少年野球の球数制限、投げすぎに潜むリスクとは?(後編)

高校野球では投げすぎによるケガを予防するために、投球制限を含めたさまざまな議論がなされています。成長期である少年野球の選手たちにとっては、投げすぎによるケガのリスクを今からしっかりと考えて準備することや、大人がルールなどを決めて投げすぎを未然に防ぐことが大切です。少年野球の選手たちにとって投げすぎはどのような影響を及ぼすのでしょうか。昨日に続く後編です。

少年野球の選手たちにとって、全力投球をある程度制限されるのは、これから続く野球のキャリアをケガなく過ごして欲しいという配慮から行われているものです。日本臨床スポーツ医学会が提言する「小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球をこえないこと。中学生では1日70球以内、週350球をこえないこと」という投球数の目安を理解しておきましょう。その上で「痛くなければ投げても大丈夫なのか?」という疑問について考えてみます。

*前編はこちら

痛みはケガの危険信号

目安となる投球数を超えても特に痛みを感じないので投げ続ける…といったことを繰り返していると、やはり肩や肘には大きな負担がかかり続けることになります。
痛みは炎症症状の一つですが、触ったときに熱さを感じる「熱感」もまた炎症症状の一つです。
投球後に肩や肘などを触ると熱さを感じることがあると思いますが、これもまた肩や肘に負担がかかっているサインです。
疲労が蓄積していくことを考えると、痛みがないからといって投げ続けるのはあまりよい状態とはいえません。
野球を長く続けるためにも、決められた回数や投球数などで交代し、肩・肘だけではなく下肢を含めた全体をしっかりとストレッチし、セルフケアをすることが大切になってきます。

アイシングが痛みをマスクする?

痛みがあるときや疲労が蓄積したときなどに、氷などを使って患部を冷やすアイシング(RICE処置)は応急手当の基本とされています。
炎症症状を抑えるために患部を冷却し、熱くなっている部位や痛みなどを抑える効果を期待しているものです。
しかし最近ではアイシングについても行うべきかどうかという議論がなされています。
アイシングに否定的な意見としては「アイシングを行ってしまうと、痛みがやわらいでしまう。その状態で投げ続けると、やがて組織そのものが傷んでしまう」というものです。
これをアイシングのマスク化ともいいますが、痛みを「マスク=隠す」ために多少傷んだ状態でも投げられてしまうことが問題であるとされています。
また未然にケガを防ぐためには整形外科などの医療機関を受診することが大切であるということも指摘しています。
「アイシングをして痛みがなくなったから、翌日も投げられる」というのではなく、アイシングで患部の炎症症状を抑え、このような状態が続く場合は早めに医師の診察を受けるようにすることが大切です。

アイシングに頼りすぎると痛みを隠してしまうので注意が必要です

著者プロフィール

アスレティックトレーナーの西村典子さん

アスレティックトレーナー/西村典子(にしむらのりこ)
日本体育協会公認アスレティックトレーナー、NSCA-CSCS、 NSCA-CPT。東海大学スポーツ教育センター所属。高校、大学など学生スポーツを中心としたトレーナー活動を行う一方で、スポーツ傷害予防や応急処置、トレーニングやコンディショニングに関する教育啓蒙活動を行う。また一般を対象としたストレッチ講習会、トレーニング指導、小中学生を対象としたスポーツ教室でのウォームアップやクールダウンといったさまざまな年齢層への活動がある。一般雑誌、専門誌、ネットメディアなどでも取材・執筆活動中。
大阪府富田林市出身。奈良女子大学文学部教育学科体育学専攻卒。