【相陽中】「中学軟式王国」を引っ張る指揮官のバッティング指導(前編)

14年に大沢中を率いて全国中学校軟式野球大会でベスト8。15年から相模原市立相陽中に移ると、春の神奈川大会で2度のベスト4入りを果たす。常に全国大会を狙えるチームを作り上げている内藤博洋監督にバッティング指導について伺った。

中学軟式王国・相模原を引っ張る指揮官

全国有数の中学軟式野球王国――。
それが、神奈川県相模原市である。1990年代後半以降、東林中、上溝中、内出中、大野南中、大野台中、大沢中が全国の舞台を踏み、2005年には上溝中が夏の全日本少年軟式野球大会で全国制覇を果たした。来春、静岡で行われる全日本少年軟式野球には、秋の県大会を制した大野北中が出場することが決まっている。

巨人のエースとして圧倒的な存在感を見せている菅野智之投手も、相模原市の新町中の出身。中学3年生(2004年)のときには夏の神奈川大会で優勝を遂げ、関東大会ベスト8にまで勝ち進んだ。このときチームを率いていたのが、大学を卒業して1年目、まだ22歳の若き指揮官・内藤博洋監督だった。

菅野投手とのやり取りの中で、今でも覚えていることがある。
「『県大会優勝を目指そう』と言ったら、菅野が『先生、ぼくたちは全国大会での優勝を目指しています』と言い返してきました。勝利に対して貪欲な集団でした」

日本一を目指すのが当たり前。目標の場所が高いのが相模原の強さのひとつと言える。
その後、内藤監督は2014年に大沢中を率いて、全国中学校軟式野球大会でベスト8進出。2015年から相陽中に移ると、春の神奈川大会で2度のベスト4入りを果たすなど、全国大会を狙えるチームを作り上げている。

イメージ力を高める素振り

相模原市立相陽中は、JR相模線・下溝駅から徒歩10分の場所にある。全校23クラスの大規模校で、学区も広い。徒歩40分かけて、通学している生徒もいる。
10月の放課後、15時50分頃にグラウンドを訪れると、長い棒やデッキブラシを使って素振りをしていた。
「今日は5時間授業なので15時半ぐらいから始まって、完全下校が17時。6時間授業のときは実質50分ぐらいしかできません。それでも毎日、練習をやって、積み重ねていくことに意味があると思っています」

素振りは、下半身の動きを止めて、腕の動きで振りにいったり、低めをゴルフスイングのようにすくいあげたり、さまざまな打ち方を取り入れていた。
「長いものを振ったほうが体の動きを覚えやすい。いろんな動きをするのは、中学生のうちにできるだけたくさんの打ち方を覚えてほしいから。ひとつの打ち方しかできないと、バッティングの幅がなくなってしまいます」

内藤監督は毎年、打ち勝つチームを作り上げてくる。そこにあるのは、「打てなければ、高校野球で通用しない」という想いだ。毎日、30分の朝練では打ち込みを行い、放課後もどんなに短い時間であってもバットを振る。

素振りもただ振るだけではない。
「左ピッチャー、インコースひざもとのカーブ!」というように、球種とコースを口に出しながら、スイングを繰り返していた。
「素振りをすると、小学生や中学生は下を向きながらバットを振ること多い。それは、ピッチャーをイメージできていないから。口に出せば、ピッチャーのほうを見て、タイミングを合わせるはずです」

また、「目を使って!」「目で追いかけて!」というアドバイスを盛んに飛ばしていた。黒目でボールの軌道を追いかけながら、バットを振る。これも、球種とコースをイメージしなければできないことだ。

そして、素振りの最後にはこんな指示。
「ピッチャーは誰? 戦っているピッチャーが誰なのか、こっちから見ていてわからない。戦う相手がぼんやりしていたら勝てないぞ」

すると、選手たちは「大野北中、○○!」と具体的な名前を口に出してスイング。漠然としがちな素振りも、イメージ力を高めることで、実戦につながっていく。(取材・写真:大利実)

内藤先生の「バッティング指導」後編はこちら