【共生】憧れは甲子園、台湾からやってきた留学生が迎える「最後の夏」
岡山県では台湾留学生を受け入れる学校で有名な共生(きょうせい)高校。創部19年で夏の岡山県 大会4度の8強入り、秋の中国大会3度出場の実力校。現在、西武ライオンズで活躍する吳 念庭 ( ウー ・ネンティン) や元ソフトバンクの李 杜軒 (リー・トゥーシェン)な ど、日本のプロ野球界 に4人を輩出している。甲子園出場を夢見て、日本に来た台湾留学生球児たちの心境を聞いた。
台湾のテレビでみた甲子園の地で野球することを夢みて留学を決意
今年、創部初の台湾人主将を任された林 承緯(リン・チェンウェイ)は、U12に選ばれた実績をもっている。「中2の夏にテレビで甲子園をみていたときに、応援が凄かったのでここでやってみたいと思いました」と照れながら話す。台湾では日本のNHK BSが放送されている。そこで夏の甲子園大会を見て、大観衆の中で自分もプレーしたいという夢を持った。
台湾と日本の野球観の違いはある。森下雄一監督は「彼らがやろうとしているのは“野球”というより“Baseball”に近いです。日本の高校野球はいかにボールを正面でとるかと言われていますが、台湾の選手は逆シングルでとったり、片手で取ろうとします」と話す。でも、それでもいいと考えている。それは純粋に楽しく野球をさせてあげたいという思いがあるからだ。
中学の先輩が共生で活躍する姿を見て、日本への留学を決めた選手も多い。森下監督は「共生高校は日本では有名ではないですけど、台湾球界では有名なんですよ(笑)」と冗談交じりに語る。

台湾の選手はどれぐらい日本語を話せるのか? そう疑問に思った。「最初は日本語を喋れないと思っていたけど、意外と話せてビックリしました。今はコミュニケーションで困ることはありません」とエースの内海奎太郎君は話す。林主将について「こちらが話したことを分かろうとしてくれます。バッティングではチームを引っ張ってくれる頼りになる存在です。プライベートは、おちゃらけていますね(笑)」。内海君は新チームになって少しの間、林主将と一緒にキャプテンをしていた。
林主将にとっても内海君は今でも「困った時には助けてくれる」大切な存在だと言う。
「最後の夏」に最高の試合を

甲子園開催の中止で涙をしたのは、日本人だけではない。覚悟を持って海を渡ってきた留学生たちも同じだ。中止の報道は寮でテレビを見ていたときに知ったという留学生たち。その時の心境を「残念です」「甲子園へチャレンジしたかった」とポツリ。憧れの甲子園で試合をするために日本へ来た留学生。本当はもっと言いたいこと、伝えたいことがある。ただ、その気持ちを日本語でどう伝えればいいのか分からないのかもしれない。短かい言葉のなかに、彼らの計り知れない悔しさを感じた。
目標にしていた甲子園への挑戦は叶わなかった。それでも林主将は「代替大会開催があるのは楽しみです。チームとしてみんなと一戦一戦大事にしたい」と意気込みを語った。蘇 翊(スーイー)は「日本人の指導者の方に色々とお世話になったので、最後まで諦めない姿をみせたい」と感謝を述べた。日本が大好きだという劉 郡廷(リュウ・チェンウェイ)は「悔いの残らない試合にしたいです」と気持ちは前を向いている。

共生高校 の部員は、台湾人留学生5人を含む3年生16人のみ。1・2年生はいない。実は学校経営の事情で、 この夏をもって野球部は休部することが決まっている。卒業後、台湾の選手は大学に進学しプロ野球を目指す選手もいる。野球部は休部するが、野球を続ける選手が共生の想いをつなげていく。
それぞれの夢にむけて自信をつけるための大会が、明日開幕する。(取材・文・写真/永野裕香)