【北照】上林弘樹監督|プロ注目左腕・高橋幸佑、成長の要因は「素直さ」
4月に行われたU18侍ジャパン候補強化合宿での快投をきっかけに一躍ドラフト候補へと浮上した北照の高橋幸佑投手。前編では神奈川から北照に進んだ理由、そこでの苦労、U18侍ジャパンに参加して感じたことなどを紹介したが、後編ではさらにそこで感じたことや、高橋を指導する上林弘樹監督の話も紹介する。
3年間持つのか心配だった入学当初
高橋の成長ぶりについて指導する上林弘樹監督はどう感じているのだろうか。まずは入学した時の印象から聞いた。
「体つきはまだ“ぼてっ”としていて、ボールも速くなかったです。投げ方はクセがなくて良かったですけど、ボール自体は速くなかったです。入学してどんどん体重が減ってしまったので、最初はそれが本当に心配でした。3年間持つのかなと。担任としても見ているんですけど、最初の頃は話しかけてもなかなか会話にならなくて、そういう点も心配でしたね」
本人も最初は同級生の中でも一番下だったと話しており、上林監督から見てもまずは3年間続けられるかという点を心配していたようだ。ただそんな中でも光るものは確かにあったという。
「1年生の5月くらいに、紅白戦で当時4番を打っていた選手を左ピッチャーと対戦させたいということで高橋を投げさせたんですね。そうしたらスピードはそんなに出ていなくても球筋のきれいなボールを投げていて、これなら体ができてきたら楽しみだなと思いました。一冬超えて2年の春になってスピードも上がってきて、秋には戦力になれそうだなと思って公式戦でも投げさせました。右の田中(太晟)が早くから投げていたので、いつも2人で競わせるようにして、それも良かったのかもしれませんね」
それでも2年秋の時点ではまだまだ実績もなく無名の存在だった。そこからU18侍ジャパン候補に選ばれたのはどんな経緯だったのだろうか。
「北海道の高野連から各支部に選手を推薦してくれという連絡がありました。高橋も2年秋に143くらい出るようになっていたので、田中とセンターの手代森(琉輝)と高橋を出したんですね。映像を送る形でした。そうしたら高橋が北海道から選ばれる選手の最終に残ったと。それでも3人の3番目だと聞いていたので、こちらもまさか選ばれるとは思いませんでした。選ばれた時は野球部長とも『大丈夫か?』ということばかり話していました。不安しかなかったですね(笑)」
言ってみれば“ダメ元”で推薦してみたところから、一気に駆け上がったと言えるだろう。上林監督の判断がなければ、高橋の名前はまだ隠れたままだった可能性も高そうだ。そんな高橋の成長の理由についても上林監督はこう話す。
「一番大きいのは素直だというところじゃないですかね。元々自分に自信があったわけではないというのもあるかもしれませんけど、練習もトレーニングも素直に聞いて取り組むことができる。そこから徐々に力もついてきて、自信をつけていったのだと思います。野球だけじゃなくて、普段の学校でもちゃんと話せるようになって、最近は自分の意見も言うようになりました。あとは去年の秋にサヨナラ負けの負け投手になった悔しさもあったと思いますね。この冬から春にかけての成長はこちらの想像以上でした」
人生が変わったU18侍ジャパンの三日間
U18侍ジャパン候補合宿の紅白戦では2回を被安打1、3奪三振で無失点と、全国から集まった好打者を相手に見事なピッチングを見せた高橋。しかしこれだけの結果を残しながら、衝撃を受けた選手もいたという。
「一番印象に残っているのは大阪桐蔭の境(亮陽)です。ストレート、ストレートで追い込んで、最後はスライダーで自分としても『決まった!』という手応えのあるボールでコースも良かったんですけど、簡単に芯でとらえられました(結果は強い当たりのピッチャーゴロ)。左バッターであのスライダーを簡単に合わせられるのはビックリしました」
この春の練習試合では八戸学院光星、仙台育英などの強豪とも対戦。その度にスカウト陣も視察に訪れているというが、そんなプレッシャーの中でも成長は実感できている。
「冬の間に下半身強化とフォームのバランスを良くするというのは重点的にやって、ストレートのスピードも質も上がったと思います。変化球では上林先生からカーブが良くなればもっとストレートも良くなるんじゃないかということを言われて取り組んできて、カーブも自信がつきました。U18合宿の後はスカウトの方や取材が来ることも増えて、3日間で人生変わったなという感じがします。でもそのことで自分の意識も変わりましたし、プレッシャーを感じることもありますけど、自信になったことの方が大きいです。ただあまり周りのことを考え過ぎると調子に乗ってしまうので、そこは気をつけないといけないなと思っています」
北海道はシーズンが始まるのは遅く、公式戦がスタートしたのは5月に入ってからだが、それまでの練習試合でも自己最速を更新する147キロをマークしており、コンスタントに140キロ台中盤を記録するなど、順調に調整を続けているという。周囲からの注目が高まる中でも、自分を見失うことなくプレーできていると言えそうだ。
最後にこの夏、そして今後への意気込みを高橋に聞いた。
「まずは夏しっかり勝って甲子園に出ること、上林先生の甲子園初勝利をあげることが目標です。その後はプロに行って、将来的には世界中の人々を楽しませるような選手になりたいです」
(取材・写真/西尾典文)
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