【高校球児のための大学野球部ガイド】東京大学硬式野球部を紹介!

日本でも最も古い歴史を持つ大学野球チームの一つである東京大学(以下東大)硬式野球部。東京六大学リーグでは全国から有望な選手が集まる他大学の前に2010年秋から2015年春にかけては94連敗を喫するなど苦しい戦いが続いていた。しかしその後は2016年春には3勝、2017年秋には15年ぶりに勝ち点を獲得するなど善戦を見せている。選手の高校時代の実績などでは大きく劣りながらも、全国トップレベルのチームを相手にどのようにして戦っているのか。そのヒントを探るべく浜田一志監督にお話を聞いた。

受験勉強で鍛えられたゴール設定と戦略の立て方

――他の大学は高校時代から有望な選手が揃い、一方で東大は厳しい受験勉強をクリアした限られた選手しか入学できない。個人の力の差はかなり大きいと思いますが、そんな中でどう戦っていこうという風にお考えですか?
浜田監督「その年の戦力によっても違いますが、やはり優先しているのは守備力です。力が劣る戦力で勝つためには自滅をしないということと、長打を打てるのが必要条件です。高校野球を見ていてもコールド負けするようなケースでも、3回くらいまでは接戦ということが多いです。その後に打者が一回りして投手が慣れられて打たれるパターンと、エラーから自滅してビッグイニングを作られて相手が伸び伸びと野球をやって、あれよあれよという間に点差が開くパターンがあります。

後者の方を防ぐためには何が必要か? それは(投手も含めた守備の)安定性です。そして安定性を手に入れるためにはどうすれば良いかというと反復練習です。同じことを繰り返すことで安定性が増します。同じことを繰り返すためには何が必要か? それは体力です。例えば野手が壁当てして捕球練習を100回やって下半身がガクガクになる選手と500回できる選手では、500回できる選手の方が動作は安定します。体力トレーニングをする目的はそこにあると思います」

――一方で長打力という話ですが、その目的と方法としてはどうでしょう?
浜田監督「どんな一流のピッチャーでも怖いのは『ひょっとしたら』という感覚だと思います。ピッチャーが一番嫌なのはホームランを打たれることです。芯でとらえても外野の頭を超えないような選手は全く怖くないですよね。芯で当たったらひょっとしたらホームランにはるかも、と思わせるだけのオーラが出せるだけでも違うと思います。

長打を打つためにはインパクトの後の最後の押し込みが必要です。そのためにはやはりパワー、ウエイトトレーニングになりますね。鍛えてもなかなか難しいのがセンスと言われる部分です。グラブさばきやミートのセンス。あとは試合勘のようなものはなかなか大学生から練習で身につけるのは難しいです。でもトレーニングで力をつけて相手投手に『ひょっとしたら』と思わせることは可能です。そうすることで一流の投手であっても、プレッシャーを感じて力を出せないような状態に持っていく、そういう意味での長打力ですね」

――2017年秋にはリーグでも3位の8本塁打が出るなど、そういう意味では長打の面でも監督の狙った効果は出てきていますね。
浜田監督「トレーニングでパワーをつけたというのが一番目にあります。あとは相手投手と捕手の研究、分析も大きいと思います。分析リーダーは決めていますが班にはしておらず、全員が分析するようにしています。今は全員がノートパソコンを持っていて映像もデータも見ることができますから。分析と言っても難しいことばかりではなくて、相手投手の映像をジーっと見ているだけでも大きいです。勉強に例えると教科書は開いて、試験範囲は分かっている状態ですね。勉強ができない子はまず教科書のどこが試験範囲かも知らないことが多いですから。じっくり投手を見て、どんな投手かイメージできているだけでかなり違うと思います。だから控えメンバーだけではなく、レギュラーの選手も一緒に分析にかかわるようにしています。

高校球児にアドバイスするとすれば、高校野球の場合はキャッチャーの癖に関しては監督さんの癖が出ることが多いですね。どういうパターンで攻めてくるかは監督が指示していることも多いので、そういうことをつかむことは重要だと思います」

――厳しい受験勉強を勝ち抜いて入学してくるわけなので、最初は体力的に落ちている選手もやはり多いですか?
浜田監督「うちの野球部は2/3は浪人生なのでそれはありますね。入部して最初の1か月はリハビリですね。リハビリ、トレーニングを経て野球をするというイメージです。
高校生はまだ体が成長期で細胞分裂しているので再生も早いですけど、大学生で20歳くらいになると成長期は終わっています。だから少し再生には時間がかかりますけど、体ができている分、負荷をかけると筋肉が大きくなりやすいというのはあります」

