【浦和学院】3食を共にして掴み取った5年ぶりの夏甲子園

県内最多となる春夏通算23回(春10回、夏13回)の甲子園出場を誇る浦和学院。名将・森士監督の下、バランスの良い「練習」「栄養」「休養」によってチームを鍛え上げ、今年は5年ぶりとなる夏の甲子園出場を果たした。これまで数多くのプロ選手を輩出してきた名門校の聖地への道と育成法を探る。

打力強化で辿り着いた〝ご褒美〟の甲子園

野球部・監督 森 士 (もり おさむ) 1964年生まれ。埼玉県出身。上尾高から東洋大に進学し、卒業後に浦和学院のコーチを経て1991年に監督就任。監督27年で春夏通算21度の甲子園出場。2013年春は全国優勝を飾った。

悔しさからのスタートだった。2017年夏の埼玉県大会決勝で、宿敵・花咲徳栄と対戦した。秋、春の大会ではともに決勝で勝利していたが、最後の夏は2対5で敗退。聖地行きの切符を逃すと、その花咲徳栄が甲子園の全国舞台で破竹の快進撃を見せて見事優勝。歓喜の瞬間を、テレビ画面の前で、ただ眺めることしかできなかった。

次こそは自分たちの番だ。そう誓い合った。1991年からチームを率いる経験豊富な森監督は、「うちには打力が足りなかった。特に夏の甲子園は打力がないと勝ち上がれない」と再認識した中で、改めて「打力アップ」をチーム全体のテーマに掲げた。主将の蛭間拓哉選手を中心に「素直さがあって、まとまりのある代でした。素直に話を受け止めることができて、それを形に変える強さ、勇気を持ち合わせていた」と森監督。チームが未完成だった秋は県準々決勝で敗れたが、ひと冬超えた春は県決勝で花咲徳栄に6対5のサヨナラ勝ちで優勝。そして第100回記念大会で南北に分かれた今夏は、6試合で60得点と打線が大爆発。県川口との決勝戦では19安打17得点と圧倒し、5年ぶり13度目の夏の切符を力強く掴み取った。

野球部専用食堂の他に、週に2日は昼食で一般の食堂も利用。その際も野球部専用の「丼&麺」の食事が用意されている。完食したかどうかをコーチ陣がチェック。

迎えた甲子園大会では、1回戦で仙台育英と対戦した。2013年夏の甲子園で激戦の末に10対11のサヨナラ負けを喫した相手を、今度は9対0で下して5年越しのリベンジに成功すると、続く二松学舎大附戦も6対0の完勝。準々決勝では「春先の練習試合では勝ったりもしましたが、本気になった大阪桐蔭は強かった」と優勝校の前に2対11で屈したが、森監督は「甲子園はご褒美の場所。選手たちは本当によく頑張った。悔しさよりも感動の方が大きかった」と最後まで戦い抜いたチームに賛辞を贈った。掴み取った確かな成果。この1年で、選手たちは間違いなく、大きく成長した。

甲子園出場だけでなく、その後の野球人生でさらに成長するための“基礎”を作り上げる。

お茶碗1杯500グラム山盛りご飯で体重アップ

寮生に加えて通いの部員たちも朝、昼、夕の3食を共にする。そこで生まれる団結力はチームをさらに強くする。

チームが大きくパワーアップした陰には、「食べること」があった。埼玉スタジアムの目と鼻の先の場所に校舎を構える浦和学院。その開放的な敷地内には野球部の専用グラウンドが設けられ、寮、部室とともに野球部専用の食堂を持つ。そこで1日3食、部員の7割近くを占める寮生に加え、自宅から通学している部員たちも含めた約90名の部員全員が、朝、昼、夜の3食を共にしている。

トレーニング後の効率的な栄養摂取が可能となっているが、そこで驚かされるのが「量」である。朝練後の7時半からの朝食は、ごはんにみそ汁、納豆とおかず。昼は丼物と麺物のセットを食べ、練習後の夕食は、ごはん、汁もの、おかず2、3品にサラダとフルーツが付き、さらに牛乳と100%のオレンジジュースでビタミンとたんぱく質を摂取する。夜のごはんは800グラムがノルマ。一般的なお茶碗1杯は150グラムだが、浦学野球部の1杯は500グラム。まさしく日本昔話に登場するような“山盛りごはん”をおかわりし、「身長マイナス95」の体重を目指す。

