【美里工業】県外からも選手が集まる「文武両道」掲げる工業高校

オフシーズンの練習といえば「体力づくりのための地道なトレーニング」を思い浮かべることが多いが、美里工業では沖縄の温暖な気候を活かした試合形式の実践練習、基礎練習、体力トレーニングを効率よくローテーションさせながら、すべての選手になるべく多く実践経験を積むように考えられた練習を行っている。「オフシーズンが一番楽しいかもしれないね」と語る美里工業・神谷嘉宗(かみや・よしむね)監督にお話をうかがった。

各グループごとで昼食をはさみ、全体練習が終わったところで選手たちはセンター付近に集まった。「選手たちでペナルティを決めているみたいですね」という神谷監督の言葉どおり、それぞれのグループが決められた本数を全力でダッシュ。後半になると体もきつくなるが、周囲の選手たちが大きな声で声援を送り励ましていた。その後はペアで入念にストレッチを行い、この日の全体練習は15時前に終了。練習後は豆乳を必ず飲むなど体づくりに必要となる栄養補給も欠かさない。
「詰め込みすぎると選手たちはヘトヘトになってしまうし、課題練習を行う体力も気力も奪ってしまうから」。
ミーティング後の時間の使い方についても、選手たちに任されていた。

全国の高校の約7割は普通科の学校であり、残りの約3割が工業、商業、農業など専門科をもつ学校である。
「工業高校ってどういうところ? 野球との両立はどうしてるの?」
という素朴な疑問に答えるべく、美里工業野球部ではTwitterやFacebookなどのSNSを使って情報発信を積極的に行っている。中には沖縄とは縁もゆかりもない選手が、本島から「美里工業で野球がやりたい」と入学を希望する選手もいるという。
1年生の岡本恭輔選手もその一人である。「工業高校で専門的な知識や技術を身につけたいと考えていた。美里工業は文武両道を掲げて活動していることを知り、ここで野球をやりたいと思うようになった」という。
2年生の稲本嵐選手は中学時代に指導を受けたコーチが神谷監督の教え子であったこともあり、ぜひ美里工業で野球をやりたいと千葉から沖縄にやってきた。入学当初の寂しさや不安はなくなり、今はメンバー入りを目指して実践練習を積み重ねている。「この数ヶ月で非常に頼もしくなった選手の一人です」と神谷監督も期待を寄せる。

選手たちとの連絡にはグループLINEを活用する。部員全員のグループLINEでは報告のほかに神谷監督から参考になる動画や、名言などが送られてくることもあるという。また学年ごとのグループLINEでは野球ノートとしても活用している。選手たちは今日一日の反省や課題、体重や食べたものの記録などを書き込んで報告している。
「こういう時代だから、選手たちが手軽に負担なく続けられるものを活用していけばいい」。
コミュニケーションの取り方も時代とともに変化しているが、神谷監督のまなざしは選手一人ひとりに注がれていた。「毎日グランドにいて、選手たちの成長を見るのが何よりも楽しい」と神谷監督は話す。

オフシーズンが終わってしまうとどうしても全員が同じように練習をすることがむずかしくなるため、この時期に多く実践練習を積む美里工業。「今が一番楽しいかも」という言葉の裏には大所帯ならではの葛藤も垣間見える。春に新たな新入部員が加わると部員数は100名は優に超えるというが、それでも「美里工業で野球がやりたい、このチームで甲子園に行きたい」という選手たちの思いを叶えるべく、オフシーズンで一気呵成にレベルアップを目指す。美里工業のシーズンインが今から待ち遠しい。(取材・写真:西村典子)