――他の大学に比べて東大野球部の強みと言えるような部分はどこになりますか?
浜田監督「ゴールの設定とそれに対する戦略の立て方というのは上手いと思います。受験勉強でそういうことを経験してきていますから、野球にも応用が利く部分も多いですね」

野球も勉強も懸命に取り組んだ高校生は、東大野球部の門をたたいてもらいたい

――監督から高校生に対して、高校の間にこういうことをやっておいた方がいいというアドバイスはありますか?
浜田監督「一番は食事をしっかり摂ることですね。食が細い選手は大学に来てからも伸びるのが遅いです。高校のうちから食事もトレーニング、野球の一部だという意識を持ってほしいです。
しっかり食べて負荷をかけて体を大きくして体力をつける。大学生も高校生も技術の練習は楽しいから進んでやるのですが、食事やトレーニングはきついのでなかなか進んでやらないんですよね。先ほども話しましたが、技術を伸ばすためには体力が必要ですから。そのためにもまずはしっかり食べて体力をつけることを意識してほしいですね」

――高校球児に対して野球と勉強の両立という点でのアドバイスはいかがでしょう?
浜田監督「まず食べる話をしましたけど、勉強でも脳でカロリーを使います。一日フルに勉強したら500キロカロリーくらい消費してお腹が減るものです。だから勉強した後にお腹が減っていなければ大して頭を使っていないということだと思います(笑)。

あと両立という意味ではポイントは部活をやっている期間にあります。高校1年春から3年の夏までの2年半の間にどれだけ勉強する習慣をつけられるか。野球をやっている期間は疲れるので毎日全教科勉強することは難しいです。そんな中でも両立できる子の特徴は疲れているときでも集中できる好きな科目を持っています。数学が好きな子は疲れていても問題集を1ページ解いてから寝たりします。それが苦手な教科をやろうとするとすぐ寝てしまう。だから一つでもいいので、疲れていてもできる強みの科目を作ることは重要ですね。それが勉強する習慣に繋がっていくと思います」

――高校球児に対して大学野球を続けるとこんないいことがあるよ、ということがあればお願いします。
浜田監督「僕は大学に行くことの最大の目的は多様性の中に身を置くことだと思います。大学の4年間でアイデンティティを形成する。そう考えた時に一つの学部、学科の中にいるのはもったいないと思います。野球に限らずですが、部活に参加することで色んな学部と横の繋がりや先輩、後輩という縦の繋がりもできます。そうすることでアイデンティティの形成には凄く役に立つと思います。

あとは“部活”という環境はやっぱり本気でやることに意味があります。本気で取り組むから失敗経験も本気で自分に降りかかる。そういう経験をすることで社会に出た時に通用しやすくなります。遊びでの成功、失敗というのは社会に出てからの経験と大きく差がありますから。卒業後、大学での経験が本当に糧になりますね」

――合格するのはなかなか難しいですが東大野球部の良さ、東大で野球をすることの意義についてもお願いします。
浜田監督「先ほど多様性というお話をしましたけど、東大は多様性の最高峰だと思っています。学問のレベルでもそうですし、卒業後に社会に出て活躍する人も多い。そんな中に身を置いて本気で野球に取り組むということは意義があると思います。

あとはやはり伝統があるというプライドですよね。明治4年に野球を始めたという日本野球の開祖であり、天皇杯をいただいている東京六大学の一員である。そして文武両道の最高峰である。この三つのプライドが、我々が持っているもので、他にはないものだと思います。高校3年間、野球も勉強も懸命に取り組んだという高校生はぜひ東大野球部の門をたたいてもらいたいですね」

高校生へのアドバイスという話になった時に、「まずしっかり食べること」というのは少し意外な回答だったが、それも体を作り、体力をつけることが技術の向上に繋がり、強い相手を倒す手段に繋がっているというのは非常に分かりやすい話だった。
また、大学で野球をやることの意義、野球と勉強の両立という意味でも現役の高校球児には参考になることが多かったはずだ。この話を聞いて、一人でも多く東大野球部にチャレンジして、神宮を沸かせる日本最高峰の文武両道の選手が出てくることを期待したい。(取材:西尾典文/写真:編集部)

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