国体も控えており、毎年3年生たちは翌年1月半ばまで毎日グラウンドに出て練習に励む。

「まず、練習をやり込めるだけの身体をつくること。それが基本になる。3食を共にできるというのは、身体作りの面では非常に大きなメリット。身体は確実に大きくなる」と森監督は言う。最初は単純に体重を増やし、その後は体脂肪、筋肉量を見ながら食事の内容を変え、バランスの良い食事で理想の肉体を作り上げる。今夏に背番号1を背負った河北将太投手は「食べたい時に食べられる環境が整っている。バランスも考えて作ってくれているのですごくありがたいです」と感謝する。

また、3年前からグラウンドのすぐ隣に、野球部として畑を借り、きゅうりやナス、オクラ、ピーマンなどの野菜を育て、自分たちで収穫したものを自分たちで食している。「食べ物の大切さを感じてもらいたい。今まで何気なく食べていたものでも、その一つ一つに手間暇がかかっているということを実感してもらいたい」と森監督はその意図を説明する。今夏は大量の夏野菜で漬物を作り、スイカは計35玉を収穫。記録的な猛暑を乗り切るのに一役買った。

この日はナス、オクラ、ピーマンを収穫。形は不揃いでも栄養&味は文句なし。

野球部専用の畑。内野ほどの大きさの土地に7、8種類の野菜を育てている。今夏はきゅうりが毎日50本。スイカの栽培も成功した。

練習、休養、栄養。理想の「バランス」を目指して

現部員は3学年で約90名。卒業後はプロや大学で野球を続ける選手たちが多い。

高校時代の1年間を怪我によって棒に振った過去を持つ森監督は、「自分と同じ思いをさせたくない」という想いを胸に抱いて生徒たちの指導に当たっている。故障の予防。そのためにも「バランス」、そして「考えること」が重要であると説く。「練習、休養、栄養。この3つのバランスが取れていないといけない。ただ闇雲にやっても壊れてしまう。食事も練習も考え方は同じ。その目的を理解して、必要性を感じながら取り組むこと。最終的な勝負のところで体力、精神力が大きなカギになると思いますが、その体力、精神力を付けるためにも、ただ根性だけでガムシャラにやっていてはダメでしょう。根拠の部分を理解して、意識付けしながら、その中で各自が自ら考えて取り組めるようにならないといけない」。

チームを指導する森監督は、野球を通じて「バランスの良い人間」を育てようとしている。そのために練習中から選手間のコミュニケーションを重視する。

食事の場は社会性も育む。スマートフォンなどの携帯電話は、基本的に使用禁止。その中で自然と対話する時間が増えることになる。森監督は「みんなが集まる空間の中でお互いがコミュニケーションを図ってもらいたい。人間関係づくりの面でも、食事の場というのは大切な時間。まずはそういう部分からコミュニケーションを取れるようにしてもらいたい」と語るとともに、「バランスのいい食事、バランスの良い練習で、バランスのいい身体を作ること。そしてバランスの取れた考え方を持った、人間性溢れる人間になってもらいたい」と生徒たちの背中を押し、彼らの未来に目を細める。

夕食時には計20升(30kg)の米を炊く。山積みされたお米も一気に消費される。

甲子園は目指すべき目標ではあるが、決してそこがゴールではない。その先の人生も見据え、そこで力を発揮するための大事な基礎を身に付ける。浦和学院野球部で3食を共にした選手たちは、卒業後もまだまだ大きく成長する。

甲子園の思い出


蛭間主将を中心に5年ぶりの夏の甲子園で2勝を挙げた浦和学院。これまで何度も訪れたことのある甲子園だが、「天国でやっているような感覚。天国には行ったことはないですけど(笑)。やっぱり夢の舞台です」と森監督。この経験を“次”に繋げる。

浦和学院DATE

所在地:埼玉県さいたま市緑区代山172
学校設立:1978年
直近の戦績:
2018年夏・南埼玉大会優勝、全国高校野球選手権準々決勝
2018年春・県大会優勝、関東大会準々決勝
2017年秋・県大会準々決勝

(取材:三和直樹/写真:食トレマガジン#7より)