子どもたちの笑顔と野球の未来のために。奮闘した高校球児コンシェルジュ
「北信野球の日」と銘打った子ども向けの野球体験イベントが12月1日、長野市の長野オリンピックスタジアムで行われた。好天に恵まれ、小さな子供連れの家族ら約1300人が訪れ、高校球児たちが案内役の「コンシェルジュ」となってもてなした。
北信は長野県を4つに分けた北のエリアで、県庁所在地の長野市も含まれる。長野県内の小中高校の野球人口はここ10年ほどで3割程度減少しており、北信地区も同様の傾向にある。これに危機感を持った同地区の中学、高校の20~30代の若手指導者が中心となり、「野球をやったことのない子どもたちが野球に触れる機会になれば」と、2017年から始めたのがこのイベントだ。
長野オリンピックスタジアム(以下オリスタ)は、1998年の長野五輪の開閉会式会場として使われた施設(その後改修)。全面人工芝張りで、プロ野球オールスターゲームも行われるなど県内で屈指の好球場でもある。

北信野球の日では、あこがれの施設のフィールドを開放し、ストラックアウトやスピードガン測定、軟らかいボールを使ったティーバッティングコンテストなどさまざまなアトラクションが設けられる。それを野球未経験の小さな子どもたちや野球少年たちが回る趣向。ポイントはその子どもたちを中学高校の野球部員たちが、案内することだ。
「相手の立場に立ったり、相手のことを思ったりすることは簡単にできることではない。小さな子どもたちと触れ合うことで、思春期の男の子たちが大人になっていく一歩になればいい」。同イベントの発起人の一人で、長野西高校野球部監督の大槻寛教諭はこう願っている。
コンシェルジュの高校生たちは、膝を着くなどして目線を子どもたちに合わせ、そのプレーに「いいね」「うまいよ」と乗せたりハイタッチをしたり、時には手をつないで引率したり、ほほ笑ましい光景が会場に広がっている。

小学3年生の男の子(中野市)は「(高校生と)キャッチボールしたり打ったりして楽しかった。野球をやりたくなった」と笑顔だった。6歳と8歳の息子と参加した長野市内の母親は「ボール遊びの延長で野球ができるのがいい」。野球に興味がある小学1年生の息子と来た長野市内の母親も「高校生にちょっと教えてもらったらうまくできるようになった。〝お兄ちゃん〟の言うことは素直に聞きますね」と感心していた。

3回目の今回は趣向が少し変わり、オリスタ会場は野球未経験者を対象にして、20校約380人の高校球児がコンシェルジュとなって奮闘した。長野西高の久保田創太君(1年)は「僕も小さいころに褒めてもらえてうれしかったので、子どものことをできるだけ褒めた」と気遣った。根気よくキャッチボールの相手をした長野工高の中田拓久斗君(2年)は「子どもが捕りやすいように下から投げてあげた。野球の楽しさを感じてもらえたらうれしい」。長野商高の和田高陽君(2年)は投げ方などもアドバイスし「子どもがうまくなったら楽しそうで、こちらもうれしい。僕も野球を始めたころのわくわくした気持ちになれて原点に帰れた」と笑顔を見せた。

これまでも主催者や参加高校に「高校生のおかげで楽しくできた」「〇〇高校を応援しています」などの感謝や応援のメッセージが電話や手紙などで寄せられている。
実行委員長の齋藤貴弘・篠ノ井西中学校教諭(主催の県青少年野球協議会北信地区協議会地区長)は「何といっても高校生はあこがれの立場で、目標になる。高校生たちもこの機会を通してそう自覚し、日ごろの生活に臨むことができる」とその貢献度に感謝している。(取材・写真:小池剛)