少年野球の球数制限、投げすぎに潜むリスクとは?(前編)

高校野球では投げすぎによるケガを予防するために、投球制限を含めたさまざまな議論がなされています。成長期である少年野球の選手たちにとっては、投げすぎによるケガのリスクを今からしっかりと考えて準備することや、大人がルールなどを決めて投げすぎを未然に防ぐことが大切です。少年野球の選手たちにとって投げすぎはどのような影響を及ぼすのでしょうか。

正しいフォームを維持できない

正しいフォームで繰り返し投球動作を行っていても、疲労とともに投球フォームが崩れていくことが考えられます。
これは少年野球の選手でも、プロ野球選手でも同じことがいえます。
これは体力の違いによって現れるものですが、正しいフォームを維持できるだけの筋力や筋持久力、柔軟性、バランス能力などさまざまな体力要素によって、時間の経過とともにフォームが崩れていきます。
例えば投球肘がいつもより下がった状態で投げていると、肘の内側は引っ張られて痛みを覚えることがありますし、外側には強い圧迫力やひねりによるストレスがかかって軟骨などを痛めやすくなります。
成長期の選手はさらに骨や筋肉が成長過程にあるため、大人よりも物理的ストレスに弱いことがケガにつながります。

一人に大きな負担がかかりやすい

チーム事情に左右されることが大きいですが、試合が続く場合(一日2試合、土日の連投など)は一人の選手が毎試合投げ続けるといったことも想定されます。
投手はもちろんですが、投手のボールを受けてそれを返している捕手にも大きな負担がかかりやすくなります。
試合数が多くなるのであれば、より多くの選手に試合出場の機会を増やし、一人にかかる負担を軽減することが大切になってきます。
こうしたことからあえて投球制限を設けたり、運営方法の見直し(試合の日程やトーナメント戦、リーグ戦といった対戦方法など)を検討したりすることが話題になっていると考えられます。

スポーツドクターなどが所属する日本臨床スポーツ医学会では【青少年の野球障害に対する提言】として「全力投球数は、小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球をこえないこと。中学生では1日70球以内、週350球をこえないこと。」という見解を示しています(参考資料「青少年の野球障害に
対する提言」)。
個人の体力差にもよりますがケガをした選手たちを診察してきたスポーツドクターからの提言は、参考になる数値であるといえるでしょう。

投げすぎによるリスクを正しく理解してプレーすることが大切

「少年野球の球数制限、投げすぎに潜むリスクとは?(後編)」に続きます。

著者プロフィール

アスレティックトレーナーの西村典子さん

アスレティックトレーナー/西村典子(にしむらのりこ)
日本体育協会公認アスレティックトレーナー、NSCA-CSCS、 NSCA-CPT。東海大学スポーツ教育センター所属。高校、大学など学生スポーツを中心としたトレーナー活動を行う一方で、スポーツ傷害予防や応急処置、トレーニングやコンディショニングに関する教育啓蒙活動を行う。また一般を対象としたストレッチ講習会、トレーニング指導、小中学生を対象としたスポーツ教室でのウォームアップやクールダウンといったさまざまな年齢層への活動がある。一般雑誌、専門誌、ネットメディアなどでも取材・執筆活動中。
大阪府富田林市出身。奈良女子大学文学部教育学科体育学専攻卒。