【北照】2回1/3登板のみでU18侍候補へ、高橋幸佑の持つ恐るべきポテンシャル

4月4日から3日間にわたって行われたU18侍ジャパン強化合宿。全国から選ばれた精鋭が集結していたが、その中で密かに話題となっていたのが北照の高橋幸佑だ。昨年秋の北海道大会では背番号11で出場。チームは初戦で旭川実に敗れ、高橋自身もリリーフで2回1/3を投げただけで負け投手となっている。しかし合宿で行われた紅白戦では最速146キロをマークするなど2回を無失点と好投。視察したスカウト陣からも驚きの声があがっていた。秋まで実績のなかった投手がなぜU18侍ジャパン候補に選ばれ、スカウトも注目するまでの存在となったのか。高橋と、チームを指揮する上林弘樹監督に話を聞いた。前編はまず高橋自身のインタビューをお伝えする。

無名の中学時代、神奈川県から一般入試で北照へ

高橋は母親の実家のある札幌で生まれたとのことだが、いわゆる“里帰り出産”であり、育ったのは神奈川県横浜市である。父親は剣道、母親はバレーボール部のマネージャーをしており、野球には全くかかわりのない家庭だったという。
「父も母も野球は全くの素人で、姉も躍る方のバレエをやっていました。野球を始めることになったのは、近所に住んでいた1歳上の友達に誘われて少年野球の体験に行って、面白そうだと思ってすんなりチームに入りました。左利きだったということもあって、小学校の時からピッチャーとファーストでした。中学時代は地元の中学の軟式野球部です。市内ではそれなりに強いチームで3年生の時には横浜市全体の選抜チームに選んでいただきました」

神奈川は全国でもトップクラスで野球熱が高い地域であり、市内の選抜チームに選ばれるような左投手であれば高校野球関係者からも注目されていたと思うかもしれないが、当時は全く無名の選手だったという。北照への進学も誘いを受けての特待生などではなく、自らの意思で一般入試での進学だった。
「2018年と2019年の夏の甲子園に北照が連続で出場したのを甲子園で見て、印象に残っていました。母親からも『北照どう?』って言われたのも大きかったです。自分も他人と違うことをしたいという思いが強くて決めました。中学時代のチームで県外の高校に進んだのは自分だけですね(笑)」

自らの意思で北照に進んだが、ここまでの道のりは決して平たんなものではなかった。
「最初は練習というよりも、精神的なことが一番つらかったです。親元から離れて生活してホームシックというか。周りの選手は硬式出身が多くて、スカウトされてきて入ってきているので、その選手との差も感じたりして。同学年の投手の中でも本当に一番下だったと思います。ストレートのスピードも当時は力を入れてやっと120キロ出るくらいでした。入学した時に体重は79キロだったんですけど、練習もきつくて、なかなか食べられなくて、10キロ以上減りました。1年生の時は体重測定で毎日怒られて、それもつらかったです」

一時は野球を辞めようと考えたこともあったという。ただそんな中でも何とか乗り越えて、成長できたのは、同級生の存在が大きかったようだ。
「何とか乗り越えられたのは(同じピッチャーの)田中太晟がいたというのが一番大きかったと思います。田中は入った時から凄くて、1年春の北海道大会の決勝でも投げていました。それが凄く印象に残っていて、こういう選手と戦っていかないといけない、そう思ってやってきました」

新チームになってからも背番号1を背負っているのは田中で、高橋との二枚看板は北照の大きな武器となっている。そして高橋自身がようやく手ごたえをつかめたのは2年生になってからとのことだった。
「体重も2年になったころには戻っていました。入学した時と数字は変わらないですけど、中身はだいぶ違うと思います。2年の春に関東と東北に遠征して、日大山形との試合でいいピッチングができました。その後の旭川支部予選で投げたのが公式戦で最初だったと思います。秋に負けた旭川実との試合でもストレートの走りは悪くなかったんですけど、変化球のコントロールが悪かったです。最後は真っすぐしか投げられない感じで、サヨナラヒットを打たれました」

ゾーンに入れたU18侍ジャパン候補合宿

冒頭でも触れたが秋の北海道大会で高橋が投げたのは2回1/3だけで、背番号も11である。なぜそこからU18侍ジャパン候補に選ばれたかについては後編の上林弘樹監督の話で紹介するが、選出されたことについてはやはり高橋も驚きだったという。
「北海道からピッチャーが3人候補になっていて、(序列的に)自分はその3番目だということは聞いていたので、まさか選ばれるとは思っていませんでした。聞いた時は興奮しましたけど、まず自分で大丈夫かなというのがあって、正直マイナス思考になりました。甲子園も出たことないですし、中学時代も大きな大会に出たことがないので。ただ同じ左ピッチャーの八戸工大一の金渕(光希)が話しやすくて、少し落ち着いたのはありました」

そんな不安の中で参加したU18侍ジャパンの強化合宿だったが、練習初日のブルペン投球から力強いボールを投げ込み、スカウトや報道陣の間でも話題になっていた。そして紅白戦でも見事なピッチングを披露し、この快投が大きなターニングポイントになったことは間違いない。本人はそんな合宿でのピッチングをどう感じていたのだろうか。
「初日のブルペンは結構完璧に近い状態で、アドレナリンが出ていたのか何も考えずに良いボールが投げられました。ゾーンに入っていたというか、感情も“無(む)”という感じでした。紅白戦も最初は緊張していたんですけど、バッターに向かって投げ始めると自分の思ったようなストレートは行っているなと感じました。変化球もまあまあ良かったですけど、まさか正林(輝大・神村学園)から三振をとれるとは思わなかったです(笑)」

正林は選抜でもホームランを放っており、この紅白戦でも快音を連発するなど高校球界を代表する強打者です。その正林から三振を奪ったこともあり、バックネット裏では視察していたスカウト陣も明らかに色めきだっていた。ただ高橋自身はそんな様子は全く気になることなく、紅白戦でも集中して投げられていたという。大会ではないとはいえ、初めて多くのスカウトや報道陣の前での登板で、自らの力を十分に発揮できるというのはやはり大きな才能の証と言えるだろう。

後編ではU18侍ジャパン候補合宿を経験しての変化。さらに高橋を指導する上林弘樹監督の話も紹介する。

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