女子も高校野球の聖地・甲子園を目指せる時代へ 〜私たちのナツタイ 2021 神戸弘陵学園高校 女子硬式野球部〜
「笑耐夢(Show Time)」をスローガンに掲げ、5年ぶり2度目の夏王者奪還を狙う。石原監督の男子同等レベルを求める厳しい指導で鍛えられる精神力と持ち前の明るさで、2年ぶりに開催されるナツタイで全国の頂点へ駆け上がる!
神戸弘陵学園高校 女子硬式野球部
神戸弘陵学園高校って?
男子校として1983年開校。2014年の特進文理コース・体育特選コース男女共学化に伴い、女子硬式野球部と女子サッカー部が創部された。学内の強化クラブに指定されており、全国大会出場やプロ選手を輩出するなど、輝かしい成績を収めている。1期生25人から始まった女子野球部は、創部翌年の選抜大会で準優勝。創部3年目の選手権大会決勝では、女子高校野球最古の歴史を誇る神村学園(鹿児島)に12-1で勝利。念願の日本一を達成した。
School Data
監督/石原康司
部長/城戸翔平 部員数/3年生17人、2年生24人、3年生23人
創部2014年。6度の全国制覇を誇る強豪校(春2回、夏1回、秋3回)。主なOGは、水流麻夏投手(阪神タイガースWomen)、川中もも内野手(埼玉西武ライオンズ・レディース、神戸弘陵教諭)など。
創部8年で全国制覇3回 愛される女子野球部
坂道を登り校門に立つと、打球音やお互いを鼓舞する大きな声が聞こえてくる。来訪者を出迎えてくれるのは女子硬式野球部だ。創部3年目に初の全国制覇を達成し、春夏と秋のユース大会を合わせて6度の日本一に輝いた。女子野球部専用のグラウンドが校舎横に完備され、OGからの寄付などにより立派なベンチやブルペン、ボルダリングや綱登りなどのトレーニング設備も充実している。


エースの島野は「中学生に戻って進路選びをやり直せるなら次も絶対に神戸弘陵」と断言した。父娘二代や兄妹揃って同校へ入学している部員がいるなど、在校生はもちろん卒業生にもとても愛されているのだ。
2年ぶりに開催されるナツタイが7月に開幕!
3連覇をかけて挑んだ今春の選抜大会は、準決勝で履正社(大阪)に0-4で敗退。初回から各イニングで出塁するも打線がつながらず、投げては先発した島野が3回裏に中越適時打を許し3失点。島野対策をしっかり練ってきた履正社を前に、本来の実力を発揮できなかった。四番で2年生の正代は「宿舎に帰ってから悔しくてずっと泣いていた。先輩たちの足を引っ張らないため夏までにさらにバッティングを磨きたい」と意気込む。不完全燃焼に終わった春の敗戦を絶対無駄にはしない。

昨夏は新型コロナウイルスの感染拡大により夏の大会が中止に。最後の夏を迎えられなかった先輩たちのためにも、今年の夏は甲子園の舞台へ立ちたい。
6月4日にオンラインで組み合わせ抽選会が実施され、初戦は大会2日目に佐伯(広島)と対戦する。副主将の今方は「大会まで残り2カ月しかないので、自分たちができることを精一杯取り組み、全力で大会に挑めるようにしっかり練習をやっていきたい」と語った。
女子野球部の監督として “甲子園”という聖地復帰へ
創部1年目から采配を振る石原監督は、同校男子硬式野球部を2度甲子園へ導き、現中日ドラゴンズの山井大介選手を含む8人のプロ野球選手を輩出している名将。1994年春には1回戦で滝川西(北海道)との延長10回のシーソーゲームを制し、勢いそのままにベスト8まで勝ち上がった。


今年の選手権大会で決勝戦まで勝ち進めば、男子・女子硬式野球部それぞれで甲子園出場を果たした史上初の監督になる。石原監督は「女の子でも甲子園で野球ができることが嬉しく、喜びでいっぱい。選手たちにあのグラウンドでプレーする楽しさを噛み締めてほしい」と頬を緩ませた。今春の兵庫県大会で1回戦から明石商業・東播磨・加古川北の強敵を相手に3試合連続でコールド勝ちし3位の成績を収めた同校男子野球部とのアベック出場にも期待が高まる。
自身が最後に甲子園のグラウンドに立った1999年以来、22年ぶりの聖地へ。今年は例年以上に身の引き締まる夏が7月24日に開幕する。

Close up ! 保護者も安心の完全下校時刻
早朝5:30起床に朝練、放課後はみっちり部活動と、一般的な男子野球部と大差のないタイムスケジュールだ。しかし完全下校時刻は18:30と、遅くまで練習はさせない。理由は『女の子に暗い夜道を歩かせたくない』という普段は厳しい石原監督の優しさがにじんでいる。全寮制ではないため県外の自宅から通っている部員もいて、保護者は石原監督の気遣いに大変感謝している。
現在は感染症対策のため、帰寮するとアルコール消毒と検温結果を記入が必須。食事、洗濯、入浴、野球ノートの記入、勉強と自主練が終わるとすぐに消灯時刻がやってくる。寮内では就寝時もマスクを着用し、感染症予防とクラスターの発生防止を徹底している。
女子高校野球を語る! 仲良しワイワイ座談会
参加校数は増えてきているけど、未知な部分が多い女子野球界。小林芽生主将、今方凜副主将、浜田さくら寮長、ムードメーカーの伊藤裕美選手、プレー中の笑顔が素敵な信貴友郁選手に、普段の学校生活や寮生活について教えてもらった。

