【都立城東】オフの走り込みナシ!選手が練習メニューを決める新たなスタイル

昨秋の都大会ベスト4という好結果にも浮かれることなくこのオフも練習に励む都立城東ナイン。新チーム立ち上げ当初から選手たちの自主性を促す取り組みを行っている。それは「練習メニューは選手が考える」ことだ。ノックの本数から、時間まで内田監督が設定することはない。またオフだからといって過度な走り込みも一切しないという。従来の高校野球の練習と一線を画すこの取り組みには内田監督が胸に秘めるある思いがあった。

指導者の「強制力」を排除。体重やウエイトの目標設定はしない

平日はサッカー部、陸上部、ソフトボール部とグラウンドが共有のため与えられた面積は四分の一(ソフトボール部が練習を終える17時からグラウンドの半面を借りることが許される)。60人が満足にボールを追いかけられるスペースはない。ユニフォームに着替えたらキャッチボールやランニングをすることなくそのまま内野ノックやティーバッティングを黙々と始める。

「ノックの本数や時間、または体重の目標などを指導者が決めるとどうしてもそこに『強制力』が働いてしまいます。私は野球部の一員としてアドバイスや意見を言うことはありますが、だからといって選手たちを管理することはしませんし、決定権は選手たちが持っています。体重やどれくらいのウエイトを上げているのかも知りません。選手が甲子園という目標を定めたのならそれをサポートするのが僕の役割ですから」

練習中は選手をじっと観察する。そしてタイミングを見計らって選手一人ひとりと話し込むシーンが何度もあった。アドバイスを送るにしても選手本人が受け入れる態勢が整っている状況でなければその言葉の意味も伝わりにくいと内田監督は続ける。

「気づいているけど治せない癖を指摘されたり、他人の言葉を受け入れられない状態って人間なら誰でもあると思います。気づいていないことを気づかせ、やる気を促すことがなにより大事です。だから選手がやりたくないことを無理やり押しつけるという行為はしたくありません。オフならではの辛い走り込みなど高校野球で連想されるような練習はうちにはありませんよ」

辛い練習のイメージを覆すオフトレーニング

昨年末のクリスマスも選手たちの意向で休みにした。取材当日もハードな練習や、走り込みは全くなかった。

「オフ=走り込みやハードな練習する。そういった考えが野球界にはあると思います。僕自身も現役時代は行っていたし、指導者になりたての頃はそういった練習を課していました。でも、走り込みでは野球に最も必要な瞬発力は鍛えられないと科学的にも証明されています。過度な走り込みで怪我をする選手も沢山見てきました。走り込みはみんな辛くて嫌でしょう。それなら『やらなくてもいいか』と思うようなったんです」

オフは陸上部と揶揄されるほどに走りこむのが高校野球。そういった固定概念をなくしたいと内田監督は言う。

「うちは部員数が多いですが、他の高校はそうではありません。野球人口減少の要因に野球へのマイナスなイメージがあるかもしれません。ボールを使わないハードなトレーニングが嫌で高校野球に進まない子どもだっているかもしれないし、厳しい指導が嫌で野球を始めない子どももいるでしょう。そういったイメージをなくしたい思いはありますね」

チームのテーマである身体づくりも年間を通して行うため、オフだからといってウエイトやプロテインを導入しているわけではない。取材当日のメニューも季節関係なく行っているものだった。ただ、それこそが都立城東の個性的なオフなのかもしれない。

一勝の積み重ねの先に未開の地

今夏は東京オリンピックが開催されることもあり、東東京で使用される球場は限られ、西東京の球場で試合を行うなどイレギュラーな部分もあるが、かえってチームにプラスに働くかもしれない。

「見ての通りグラウンドが狭いですから、Aチームの週末は毎週遠征をしています。ですので、移動をすることには他チームより慣れているかと思います。周りの評価は気にせず、目指すは『一勝』。とにかく『一勝』したいと思っています」

一つ勝つことの難しさは昨年痛いほど経験している。先のことは考えず目の前の一勝を手にするために全力を尽くすと意気込む。

夏の大会は準決勝以降高校野球としては初となる東京ドームでの試合(神宮球場が使用不可のため)が予定されている。選手や監督、応援する側もいつもとは違う景色が見られるチャンスだ。

「行ってみたいな」

インタビュー終わりにポロッと出た内田監督の本音なのかもしれない。未開の地の先にある選手が目標に定めた甲子園。選手たちが考え、自主的に動き出した“都立の星”の活躍に期待したい。(取材・文・写真:細川良介)