【明豊】名将によるバッティング上達メソッド!(川崎絢平 監督)
打撃指導に定評のある6人の名将が技術論を中心とした打撃論を存分に語っている『高校野球監督がここまで明かす!打撃技術の極意』(大利実/カンゼン)。その著書の中から今回は、明豊高校・川崎絢平監督の章の一部分を紹介します。19年選抜ベスト4、21年準優勝の実績を誇る九州屈指の強豪校では、どんな打撃指導をしているのでしょうか?
川崎絢平の「打撃メソッド」とは?
1.体を作り、振る力を養う
振る力=パワーを付けるためには、体の強さが必要。食事、トレーニングで鍛え、体重の目標値を身長-体重が100以下になるように設定する。もちろん、過度な食事は厳禁だが、必要最低限のパワー、体があって、その上に技術が乗ってくる。
2.7種類のティーメニューで「飽きさせず」に「本数を打たせる」
スクワットティー、逆手ティー、真横ティー、高めティー、低めティー、バスターティー、斜め(通常)ティーの7種を駆使して、計500球になるようにメニューを組む。ただ打つだけでは惰性になってしまい、練習の効果が薄れるため、違うメニューをリズムよくこなすことで選手に飽きさせず、なおかつ数をこなせる工夫をしている。
3.飛ばすためには「体重移動」が必須
基本的には「軸足」を意識した指導を行うが、軸足に体重が残りすぎると打球は飛ばない。そういう場合は「もっと前に体重をかけるように」と指導する。軸足に意識を置いた状態から前に乗って行くのは、そこまで難しくない。逆に、前足の意識が強い場合、そこから軸足を意識させるのは難しい。
4.力を生むのは下半身
上半身を過度に捻ったり、揺らして打つと、ボールになる変化球に手が出てしまいがち。反動や力を生み出すのはあくまでも下半身。上半身は無駄な動きを極力省き、ボールをとらえる動作に集中する。
5.「ゴロを打て」とは言わない
恩師・高嶋仁(前智辯和歌山監督)の教えでもある「空中からきたボールは、空中に返せ」を徹底。必要な場面を除いて「ゴロを打て」という指導は行わない。たとえ低めであっても、打球に角度を付けることを意識する。
飛ばすためには体重移動が必要
→後ろ残りになるのは想定内
軸足への意識が高くなりすぎると、「体重移動が小さくなる」という副作用が起きることがある。軸足に体重を残したまま、回転しようとするため、かかとがキャッチャー側に回転し、前足に体重が乗ってこない。
それでも、川崎監督からすれば〝想定内?とのこと。しっかりと修正方法を持っている。
「『遠くに飛ばしたいんやから、もっと前に体重かけてみぃ』と言えば、前に乗るようになります。あるいは、『打ったら、後ろ足を上げて』とアドバイスをすることもあります。大会の2週間ぐらい前にこの話をして、修正をかけていきます。これまでの指導の経験上、前に乗っていくのはそんなに難しいことではない。逆に、前足に意識を置いていた選手に対して、『軸足に意識を置いて』と言っても、対応するのが難しい。だからこそ、日ごろの練習では、軸足を意識させたほうがいいと感じます」
トレーニングとして行っているのが、メディシンボール投げだ。バッターと同じ半身の姿勢から、両足をガニ股にして構え、センター方向に強く遠くに飛ばす。
「ガニ股にすることで、太ももの内側を意識しやすい。そこから、軸足にためたエネルギーを、前足に乗せて、遠くに投げる。前足への体重移動がなければ、力を発揮することはできません。バットとメディシンボールでは手の位置が違いますが、メディシンを投げるぐらいのイメージでスイングしてほしいですね」
メジャーリーガーの長距離砲を見ていると、後ろに体重を残したまま打っているように錯覚することがあるが、前足に乗る局面が必ずあり、その瞬間の後ろ足はつまさき立ちになっている。ボールを飛ばすためには、体重移動が必須となる。
ボールの内側をとらえる
→はじめはヘッドが下がって構わない
「インサイドアウトで、ボールの内側をとらえる」
バッティング指導でよく耳にする言葉であるが、川崎監督も同じ考えを持っている。ただ、そこに至るまでの過程に川崎監督の色が見える。
「順序として、『はじめはヘッドが下がってもいいから、体の内側からバットを出すように』と指導しています。ドアスイングの子を修正するときに、『ヘッドを立てた状態で、内側から出す』というのは難易度が高い。2つのことを同時にはできないので、まずは内側から出す。そのために、後ろヒジをヘソに入れなければいけない。このとき、ヘッドを下げたほうが、ヒジを入れやすくなります」
後ろ肩が少々下がるが、第一段階はこれでオッケー。内側からバットが出るようになってから、修正をかけていく。
「ヘッドを立てるために『上から叩け』と言うと、後ろの肩が早くピッチャー側に出て、それに釣られて前肩まで開いてしまう選手が多い。手首の角度を変えることで、修正しています。手首を少し立てた状態で、ボールの下に入れていくイメージです」
特に、公式戦前にこのアドバイスが効くという。
「内側からバットを出して、ボールの軌道に入れようと思うと、だんだんとヘッドが下がってきます。球が遅ければこれでも対応できるが、スピードが出てくると、とらえきれなくなる。そのときには、『手首の角度を立てて』とアドバイスします。実際、今のレギュラーにもこういう選手がいるんですが、ぼくの中では『試合前に、手首の話をすれば大丈夫』という安心感があります」
何か、よくない動きが出たときに、どんなアドバイスを送るか。川崎監督の頭の中には、ひとりひとりに適した修正法がインプットされている。
続きは本書から(書籍では写真を交えてより詳しく紹介されています)。
川崎絢平 監督(かわさきじゅんぺい)
1981年生まれ、和歌山県出身。智辯和歌山では3年連続で夏の甲子園に出場し、1年夏には優勝、3年夏にはベスト4。大学卒業後は立命館大学、箕島球友会でプレー。母校・智辯和歌山のコーチを経て2012年秋に明豊高校の監督に就任。今春センバツも含めて、同校を4度*、甲子園に導いている。
*2020年時点
著者:大利実(おおとし みのる)
1977年生まれ、横浜市港南区出身。港南台高(現・横浜栄高)-成蹊大。スポーツライターの事務所を経て、2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材・執筆活動を行っている。『野球太郎』『中学野球太郎』(ナックルボールスタジアム)、『ベースボール神奈川』(侍athlete)などで執筆。著書に『中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法』(大空ポケット新書)、『高校野球 神奈川を戦う監督たち』『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え! 』(日刊スポーツ出版社)、『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』『激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち』(インプレス)、『高校野球継投論』(竹書房)、『高校野球界の監督がここまで明かす! 野球技術の極意』『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』(小社刊)などがある。2月1日から『育成年代に関わるすべての人へ ~中学野球の未来を創造するオンラインサロン~』を開設し、動画配信やZOOM交流会などを企画している。https://community.camp-fire.jp/projects/view/365384