【都立城東】2季連続初戦敗退から都大会ベスト4へ。チーム立て直しのカギは「野球をシンプルに考える
昨秋、プロも注目する宮下大地投手擁する日体大荏原や、錦城学園、共栄学園など力のある私学を倒し都大会ベスト4という結果を残した都立城東。一昨年の秋もベスト8までコマを進めているため、驚きは少ないかもしれないが実は昨年の春、夏ともに初戦敗退という結果に終わっている。そこからどのようにしてチームを立て直したのか、またオフの練習のテーマなど内田稔監督に話を伺った。
抽選会3日前に行った大きな賭け
正門をくぐり、真新しい校舎を横目に歩くと小気味よい金属音と元気な声がグラウンドから聞こえてくる。都立城東の野球部は2学年合わせて約60人の大所帯。あと数ヶ月後に入部する新1年生を加えると100人の大台に近づく。都大会の結果について内田稔監督に話題を振ると「結果的にはベスト4ですが、全く手ごたえはないです」と意外な答えが返ってきた。
「1試合1試合戦うのに必死で先のことなど考える余裕もありませんでした。今の2年生は新チーム立ち上げ当初野球の技術だけではなく、生活態度も成熟していませんでした。キャプテンを務める高橋慈英や清水隆太郎など数名を除いて、1年生を中心に新チームは始動しました」

都大会ベスト4の原動力となった林平太郎投手、鳴坂隼投手を始め将来楽しみな1年生は確かに多い。しかし、秋のメンバー表を見ると背番号2~15まで2年生が占める結果に落ち着いた。それは内田監督自身ある種の賭けに近いものだったという。
「1年生の伸び悩みもあり、抽選会の3日前に思い切って2年生主体のチームに切り替えました。2年生の方がやはり経験値はあるので、試合で形になりやすいと判断したからです。勝因を挙げるとすれば林が安定して投げてくれたこと、そして崩れる試合がなかったことでしょうか」
1年春から試合に出場している清水選手は「最初は不安が大きかったが、試合をしていくうちにチームの形ができ、上まで行けるかもしれないと思えるようになりました」と当時を振り返る。予選を含む7試合で失点は14。1試合平均は2点だ。準決勝で戦った強豪国士館相手にも5回終了時まで0-0の接戦を演じていた。不安から始まった大会で気づけば引退した3年生が残した秋ベスト8という結果を超える好成績。都立高が秋の都大会準決勝まで残るのは2016年の都立日野以来となる。
全員がホームランを狙う!プロテインとウエイトでパワーをつける
ただ、秋の好結果に浮かれてはいけないと選手自身も理解している。なぜなら前年のチームは秋の大会以降は苦戦を強いられたからだ。春は都立紅葉川、夏は都立板橋と同じ都立高相手に初戦で敗戦。先輩たちと共に戦った高橋選手も「練習試合では強豪相手とも互角に戦えていたのですが、公式戦では本来の力を出せずに終わってしまいました。春も夏も絶対勝てた試合だと思います」と悔しい表情で語る。
特に夏の大会は都立板橋のエース黒岩真人投手の前に打線が沈黙し2-1の敗戦。悔しい夏を経験し、内田監督は選手とともに新チーム発足時に新たなテーマを作った。
「試合が苦しいときに打開するのは『長打力』と気づきました。そのためにも試合に出る全員がホームランを打てるチームにしようと決めました。野球は細かい技術を言い出したらきりがありませんし、複雑なことを頭で理解できていても肉体が追いつけなければ意味はありません。身体を大きくし力をつけられれば、速い球を投げられるし速い球を打ち返せるようになる。そう野球をシンプルに考えるようにしたかったのです」
そこで以前までは個人に判断に任せていたプロテイン摂取と、ウエイトトレーニング(2日に一度)をチームのルールとして定めた。身体を大きくするために始めた新たな取り組みは数値として如実に表れた。高橋選手や、同じくチームの中心メンバーである陶直史選手は5キロの増量に成功。清水選手は8キロの増量に成功し、以前に比べ打球の質が大きく上がったという。しかし、これらの数字は内田監督が教えてくれたわけではなく、選手個人が教えてくれたものだ。監督は選手の右肩上がりに伸びている数値を一切知ることはない。そこに内田監督の指導スタイルが隠れている。(取材・文・写真:細川良介)
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