【星稜】林監督が大事にしている「選手との距離感、雰囲気作り」
大事にしている「選手との距離感、雰囲気作り」
79年の夏の箕島との延長18回の激闘や、92年夏の松井秀喜選手の5連続敬遠など、甲子園で伝説と呼ばれる数々の名勝負を演じてきた星稜。そして今夏。2回戦で済美と延長13回タイブレークから逆転サヨナラ満塁弾を浴び11—13で敗れた。あまりにも劇的な幕切れだったが、星稜からすれば一時は大量リードを奪っていただけに、悔しい終戦だった。
そのメンバーを多く残しスタートした新チームは、秋の県大会を圧倒的なスコアで勝ち上がり優勝。これで昨秋、今春、今夏に続いて県大会4連覇を果たした。だが、チーム内には勝ち続けることで「もっと強くなりたい」という意識が一層深まっているという。

就任して今年で8年目になる林和成監督は、同校OBで2年生の夏の甲子園で松井秀喜選手と三遊間を組んだ経歴を持つ。日本大に進み、卒業後母校へコーチとして戻った。星稜と言えば甲子園で22勝を挙げた名将・山下智茂監督(現名誉監督)がこれまでの礎を築いてきたが、林監督の指導も山下総監督の教えがベースとなっている。
「自分は山下先生のもとで育ってきた人間なので、山下先生のモットーだった“耐えて勝つ”という言葉が根本的なところにあります。今の子たちは我々とは世代も社会構図も違うので、何もかも手に入りやすい時代で育ってきているので我慢する機会が少ない。だから、野球を通じて我慢することや耐えることを学ばせてあげたいと思っています」。
大学を出てすぐにコーチとして指導に携わった。だが、その時期も含め部長も務めた約10年間はなかなか結果が出なかった。
「あの頃は結果を求めすぎて練習で力を出し切らせていました。でも、それでは試合で結果が出ない。余力を残して練習を終わらせると選手たちは自分たちで考えて室内練習場に行って個人練習していたので、そういう風に好きなように練習させた方が効果的なのかなと思いました」。
やみくもに練習を押し付けるのではなく、選手との距離感、雰囲気作りが大事だと考え、彼らが約3年間、やりやすい環境をどう整えてあげるべきか。軌道を作れば選手たちは乗ってきてくれると思い、その“道づくり”に奔走した。怒る時は怒る。野球の厳しさも教えつつ、怒り方にも気を配り会話も多くしながらコミュニケーションを取るようにしている。
経験者がいても勝てるとは限らない
練習は授業を終えた3時半ごろからスタート。グラウンドは学校から自転車で5分ほどのところにある。ただ、近隣に住宅地などがあるため、夜間照明などの兼ね合いで夜遅くまでの練習はできない。夏場など日が長い時期は日没後の20時近くまで練習できるが、この時期は19時前には全体練習を終えることになる。テスト前等も練習時間の規制があり、冬場は積雪で外では練習できないため、校舎近くの室内練習場で体を動かす。

「全国の私学に比べると、練習時間は短い方だと思います。平日はだいたい3時間くらい。バッティング練習がメインになりますが、守備も含めて実戦練習を多く取り入れています。効率を上げるために、バッティング練習をしながら走者をつけたり守ったり、色んなことを同時進行させます。大会が近くなればなるほど、実戦練習は多くなります」(林監督)。
なおかつ、日本海側は天気が急変することが多く、天気予報は晴れでも突然雨に見舞われることもある。そのため空を見ながら進行状況を見てメニューをこなしていく。
「前チームの経験者が何人かはいましたが、力的に見てもそこまで評判が高いチームではなかったんです。でも前チームは今まで見てきた中で一番伸びました。3年生は貪欲さがすごくありましたが、上手い子が多かった訳ではなく1、2年生の台頭で火がついたところもありますね。何より、センバツの経験が大きかったです。準々決勝で負けて、またここに帰って来なきゃという思いが強くなったと思います」。
“捲土重来”というテーマを掲げてスタートしたが、秋から順風満帆で夏まで駆け抜けられた訳ではない。昨秋はケガを負ったキャプテンの竹谷理央抜きで県大会を制し、北信越大会は当時1年生の奥川恭伸が台頭。だが、打撃が振るわず冬場は打撃強化を課題に挙げ、パワーアップを図った。そして決して前評判が高くなかったセンバツで2勝したことでもっと勝ちたいと思うようになった。「彼らの薬は勝ったこと」と指揮官。ベスト8で気が緩むのではなく、さらに高みを見つめるようになった。

そして今夏の県大会。5試合で53得点を叩き出し、全試合完封勝ち。まったくスキのない試合運びで県を制した。こういうケースを見ると、高校生ののびしろは無限大だということをあらためて痛感する。ただ、現チームを預かる上で林監督が危惧していることがある。
「17年のチームも戦力が多く残っていて注目していただいたのですが、春の北信越大会こそ勝てたけれど、県では秋も春も夏も勝てなかったんです。経験者がいても勝てるとは限らないと分かりました」。
注目されればされるほど、力を発揮させることの難しさを感じた。それだけに、指導者としてどんな環境で選手をプレーさせてあげられるか。雰囲気作りから一層気を配っている。
「あの経験を生かすも殺すもこの秋です。かなり研究もされると思いますし、厳しい戦いにもなると思います」(林監督)。
迎える秋の北信越大会。「県大会のように圧倒的に勝っていきたいけれど、野球は何が起こるか分からないので、1球1球を大事に戦いたい」と山瀬慎之助主将。あの悔しさを知るナインたちは誰にも負けない秋、そして来年の戦いを見据えている。(取材・写真:沢井史)