【慶應義塾】日本一になるため、新しいことに「挑戦」するオフシーズン
2018年、春夏で甲子園に出場した慶應義塾高校野球部。そんな神奈川の強豪校はオフシーズンにどんな練習、トレーニングに取り組んでいるのか? そこにはどんな考えや意図があるのか? チームを率いる森林貴彦監督にお話を伺った。
「挑戦」を掲げた冬シーズン
2018年12月中旬、慶應義塾高校を訪れると、チーム全員がトレーニングルームに集まり、メーカー担当者による説明に耳を傾けていた。その内容は、冬から導入予定の新しいトレーニングに関することだった。なぜ、今なのか。
「12月に入ったときに、ミーティングで『新しいことに挑戦していこう』という話をしました。それは選手へのメッセージでもあり、自分自身に向けたメッセージでもあります」
語るのは、就任後4度目の冬を迎えた森林貴彦監督である。
慶應義塾普通部(中学校)、慶應義塾高、慶應大の出身で、大学時代は母校の学生コーチとして1995年夏の神奈川大会準優勝を経験した。卒業後は大手企業で働いていたが、学生コーチで体感した興奮と充実感を忘れられずに退職。教員免許を取るために、筑波大の大学院に入学し、コーチング論を学んだ。2002年から慶應義塾幼稚舎(小学校)で働くと同時に、再び母校のコーチに就任。コーチと助監督を経て、2015年夏の大会後から監督の座に就いた。
そして、2018年春に監督として初めて甲子園の土を踏むと、同年夏には北神奈川代表で甲子園1勝。秋は県大会準決勝で横浜と接戦を展開するも、1対2の逆転サヨナラ負けを喫した。
「上の代が春夏甲子園に出場して、秋も横浜と接戦。そこで満足していたら、さらに上にはいけないよという意味での『挑戦』です。甲子園に出て、日本一になるにはどうしたらいいのか。この冬は新しいことに挑戦しています」
いかに、上を見て、チーム力を高めていくか。公式戦の勝敗に一喜一憂することのない冬場は、新しいことに取り組みやすい季節ともいえる。
毎週土日は紅白戦を実施
「挑戦」を掲げた冬。
昨シーズンと違った試みがいくつかある。
一.新しいトレーニングの導入(予定)
二.12月~2月の毎週土日は紅白戦・実戦形式
三.冬休みを短縮(従来は12月24日から15日まで休みだったが、今年は12月27日から1月5日までの休み)
四.メンタルトレーニングの導入
五.ポジションによる休日を導入(バッテリーは火曜日、野手は月曜日/グラウンドの有効利用)
六、学生コーチによる練習メニューの作成
特に大きく変わったのが、オフシーズンに紅白戦や実戦形式を導入したことだ。例年、冬場はドリル(ゴロ捕りや打ち込み)やトレーニングにあてていたが、野球をやる時間を増やした。
「うちの強みは何かと考えたときに、試合における判断力や考える力だと思っています。ほかの強豪と対戦したときに、強みになるのはそこの部分。修羅場の場面でも、冷静に頭を働かせて、ベストなプレーを選択することができるか。そこをさらに伸ばすためにも、実戦的な練習を増やしていく。12月は毎週土日、紅白戦をやっていました」
就任1年目から見ると、年々、冬場に野球をする時間が増えている。1年目はほぼトレーニング中心だったが、その成果が試合のパフォーマンスに直結しづらいことを感じ、2年目から少しずつ実戦を増やしていった。
「高校生を見ていて感じるのは、実戦的な練習をしていないと、野球がなかなかうまくならないということです。ゴロ捕りの形や、打ち方がよくなったとしても、試合で力を発揮できるかというと必ずしもそうではない。難しいバウンドへの対応や、試合における狙い球のしぼり方などは、試合をやっておかないと磨けない部分と感じています」
試合をしていくと、カットプレーやカバーリングのミスも起こりうる。試合中でも試合後でも、そのミスについて話し合い、改善策を考えさせる。
「どんな選手でも、うまくできないことがあると考えるものです。その考えを、次の練習に活かすことができる。練習ばかりやっていては、試す場所がない。練習→試合よりも、試合→練習→試合のほうが、練習に対する意欲や意識が変わる。それはオフシーズンも同じだと思います」
紅白戦はほぼノーサイン。選手たちだけでどこまでできるかを評価している。
もちろん、体を大きくすることを怠っているわけではない。週2~3日のウエイトトレーニングに加え、補食にも力を入れる。栄養士を招いての栄養講座も開く。ただ、その一方でこんな思いがある。
「吐くまで食べるようなところもあるようですが……、野球がうまくなるかというとまた別の話だと思います。野球部に入っているわけですから、できるだけ野球をやらせてあげたい。うちのOB(大学生)を見ていると、大学に入ってから、体が大きくなる選手が多い。だから、高校時代に無理をしてまで、大きくする必要はないのかなとも思うんです。それこそ、優先順位をどこに置くかですね」
冬の紅白戦となると、ピッチャーの故障が心配になるが、そこは気候を見ながら、ピッチングマシンを使うなどして臨機応変に対応する。(取材:大利実/写真:編集部)