【少年野球2.0】フューチャーズリーグ、少年野球の「未来の姿」を求めて
当サイトでも2回紹介してきた大阪府の堺ビッグボーイズを運営する『NPB法人BBフューチャー』では、連盟主催の公式戦とは別個に、近隣の少年野球チームに呼び掛けて「フューチャーズリーグ」というリーグ戦を行っている。
少年野球でリーグ戦を行う意味
ボーイズリーグなど少年野球の各連盟はそれぞれ公式戦を行い、この勝者による全国大会を行っている。こうした大会とは別に、地域でリーグ戦を行うのは、ある目的がある。
「ボーイズなど、今の少年野球の公式戦は、ほとんどが一戦必勝のトーナメント戦です。負ければ後がない大会ですから、どうしてもエース級の投手の酷使につながってしまう。
また、レギュラー選手を固定してしまいがちです。大会が進めばエースやレギュラー選手は酷使によって疲労がたまり、故障のリスクが高まりますが、一方で控え選手は応援するだけで出場機会がなかなかまわってきません。指導者もプレッシャーがあるので、控え選手を抜擢するなど思いきった手を打つことができません。
勝利至上主義的な戦術を使うことも多くなります。 少年野球の目的は、子供たちが”野球好き”になって、野球と長く付き合えるようにすることです。子ども達に野球の楽しさを味わわせ、試合で存分に力を発揮してもらうためにも、リーグ戦の創設が必要だと思ったのです」
堺ビッグボーイズの瀬野竜之介代表は話す。創設して5年目になる。
低反発金属バットを使った試合
「フューチャーズリーグ」は、1年生、2年生、3年生の3つのリーグに分かれている。週末を利用して、大阪府内のグラウンドを借りるなどして行われている。
参加するチームはボーイズリーグとは限らない。リトルシニアなど他の連盟のチームも参加している。またどのリーグにも所属しないチームも参加している。
連盟の公式戦の合間を縫って行われているので、チームはベストメンバーとは限らない。しかしそれだけに思いきった選手起用ができる。また、負けてもそれでおしまいではないので、監督も勝利に固執せず伸び伸びとした采配を振るうことができる。
さらに「フューチャーズリーグ」は意欲的な実験の場にもなっている。10月14日と20日に行われた堺ビッグボーイズと独立系の南大阪、大阪福島リトルシニアとの試合では、両チームが申し合わせて「低反発金属バット」が使われた。
今夏のU18アジア選手権では、大阪桐蔭高の根尾昂選手など甲子園で活躍した選手たちが日本代表として韓国や台湾の代表チームと対戦したが、3位に終わった。これはバットの違いが大きな原因だったとされる。国際大会では木製バットが使用されるためだ。韓国や台湾の同世代の野球も木製バットだが、日本の高校野球は金属バット。反発係数が大きく違うために、日本の高校球児は十分に対応できないのだ。
「金属バットと木製バットのギャップ」は、高校生が大学、社会人、プロへ行っても必ずついて回る。 このギャップを埋めるために、少年野球の世代から木製バットと同様の反発係数に調整されたアメリカ製の「低反発金属バット」で野球をしてみることになったのだ。 中学の硬式野球は打撃戦が多いのだが、14日の試合は2試合ともロースコアだった。打球音は鈍く、多くの飛球は失速した。 打者は「芯に当てないと飛ばない」と言った。また投手は「球が飛ばないので思い切って投げることができた」と言った。
20日の試合は打撃戦になった。この日、試合をした大阪福島リトルシニアは「低反発金属バット」に慣れるために、1か月前から木製バットで練習をしていたという。
こういう形で、高校球児が必ず通らなければならない「金属と木製のギャップ」への対応を経験するのも、今後の少年野球を考えるうえで大きな意味がある。
投手の球数制限も実施
「フューチャーズリーグ」では、投手の球数制限を実施している。攻守交替のたびに「〇〇投手、この回は25球、合計55球です」という風に場内放送でアナウンスしている。場内アナウンスは父母の負担軽減のために、プロを雇っている。
ボーイズ、リトルシニア、ヤング、ポニーの各連盟は、申し合わせによって投手のイニング制限や登板間隔の規定を設けている。一応、投手の酷使対策をしているのだが、イニング制限では投手の酷使を完全に予防することはできない。制球が悪かったり、打ち込まれたりすれば、1イニングでも30球、40球と投げてしまう選手が出てしまうからだ。それは関係者も理解しているが、すべての試合で球数をカウントする係員を配置するのは難しいために、各連盟の公式戦は次善の策として球数制限ではなく、イニング制限になっているのが現状だ。
しかし、実際に球数制限をしてみると、意外にスムーズに運用されている。両チームの監督は、2年生は60球、3年生は80球に達した段階で投手を交代させていた。球数制限は案外難しくない、という印象だ。
「フューチャーズリーグ」は、選手に試合経験を積ませる機会ではあるが、同時に選手の健康面や将来により配慮した「新しい少年野球」の方法論を、各チームの指導者に実感してもらう良い機会にもなっている。
こういうスタイルのリーグ戦が、全国で行われれば、少年野球の改革は進み「野球離れ」を食い止める一助になると思った。(取材・文、写真:広尾晃)