【富島】「4スタンス理論」で選手のタイプをしっかり把握

サーフィンの人気スポットとしても知られる宮崎県日向市。野球の世界では黒木知宏(元ロッテ・延岡学園出身)、青木宣親(ヤクルト・日向高校出身)の出身地だが、そんな日向市で近年躍進を遂げているのが宮崎県立富島高校だ。2009年秋から14季連続で県大会初戦敗退というチームだったが、2015年秋に県大会準優勝、2016年春には県大会優勝と着実に力をつけ、2017年秋の九州大会でも決勝に進出し、2018年のセンバツ出場を果たした。急激に力をつけた背景には何があるのか。富島高校の2月の練習を取材した。

食事、トレーニングでつけた体の力を効率良く発揮

2013年から富島高校を指導するのが濱田登監督。前任の宮崎商時代には2008年夏に赤川克紀投手(元ヤクルト)を擁して甲子園出場も果たしている。その濱田監督が宮崎商時代から力を入れているのが食事による体つくり。3年前には食事をテーマに取材をさせていただいたが、当時から比べてもマイナーチェンジを繰り返して取り組んでいるという。

「月に1回、保護者も集めての定例会があるのですが、その場は食事、お弁当のチェックに加えて保護者からの質問も受け付けるようにしました。選手を通してよりも、保護者から直接の方が伝わりやすいと思ってそうしています。あとは体重、何を食べたか、飲んだかという日々のチェックシートも副部長が担当になって行っています」

県立高校で全員が自宅から通い、学食もない富島では保護者の理解、協力は必要不可欠である。取材当日も数人の保護者が練習の見学に訪れていたが、選手だけでなく周囲も巻き込んでチームのレベルアップに取り組んでいるところは他の公立高校でも参考になるだろう。

ただもちろん体が大きくなっただけで勝てるほど野球は簡単なものではない。技術面においてもきちんとした裏付けに基づいた取り組みを実践しているという。その取り組みの一つが「4スタンス理論」だ。4スタンス理論とは足のどこに自然と重心をかけているかによって下記の4タイプに分けられるというものである。

理論についての詳細は割愛するが、このタイプによって適した体の動かし方が異なっており、野球のプレーにおいてもそれぞれ違ってくるというものだ。この4スタンス理論を取り入れようと思うようになったきっかけについて濱田監督は次のように話した。

「西日本短大付が甲子園優勝した時の監督で延岡学園でも監督をされていた浜崎(満重)さんにお話を聞いた時に『ジグザグ打線の意味が分かるか?』と言われたんですね。
単純に左右の打者をジグザグに並べるだけと思っていましたがそうじゃない。前でさばくタイプと後ろに残して打つタイプの打者を交互に並べるのがジグザグ打線だというんですね。確かに同じ打ち方、同じタイプの打者が揃うと上手くはまる時はみんな打ちますけど、はまらない時は全員打てなくなる。そうならないためにも選手のタイプをしっかり把握することは重要だと思いました。だからうちはタイプに合わせて打撃も守備も体の使い方を変えるようにしています」

富島の選手達は入学した後に専門家の指導によってタイプを知り、それがすぐ分かるようにA1からB2までの4種類の文字がユニフォームに書くようにしているという。食事、トレーニングでつけた体の力を効率良く発揮するための取り組みと言えるだろう。

ストップウオッチを使った守備練習

取材当日は午前中だけ市内の野球場を借りられたとのことで、2月だが実戦的な練習が中心で、ここでも面白い取り組みが見られた。その様子がよく分かったのが走者をつけてのケースノックおよび走塁練習だ。ホームベースから一塁ベースの間にストップウォッチを持った選手が3人控えており、打者走者のベースまでの到達タイム、フライの場合は滞空時間、外野に抜けた打球の場合は捕球してから返球するまでの時間などあらゆるタイムを測定し、1プレーが終わるたびにその数字を全員に伝えているのだ。
またそれだけでなく、外野手がフライに届かなかったケースなどは、メジャーでベースからの距離を測るような光景も見られた。この練習で主に指示を出していたのが中川清治コーチだ。中川コーチがこのタイム、距離を計っての練習の狙いをこう話した。

「フライの場合、捕球できるタイムの目安を決めています。そうすることでその打球がヒットになった責任が明確になりますよね。距離を測るのも同様です。ベースから何メートルまではそのポジションのエリア、ということを明確にすることが目的です。そうすることでグラウンドの隙間を埋めるという意識がはっきりする。またランナーをつけてのノックは守備、走塁の練習ですけど同時に打撃にも生きてきます。こういう場面ではどこに打つと相手は守りづらいのか。そういうことも常に考えさせています」

具体的なタイム、距離は「企業秘密」とのことだが、いずれも基準が定められていることで、選手にとっては成功と失敗が分かりやすくなることは間違いないだろう。またノック自体も「●秒(数字は企業秘密)のフライを打ってください」と中川コーチから指定が入る場合もあり、この日ノッカーをつとめた古川和樹副部長も「監督や中川コーチの求めるレベルにまだまだ達していないです」と話していたが、指導者側も高いレベルが求められる練習と言えるだろう。
また、この練習では濱田監督は実戦と同様にサインを出し、それを見て古川副部長がノックを打ち、選手達も動いていた。九州地区は3月下旬には春季大会の公式戦が行われることもあり、2月中旬からこのようにして実戦感覚を養うようにしているそうだ。

昨年出場したセンバツではミスから初戦で星稜(石川)に大敗を喫し、全国でも勝てるチームを目標に取り組んでいるとのことだが、その意識が強く感じられる富島の2月の練習風景だった。(取材・写真:西尾典文)