにそうだなと思ったんです。それからしばらくして髪型も自由にしました」
慣例だからと言って丸刈りにするというのはまさに考えることを放棄した状態と言えるだろう。しかし現在の野球部においてはその変更を選手から言い出すことはなかなか難しいのではないだろうか。そんな中でも選手が監督に「髪を伸ばしたい」と言い出したこと、それを監督が受け入れたということが越谷ボーイズというチームをよく表している。そしてそのような環境で育った選手の方が、監督の押しつけの下でプレーした選手よりも考える力が身についていることが多いのではないだろうか。些細な例かもしれないが、非常に重要なことと言えるだろう。(取材・写真:西尾典文)
後編は実際の練習の様子をお届けします。