【小山台】技術もコミュニケーションも深める「野球日誌」
今年夏の東東京大会で69年ぶりとなる決勝進出を果たした都立小山台高校。決勝戦では惜しくも二松学舎大付に敗れ、夏の甲子園初出場はならなかったものの、2014年の選抜では21世紀枠で出場を果たすなど、近年安定した成績を残し続けている。そんな小山台高校の9月の練習を取材した。
小山台高校は東急目黒線、武蔵小山駅の改札から隣接したところに校舎があり、学校のホームページにも『武蔵小山駅の改札口から校門まで徒歩0分!(1分かかりません)「日本一駅から近い学校」と言われるほど、駅からのアクセスが良いです』と書かれているほど、駅に近い学校だ。
チームを指揮するのは長年多くの都立高校を指導してきたベテランの福嶋正信監督。前任の江戸川高校でも2001年夏の東東京大会でベスト4に進出するなど、都内でも有名な指導者である。そんな福嶋監督が重視しているのがノートを使った指導だ。野球ノートを使っているチームは少なくないが、小山台の特徴は普段の生活や練習に関する『野球日誌』だけでなく、技術指導においてもノートを活用している点だろう。

「前任の江戸川の時に画像を簡単に加工できるソフトを導入して、小山台でもそれを使っています。これのいいところは撮影した選手のフォームを簡単に連続写真にできるところ。映像だけだとどうしても流れてしまってポイントがよく分かりませんが、連続写真にすると動きや形がはっきりと分かるようになります。だからうちの選手達は自分のフォームの連続写真を全員が持っています。LINEでも送りますし、マネージャーや自分が印刷したものをノートに貼ってチェックしています。
自分だけのフォームだと分からない部分もありますから、参考にするプロ選手の連続写真も渡して、それと見比べたりすることも多いですね。その写真を選手たちが自分で解説して、どうすればいいかを考える。最初のうちはなかなか書けませんけどだんだんできるようになって、選手の方からこのプロ選手の写真が欲しいというリクエストも来るようになります」(福嶋監督)


そう話す福嶋監督は八代東(熊本)で一塁コーチとして夏の甲子園に出場しながらも、日本体育大では箱根駅伝出場を目指して陸上部に所属していたという高校野球の監督としては珍しい経歴の持ち主だ。大学では野球から離れていたこともあり、その分指導者となってからは技術的な勉強を欠かさなかったという。
「若い頃からとにかく色々な指導者の方の話を聞きに行くようにしていました。原貢さん(元三池工、東海大相模、東海大監督)の話が強く印象に残っていますが、バッティングでよく打てる選手は内転筋の形が共通しているんですね。そうやって技術のことを勉強して選手に伝えていくうちに結果も出てくるようになったと思います」
しかし小山台高校は都内でも有数の進学校。野球部員も勉強に追われる日々が続き、練習時間も長くとることができない。冒頭でも触れたようにグラウンドも都心のど真ん中で十分な広さはなく、他の部活との共有である。ただそんな中でも結果を残しているのには、全体練習以外の時間や選手同士でのコミュニケーションに秘密があるという。

「江戸川高校の時は結構遅くまで練習していましたが、小山台ではそういうわけにはいきません。ただ、普段の生活や勉強をしっかりすることが野球に繋がると考えていますから、選手には授業や学校行事は絶対に疎かにはしないように言っています。あとチームとしての力がついてきたのは、選手同士がお互いに技術的なことを教え合って、ブラッシュアップしていることが大きいと思いますね。こちらももちろんアドバイスはしませんが、選手を型にははめません。それぞれが参考になる選手やプレーを見つけて、選手同士でレベルアップしていっていると思います。
チームとしてもう一つの強みは選手も我々指導者も外部スタッフも含めてまとまりがあるところ。日誌も自分と選手だけがやりとりするのではなく、日誌担当がいて色んな選手同士で交換するようにしています。そうすることでお互いがどんなことを考えているか理解が深まると思うんですね。今年の3年生は40人いて25人はベンチに入れなかったんですが、選手ではなく裏方としてノックを打ったり記録を集計したり1年生を指導したりしている子も、本当にチームのために動いていました。そういうことが秋、春と勝てなかったチームが夏に勝てた理由だと思います」

普段の全体練習の時間は1時間半から2時間。週に1度は多摩川のグラウンドを使っているが、それ以外は共用グラウンドでの練習であり、雨の日も空いているスペースを使って練習しているという。そんな時間や場所に制限された環境であるが、選手たちは自宅でも個人練習に取り組んでいるという。また、少しでも時間を無駄にしないために、その日の練習メニューは事前に野球部のLINEグループに送られ、事前に準備も完了している。この日もバッティング、守備、ピッチング、トレーニングなどのメニューが分刻みで行われていた。
限られた環境でもそれを言い訳にせずに、あらゆる手段を使って技術の向上とコミュニケーションの活性化にチームが一体となって取り組んでいるからこそ、ここまで安定した成績を残すことができたるのだろう。この秋の新チームもブロック予選を突破し、見事に都大会の出場を決めた。今後も小山台の戦いぶりにぜひ注目してもらいたい。(取材:西尾典文、写真:広瀬久哉)