高校クロスカントリー走のシーズン終了。改めて考える高校生が走る意味
11月中旬の土曜日、高校クロスカントリー走のカリフォルニア南地区決勝大会がリバーサイドで行われた。地域リーグと予選大会を勝ち抜いてきた24の高校チームが州大会出場をかけて競ったこの大会で、息子が所属する高校は10位に終わり、上位7位までに与えられる州大会(*)への切符を今年は惜しくも逃した。最終学年の息子にとっては、これが高校生活最後のレースとなった。ぼくは最近トシのせいか涙腺がとても緩いので、泣いてもばれないようにサングラスをかけて応援した。声援が泣き声になっていたら意味はないけど。
* 昨年の州大会の様子:
息子のレースに帯同して感じた“アメリカらしい”ランニングカルチャー – RuntripMagazine[ラントリップマガジン] |
これまでにも何回も書いてきたことだけど、ぼくは息子とは別の高校でクロスカントリー走部の監督をしている。その高校はとっくの昔に地域リーグで敗退しているので、夏休みの朝練習から始まったクロスカントリー走のシーズンが親子ともども終わったことになる。
全米最速高校ランナーも出場。ハイレベルの地区大会。
クロスカントリー走は全米で広く行われているけど、カリフォルニア州は最もレベルが高い州の1つだ。気候が温暖で雨が少ないので、1年中走れるからかもしれない。あるいは、単に人口が多いからかもしれない。そして、そのカリフォルニア州の中でも、この南地区(ロサンゼルスとサンディエゴを除く南カリフォルニア一帯)は最強の地区なのだ。例を挙げると、息子の高校は昨年、この南地区を7位ぎりぎりで突破したのだが、州大会では順位を1つあげて6位に入賞した。1位から5位までは、すべて南地区の高校だった。さらに言えば、ハワイ州のチャンピオン高校と練習試合をすると、1位から9位まで独占して圧勝したこともある。つまり、この南地区を制覇することはカリフォルニア州を制覇することと等しく、あるいは全米を制覇することと同じなのかもしれないのだ。

この日のレースには、昨年のカリフォルニア州王者ニコ・ヤング選手も出場した。ヤング選手は今年9月には3マイル(4.8キロ)の全米高校記録を出している。この日も、ヤング選手はコースレコードを大幅に更新して、個人と団体の両方で2年連続の優勝を果たした。
クロスカントリー走と駅伝の違い
どちらも長距離走の団体競技であるという意味で、クロスカントリー走は日本で人気がある駅伝と共通点が多い。クロスカントリー走に出場するのは1チーム7人(補欠選手5人)で、箱根駅伝は10人(補欠選手6人)だから、参加する人数も似ている。
だが、駅伝がリレー形式であるのに対して、クロスカントリーでは全員が「よ~いどん」で一斉に同じコースを走る。だから、クロスカントリーの競技時間は駅伝に比べると圧倒的に短い。高校クロスカントリーは3マイル(約4.8キロ)の距離がほとんどだから、速いランナーのレースは15分ぐらいで終わってしまう。高校生の部活だから、中には30分以上かかる子も毎年必ず混じっているわけだけど、それでも箱根駅伝のように2日かかるなんてことはない。

両者のもっとも大きな違いは、団体の順位を決める方式だろう。クロスカントリー走では、チーム7名のうち上位5人の順位を合計した数字でチームの成績が決まる。個人総合1位だと1ポイント、10位だと10ポイント、という具合にポイントを計算し、合計ポイント数が最も少ないチームが勝つ。仮に2チーム以上が上位5人までの合計ポイントで同点になった場合は、チーム6位同士のタイムで順位が決まる。
たすきをリレー形式で受け渡していく駅伝は、チーム内の誰かが1人でもアクシデントで走れなくなったらチーム全体が負けてしまう。だから、ケガをしたランナーが這ってでもたすきを次のランナーに渡そうとする、みたいなことが起きる。クロスカントリー走では1人が棄権してもチームの成績には影響がないから、選手には過大なプレッシャーはかからない。見る分には駅伝の方がドラマチックだろう。だけど、選手の安全を考えるならクロスカントリー走の方がはるかに良いと思う。日本の陸連も、駅伝やマラソンだけではなく、もっとクロスカントリー走に目を向けてほしいものだ。

