【越谷ボーイズ】目的が明確化された練習メニュー

「管理と自由の融合」という金澤正芳監督の方針のもと、選手に考えさせることを重視して活動しているという越谷ボーイズ。かつての勝利至上主義の指導時代よりも選手が伸び伸びとプレーするようになり、2017年の春にはボーイズリーグに加盟して以来初となる全国大会出場も果たすなど、試合での結果もついてきているという。後編ではそんな越谷ボーイズの練習の様子をレポートする。

180㎝の棒を使ったウォーミングアップ

越谷ボーイズの練習場は越谷市とさいたま市のちょうど市境に位置している。グラウンドは外野が狭くフェンスも低いため硬式野球の試合は禁止で、アップやノックのために使われている。グラウンドから徒歩2~3分のところにバッティング練習用のケージ、ブルペンが作られており、この間を行き来しながら練習を行っている。広いグラウンドを使ってバッティングを行うことはできないが、その分マシンは5台用意されており、また練習試合は常に相手グラウンドへ行くこととなるためバスも所有している。
 
現在部員数は2年生が25人、1年生が24人。まず全員でアップが行われたが、単なる準備運動ではなく、現在金澤監督が事務職員として勤務している桐蔭横浜大の野球部のトレーナーから教わりパフォーマンス向上に繋がるものを実践しているという。このアップに使うのは180㎝の長い棒。
この棒を使いながら体を動かすことで軸が安定する効果があるという。また、野球に重要な肩甲骨周りの動きをスムーズにする狙いもあるそうだ。

「トレーナーの方に実際に来ていただいて指導してもらいました。この棒を使いながら“ねる、締める、ひねる”という三つの動きを意識して体を動かすようにしています。自分の繋がりで高いレベルの野球を知っていらっしゃる方から教えていただけるのは本当にありがたいと思っています。まだ始めて間もないので上手くできる選手、できない選手いますが、できる選手の動きを見ながらやるように選手には言っています」
この日は体験入部の小学生も二人参加していたが、その選手の前には上手くできる選手がやるようになどの配慮が見られた。
 
 
アップの後は1年生と2年生で分かれての練習。1年生はまずバッティングに向かい、2年生はグラウンドに残って守備練習となった。ノックに入る前に行っていたのがボールを使った短い距離のペッパー(シャトルラン)。

まずはボールを1個持って行うもの、次にボールを持ち帰る時に足をクロスに踏み出すもの、最後にボールを2個持って行うものと3段階に分けて行っていた。1個だけ行うものはまずフットワーク、そしてクロス、2個と徐々に股関節を使う範囲を広げていく狙いがあるという。そのことをしっかり意識するように金澤監督からも指示が飛んでいた。更にただスタートするのではなく、監督が手を全部開いたら合図というもの。フェイントを入れながら合図を送ることで、しっかり見て判断してから動き出すという訓練も意識されていた。

内野と外野に分かれてのノック

外野陣は走りながらボールを受けるアメリカンノックが行われたが、ここでも金澤監督から守備範囲を広げること、目線をぶらさずに走って動きながら捕球すること、球際を強くすること、と明確に狙いが伝えられた。
内野陣はノックの前に捕球から送球の動きのドリルを実施。この時もボールは捕りにいかずにグラブを持つ左手を楽にして衝突せずに入れるイメージで捕球すること、捕球する時に左足のかかとを上げてその左足に右足を持っていく形でステップして股関節を使って投げること、という大きく2点を意識するように指示された。

指示した基本的な形が崩れているときは金澤監督からそのことについて『中立的フィードバック』が行われたが、腕の振りなどについては細かい指摘はされていなかった。その後のシートノックでも金澤監督から盛んに聞かれたのは「考えて!」という声。狙いを明確にしながらも、選手に考えさせて“自由”の部分を重んじていることがよく分かる守備練習だった。
 

バッティング練習

昼食と休憩を挟んで午後からは2年生がバッティング、1年生が守備練習を実施。バッティングは緩いボールのマシン2か所、速いボールのマシンが1か所、投手が投げる緩いボールが2か所、バント用のマシンが1か所の合計6か所で行われた。
緩いボールのマシンで行っていたのがバットを体の内側から出すための練習。マシンに対して正対する姿勢で立ちってバッティングすることで、外からバットが出ないようにするものだった。一方の速いボールは少し柔らかいボールでのバッティングを実施。芯を外した時の恐怖心を取り払い、速さに慣れるための狙いがあるという。

内からバットを出すことについては金澤監督自身が実際に見本を見せながら行っていたが、それ以外はとにかく強く振ることを伝え、選手の自由度の高いものだった。ここで監督から盛んに言われていたのが練習の流れ、準備について。班分けはしていたものの、どういう順番で回るかは選手に任せており、その動きがスムーズにいかないケースが見られた時には盛んに考えることと次の準備をしておくこと、それが野球のプレーにも繋がることが指摘されていた。

最後は全員でランニングメニューを実施して9時から始まった練習は16時頃に終了となった。以前はもっと暗くなる遅い時間まで行っていたこともあったそうだが、現在は選手に余力を残すということも考えてこれくらいの時間に終わることが多いという。決して短い練習時間ではないが、内容も狙いも明確で選手が飽きることなく自主的に取り組んでいる姿が印象的だった。

また試合の結果は選手ごとに全て集計して、カウント別の打率や1回あたりの投球数などもデータ化しているという。こういった数字を選手に示すことも考える材料として有効と言えるだろう。

前編でも触れたが、チームの方針、理念を明確にし、実際にそれに沿って行動しているチームは高校野球でも多くはないだろう。人間形成を目的とし、選手が常に考えてプレーをすることで成長しながら勝利を目指す。その理念がはっきりと感じられる越谷ボーイズの取り組みだった。(取材・写真:西尾典文)