【健大高崎】キツさの中にも笑顔あり!ハードなサーキットトレーニング
早朝5時半からスタートした健大高崎のトレーニング合宿。ランニング、朝食、メンタルトレーニング、ストレッチ、昼食と進み、午後からは本格的なトレーニングが実施された。内容は三班に分かれ、一班はウエイト、一班はランメニュー、一班はサーキットトレーニングというもの。ここでは主にサーキットトレーニングについて紹介する。
ハンマーとタイヤを使ったトレーニング
サーキットトレーニング、一つ目のメニューは地面に置いたタイヤをハンマーで上から振り下ろして叩くもの。健大高崎と同じく塚原謙太郎トレーナーがトレーニングを指導している2017年夏の甲子園優勝校である花咲徳栄が行っていたことで全国的にも有名になったトレーニングだ。
ただ叩くだけでなく、「チャリン!」というきれいな音が出ないといけないというのがポイント。きれいな音を出すためにはタイヤに対してハンマーの面が水平に入る必要があり、そのようにたたくにはしっかりと全身、下半身を使ってリズム良くハンマーを振り下ろす必要がある。下半身や体幹が疲れて腕だけで振り下ろすとハンマーが斜めにタイヤに接するためきれいな音が出ないのだ。
そしてもう一つはハンマーを押し込むための握力。タイヤの反動にしっかり負けずに押し込むことで握力強化に繋がっているという。これをきれいな音が出るのを15回というのが1セットだ。
ハンマーでたたく以外にもタイヤは活用されている。ブロックとタイヤを重ねて胸くらいの高さの土台を作り、ベンチから降りる反動を利用してその上に飛び乗るというものだ。
上手く飛ばないと勢いがつかず、跳び箱で失敗したような体勢になってしまう。そうならないためには瞬発力だけでなく、タイミングが重要になってくる。投げる動きも打つ動きも足が地面に接地して、そこから大きな力を生み出すことが重要だが、そのような動きにとってプラスになるトレーニングだという。全身の使い方、バランス感覚も重要だ。
その他のトレーニング
バランス良く全身、体幹を鍛えるためのトレーニングがウォーターバッグを抱えてベンチの上で片足でジャンプするというものも行われていた。
ただ重いものを抱えるだけでもトレーニングになるが、動くことで前後、左右に重心が変わる不安定なウォーターバッグを使うことでより体幹を鍛える効果がアップするのだという。体幹がぶれてウォーターバッグが傾くと真っ直ぐ上にジャンプすることができなくなるため、自ずと姿勢は良くならざるを得ない。回数を重ねるごとに上半身を安定させようとして、徐々に厳しい表情になる選手の様子からその辛さが伝わってきた。
長さ約2メートル、重さ約20kgの鉄の中に砂とコンクリートを詰めた棒を使ったメニューは二つ。一つは頭の後ろに担いで行うスクワット。これも姿勢を崩さず、またジャンプするようでせずにつま先で立つように持ち上げるところがポイントだ。そうすることで体幹と股関節を鍛える効果になるという。もう一つは体の前に立てて、左右にサイドステップを踏みながら体操の“伸脚”の姿勢を繰り返すというもの。何も持たずにこの動きを行うだけでも大変だが、重さと長さのある鉄の棒を使うことで更にその負荷は大きくなる。
またランニングメニューはグラウンドの脇にある坂道を使って跳躍を繰り返すものや、グラウンドを横切る長い距離をストライドを意識しながら走るものなどが行われていた。
ここでも塚原トレーナーが盛んに言っていたのがストレッチと同様に、トレーニング及び走る時の姿勢だ。どこを鍛えているのか、どの筋肉、関節を使っているのかということをしっかり意識させるためにも姿勢は非常に重要だという。これはトレーニングに限らず、普段の生活でも意識すべきことではないだろうか。
健大高崎野球部データファクトリー
健大高崎は多くのデータを取ることでも有名だ。データの分析、監修を担当するのは選手寮「第二健心館」の舎監も務める葛原美峰アナリスト。「健大高崎野球部データファクトリー」と名付けられた冊子にはAチームだけでなくBチーム、Cチームの全試合から得られたデータが打率、防御率などの一般的なものから、セイバーメトリクスの指標まで事細かくまとめられている。
データの入力についてはマネージャーが日々行い、集計については「(Excelの)マクロを組んであるからそんなにかかりませんよ」と話す葛原アナリストだが、そのデータから読み取れる考察についてもかなりの文量になる。また選手の打つ形の画像や、野球の歴史、ルールなどデータ以外にも内容は多岐に及び、年々厚さが増しているそうだ。またこの冊子は全選手の保護者にも配られ、保護者の感想を書くための用紙もついておりそれについても回収してまとめているという。県外など遠くから入学、入寮している選手も多いが、その様子が膨大なデータとともにしっかりとした形で提示されることは、保護者にとっても非常にありがたいことだろう。
前編の冒頭で青栁博文監督が語ったように良さそうなものは全て取り入れ、環境面も学校と一体になって整備し、綿密なデータ収集を行ったうえで科学的なトレーニングを行う。そのような姿勢はまさに現代高校野球の最先端と呼べるものではないだろうか。近年関東、全国でも安定した成績を残し続ける健大高崎の強さの秘訣が垣間見えるトレーニング合宿の風景だった。(取材・動画:西尾典文/写真:編集部)