高校生が部活で走ることの意味を考える
クロスカントリー走は、地味な部活だ。どこの高校にもあるし、トライアウトなどなく誰でも入れるから参加人数は多いが、入部してくる新入生の殆どは素人だ。米国の中学校には部活というものがないので、民間のランニングクラブに所属していたほんの少数を除いて長距離走の経験者はいない。それどころか、特に走ることが好きなわけでもなく、体育の単位を取ることが目的の子だっている。
いざ入部しても、練習は基本的には毎日走るだけの単調で退屈なものだ。もちろん、インターバル走やペース走など様々なやり方をするわけだけど、走るってことには変わりはない。それに素人のような新入生には、ペースやテンポの違いなんてものを説いても、ほとんど意味はない。何しろレース中に歩かずに最後まで走るってところから目標にしないといけないのだ。普通の人が健康やダイエットのために走るのとレベルは変わらない。それでも辞めずに続けてさえいれば、高校生たちの走力は必ず伸びてくる。若いとはそういうことなのだ。
キロ6~7分ぐらいのランナー、マラソンで言えば4~5時間の素人レベルだった子が、1シーズンが終わるころにはキロ5分ぐらいで走れるようになる。そのペースでマラソンを走ればサブ3.5ぐらいだ。競技選手とは呼べなくても、一般のジョガーとしては速い方になる。そして2年、3年と続けていくうちにキロ4分から3分の世界に入ってくる子もいる。こうなると、もはや市民ランナーのレベルではなくなる。マラソンならサブ3、下手をすれば2時間前半のペースだ。もちろん、そこまで行けずに途中で辞めてしまう子の方が多数なのだけど。
長距離走には、ボールゲームのような楽しみはない。続けてさえいれば成長はするけど、1日で大きく変わるようなものではない。レースだって大失敗はありえても、まぐれや奇跡は起こらない。ぼくは息子にも指導する生徒たちにも、そう言い続けてきた。「頑張れ」って言うのは易しいけど、モチベーションは彼らが自分の中に見つけてくれないと、頑張りようがないからだ。
大切な仲間の存在
幸いなことに、息子はモチベーションを絶やすことなく、最後まで走り続けた少数派の1人になった。同じように4年間一緒に頑張った仲間たちとの絆は、一生の財産になるだろう。ずっと指導してくれた監督とコーチには、親として感謝の気持ちしかない。息子の高校クロスカントリー走は終わったが、ぼくは息子のように思い出深い高校生活を送れる生徒を1人でも多く育てられるように、これからも弱小高校チームの監督として頑張るつもりだ。クビにならなかったら、の話ではあるけれど。

米国の高校スポーツは、シーズン制だ。クロスカントリー走が秋に終わると、殆どのランナーは春から始まる陸上競技のトラック走に移る。フィールドや距離は異なるが、長距離走を専門としていると言っていい。息子はこれまでレスリングやテニスといった長距離走とは違うタイプのスポーツを冬と春のシーズンにやっていたのだけど、最終学年の今年は陸上競技をやるそうだ。だから、クロスカントリー走の仲間たちとは6月に卒業するまで一緒に走ることになる。
なるべく違うタイプのスポーツを数多くやるべきだという考えで、息子には色々なスポーツを奨励してきたぼくとしては、少し残念ではある。あるいは、自分が本当に好きなものは長距離走だと見つけたのかもしれないし、ただ単に仲間と離れたくないのかもしれない。それに、クロスカントリー走も陸上競技も男女が一緒に練習する数少ないスポーツだ。ひょっとしたら、グループ内に気になる女の子でもいるのかもしれない。まるで爆風スランプの『涙の陸上部』みたいな話だけど、それも高校生としてはアリかなとは思う。動機が何であれ、本人が充実した高校生活を最後まで送れたら、親としてそれ以上望むことはない。