後列左から、今方 凜さん(3年 一・二塁手・副主将)、浜田さくらさん(3年 中堅手・寮長)
――神戸弘陵に入学したきっかけは?
浜田 自分は好きな先輩がいて、入りました。
小林 恋かよ(笑)。
浜田 好きっていうか尊敬みたいな。ストイックでかっこいいなぁって。
伊藤 自分も好きな先輩がいて、神戸弘陵に入学しました。
信貴 みんなとかぶるんですけど、自分も好きな先輩がいて、練習会に参加したときに優しかったので入りました。
――女子野球は憧れの先輩の存在が進路に大きく影響を与えるんですね。先日の中間テストの出来はいかがでしたか?
一同 よかったです!!
今方 生物の点数だけみんな良くなかったんです。
小林 教科書通りの問題を出してくれなかったんです。
――みんな一斉に「よかったです!!」って言えるのは、野球と勉強を両立できてるってことですよね!
今方 文武両道です(座談会メンバー唯一の特進文理コース所属)。
――学校生活だけじゃなく、寮生活はどうですか?
信貴 楽しいです。
今方 みんないつも一緒にいるんで、家族みたい。
小林 歯磨きするときも一緒で、いろんな話します。
――どんな話をしてるんですか? 恋バナとか?
一同 恋バナはないんです(それぞれに手や首を横に振る)。
浜田 恋愛禁止なんで(笑)。
今方 ストイックに野球やってます。
小林 ドラマの話とか?
一同 あーーーーー。
小林 「あのドラマ見た?」「見たー!」みたいな(笑)。
浜田 あと「帰省したらなにしたい?」とか。
一同 うんうんうん。(笑)。
――夏の組み合わせが決まりましたが、寮長の浜田さんからみんなへ、これからどう過ごして欲しいですか?
浜田 規則正しい生活をして、野球の話ももっとして、寮生活の中でもコミュニケーションを大切にしていきたいです。
――最後に、今後の目標をお願いします!
伊藤 園芸部(寮母さんと一緒に花を育てる活動)の会長を務めさせてもらっていて、花の栽培・育成・教育をしています。
一同 あはははは!
伊藤 花を愛でることでみんなが笑顔になると思うので。次は紫陽花を咲かせるんですけど、その紫陽花を輝かせて日本一になりたいです。
一同 あはははは(爆笑の末、拍手が送られる)。
――春には見事なチューリップを咲かせて、みんなが笑顔になりましたね。これからの活躍を期待しています!

「甲子園では男子に匹敵するほどの感動を与えたい」
Key Player

2018年のジャイアンツカップ優勝投手として一躍話題に。大手スポーツメーカーのCM出演や今夏の男子硬式野球兵庫県大会開幕戦で始球式の大役を任されるなど、今後の女子野球界を牽引していく存在のひとりだ。
力強く振り下ろす右腕から投じられる120キロ中盤のストレートと多彩な変化球を武器に絶対的エースを務める、今大会最注目右腕の島野愛友利投手。バッティングにおいても今年の選抜では三番打者として打線の中軸を担い、プレーでチームを引っ張る副主将だ。「対策よりもスキルアップに力を入れるのが弘陵の野球」と話し、オリックス・バファローズの山岡泰輔選手や山本由伸選手のような力強さの中にしなやかさのある身体の使い方を研究中。寮生活による栄養管理、背筋や下半身の筋力トレーニングなどを行い、高校野球生活の集大成へ闘志を燃やしている。

中学生の頃に在籍した大淀ボーイズでは、春の選抜大会(男子)で準優勝した明豊のエース・京本眞を抑えてエースナンバーを背負う。男子に劣らない堂々たるピッチングで強豪チームを全国制覇へと導き『史上初の女子の胴上げ投手』として大きく取り上げられた。女子野球普及への想いが強い島野は「女子野球を当たり前の競技にしていきたい。競技名の前に“女子”とつく時点で、まだ広く認知された競技ではないですよね。他競技のように競技名を聞くと男子と女子どちらもプレーしている姿が浮かぶようになれば」と話した。
兄2人はそれぞれ大阪桐蔭と履正社在籍中に甲子園の土を踏んでいる。大淀ボーイズの元チームメイトの活躍にも刺激を受けた。
「甲子園で女子も男子に匹敵する感動を与えられる野球がしたい」と決勝進出に意欲をみせた。女子野球の将来を背負う島野の気迫あるプレーに注目だ。
Support ケガを乗り越え、チームを全力で支える
女子野球最多規模の64人の部員をまとめる小林主将。選抜大会期間中、右膝に違和感があり大会閉幕後に病院を受診。診断の結果は、3度目の前十字靭帯の断裂だった。医師からは「夏まで野球を続けると、その後の人生で歩行困難になる可能性がある」と告げられプレーすることを断念。
平日は14時から約4時間、休日は半日、今まで通り主将としてグラウンドで過ごす。練習指示や声掛けに加え、ノッカーへのボール渡しなど、右足に固定具を装着した状態でできる限りチームをサポートしている。 「ランナーコーチやベンチにいる部員も含め、みんながいてチームが成り立つ。プレーができなくても力になれる」。
チームメイトへ診断結果を伝えたとき、「絶対に甲子園へ行こう」と涙ながら誓った。チームの目標達成のため、大切な仲間と笑って夏を終えるため、最後まで全力で主将としてチーム支える。
OGの現役阪神選手 侍ジャパン女子代表OGも母校へ熱視線
「高校生の頃はまだ幼かったので、石原監督が怖いし、怒られて『なにくそ!』と思うこともあったけど、監督の元で3年間野球ができたことが一番の思い出。OG(2期生)として現役選手に甲子園の土を踏んでほしいし、勝ってほしい。あっという間の高校3年間を悔いなく過ごして欲しいです」。

(取材・文/喜岡 桜 写真/井上満嘉)