最大並進運動のカギは軸足の使い方にあり|140キロ投手育成論(2)

2年半(880日)という限られた時間で、投手のパフォーマンスを向上させる。 140キロは努力で目指せる時代!「140キロ」をひとつの目安に定め、その考え方やトレーニング方法を紹介している本「880日で作る140キロ投手育成論」(竹書房)。この本の第一章「投動作を極める」の中から、今回は「最大並進運動」と軸足の使い方の一部を紹介する。ぜひ参考にして欲しい。

第1章―投動作を極める―

最大並進運動のカギは軸足の使い方にあり

 さらに細かい話をすると、「並進運動=軸足の使い方によって決まる」と言い切ることもできる。
なぜなら、軸足一本で立ってから捕手方向に移動していくとき、身体をコントロールできるのは地面に着いている軸足しかないからだ。地面から力を得られるような軸足の使い方ができれば、最大並進運動を手にすることができる。
 私が投手を見るときには、軸足の膝の使い方に着目することが多い。足を上げてから並進運動に入るときに、軸足の膝が三塁側に折れたり(右投手の場合)、捕手方向に“くの字”のように倒れたりすると、地面からもらえるはずのエネルギーがそこで途切れてしまうのだ。本来、下半身から生み出したエネルギーを指先にまで伝えたいところが、エネルギーが途切れた瞬間に、その流れが止まることになる。
「膝を送りなさい」という指導方法が、間違った受け止められ方になっているのでは……と推測する。膝が折れてしまう、いわゆる「ニーイン」(くの字)の体勢になると、並進運動時に尻が落ちやすく、その結果として利き腕側の肩が下がりやすい(写真①)。これは、肩や肘に負担がかかる投げ方で、投球障害のリスクが高まってしまう。

写真①:軸足の膝が折れることで、利き腕側の方が下がる

感覚的な表現になるが、できるかぎり“膝が立った”体勢で並進運動に入ってほしい(写真②)。

写真②:〝膝が立った〟体勢で、並進運動に入るのが理想的

大げさに言えば、軸足の股関節を外旋させて、膝を二塁方向に向けるようなイメージだ(写真③)。

写真③:軸足の裏で地面を踏み込み、股関節から力を伝える

 この動きを習得するには、骨盤や股関節の柔軟性と連動性が必須となる。開脚で足を横に開けない投手が最大並進運動を求めたとしても、可動域の問題で必ず限界が訪れる。
さらに、開脚とともに重要になるのが、伸脚の動きだ。伸脚のときに、股関節ではなく、膝で身体をコントロールしてしまう投手は、投球時も膝が内側に入りやすく、最大並進運動を行うのが難しい。このあたりの詳しいメカニズムは第2章で紹介していきたい。
正直、軸足の動きをマスターできれば、投球動作の8割方は完成すると考えている。それぐらい重要な働きを担う。
この並進運動が不十分な状態で、身体が回り始めてしまうことを、「開きが早い」と定義付けることができる。並進運動が小さい投手は、次の回旋運動も弱くなってしまうため、結果的に腕の振りのスピードが遅くなる。いわば、投球フォームにおける助走の部分であり、この助走がうまくいかなければ、その後の動きが遅くなることは容易に想像できるだろう。

投球障害の予防にもつながる「連動性」

さきほど、「連動性」というキーワードを用いたが、本書の中で何度か出てくるのでその意味を説明しておきたい。
大人の身体にはおよそ200個の骨、約265箇所の関節、そして関節をまたぐように600個ほどの筋肉がある。自分の意思で動かせる随意筋もあれば、臓器のように無意識に動く不随意筋もある。
では、みなさんは、どれだけの骨、関節、筋肉をスムーズに使えているだろうか?
誰も明確には答えられない質問ではあるが、一流のアスリートになればなるほど、数多くの骨、関節、筋肉を連動させて、高いパフォーマンスを発揮しているのは間違いない。
人間の身体は、末端に行けば行くほど器用に動き、どうしてもそこに頼ろうとしがちだ。ボールを投げることも、肘から先のスナップスローである程度の距離を投げることはできる。しかし、強く速い球を投げるには、身体の中心部から動かさなければいけない。その中心となるのが骨盤であり、股関節となる。
仮に、骨盤の動きが悪い場合、股関節や膝関節、足首に運動制限がかかり、本来持っている柔軟性を生かせなくなることも多い。身体のどこかで“動作不良”が起き、身体の機能が低下してしまう。
それでも、人間には「代償動作」という素晴らしい機能が備わっていて、骨盤の動きが悪ければ、ほかの関節で何とか代用しようとする。だから、まったく動けなくなるわけではない。しかし、どこかをかばえば、特定の部位に負担がかかりやすくなり、それがケガにつながってしまうリスクが生まれる。

*具体的なトレーニング方法は本書の第二章からご確認頂けます。


書籍情報

著・塚原謙太郎
竹書房
定価1800円+税