【二松学舎大附】鍛えるのは頭、効果を実感するトレーニングメニュー
東京の千代田区九段南に校舎を構える二松学舎大附だが、野球部のグラウンドは千葉県柏市の二松学舎大学キャンパス内にある。キャンパス内には選手が寝泊まりする寮や、人工芝グラウンド、トレーニング機材が設置されたウエイトルームなどが完備されている。活気あふれる2月のオフ練習の一部を紹介する
オフは守備練習に時間を割く
寮と校舎が離れているため、選手たちは朝5時20分に起床し、寮からバスで柏駅まで移動。その後電車を乗り継いで九段下の校舎まで登校する。授業を終えたら再度グラウンドに戻り、夜遅くまで練習に励むハードな生活を送っている。移動時間が長いため、自ずと練習時間は限られるが「特別変わった練習はしていません」と市原勝人監督は言う。
「高校野球をシンプルに考えれば、勝敗を左右するミスを極力減すことに繋がります。失点に繋がるバント守備や、ミスが起きやすい挟殺プレーを繰り返し練習することが大事ですね。スローイングに関しても無理な体勢で投げるのではなく、しっかりステップしてスローイングをする重要性を教えています。
東京は人工芝の球場で試合が行われるため、ゴロ捕球におけるイレギュラーが起きにくいです。グローブで上手く捕球できなくても身体に当てて前に落とす。そこから慌てずにスローイングできればアウトになりますから」。
市原監督が言うように、取材当日の午後練習は守備練習に多くの時間が割かれ、中でもケースノックは入念に行われていた。捕手が大声で「ワンアウト! 1.2塁!!」と状況を説明し、内外野の的確な判断力と守備の連携を高める。
「グラウンドにいる選手全員の守備能力を高めるだけではなく、ランナーの選手は実践を想定した走塁能力を高めることができます。何時間も行うので、走り込みの練習にもなりますね。ミスをした選手にはチームメイトが直接『こうした方が良いと思う』などアドバイスを送ります」と立野淳平部長が教えてくれた。
ポジションごとで課題を確かめ合うシーンも多く、普段の生活だけではなく、グラウンドの中でも選手同士の距離が近いと感じた。お互いを高め合う競争意識がチームには根づいているのだろう。
投手の調整は本人に任せる
投手陣は昨夏甲子園のマウンドを経験した海老原凪や、東東京予選では最多のイニングを投げた大庭颯仁がいるためレベルは非常に高い。オフは特に投げ込みやフォーム作りに余念がないのだろう、と思いきや市原監督からは意外な答えが返ってきた。
「投げ込みを強制することは一切ありません。フォームに関しても『インステップでボールがシュート回転している』のように誰が見ても直した方がいい部分は直しますが『こういう風に投げなさい』と指導することはないです。僕も投手を経験したからわかるのですが、指導者がやみ雲に選手をいじると、投げている本人が自分の良さを見失ってしまうことがあるんですよ」。
オフに走り込みや、タイヤ押しといった投手陣のメニューはあるが、ブルペンに入る日も球数も選手が自分自身で決めるという。やらされる練習ではなく、選手が自ら進んでやる練習の方が大切だと市原監督は続ける。
「自分で考えて投げることで覚えることが沢山あります。調整方法もこちらが指示をするのではなく、自分に合った調整方法を見つけた方がいい。大江(巨人)は1日200~300球数投げる時もありました。ただ、ケガをすることはありませんでした。指導者が球数を指定すると選手は痛いのに投げてしまうものです。痛いまま投げたらピッチングが楽しくなくなってしまいます。自分の気持ちが乗ってくれば自然と球数を投げるようになりますよ」。
トレーニングの工夫でケガ人減少
上半身と下半身を1日ずつ交互に鍛えるウエイトトレーニングの合間には必ずマシンを使ってストレッチを行う。約2年前に4台導入された最新のマシンのおかげでケガ人の数が一気に減少したという。
「ウエイトトレーニングはオフだからといって重点的に鍛えているのではなく、身体づくりとして年間を通して行っています。このストレッチも同じですね。特に投手はウエイトトレーニングの影響で可動域が狭くなってしまっては良くないので、身体の柔軟性を高めたり、筋肉をほぐすようなトレーニングは効果的だと思います。導入してから投手で肩や肘を痛めた選手は誰もいません」。
インナーマッスルに刺激を与えながら、関節可動域(動かせる範囲)を広げる構造になっているという。選手からも好評で、キツいというより筋肉がほぐれて気持ちいい感覚だそうだ。
二松学舎大附は土曜日も授業があるため、他チームに比べて貴重な1日練習の数は少ない。だが、効率性を重視したトレーニングと指導で肉体と頭脳を満遍なく鍛えていたのが印象的だった。(取材・写真/細川良介)