【今、野球と子供は。】中学硬式野球の問題点
中学野球は、中体連所属の軟式野球部の競技人口、チームが激減している一方で、硬式少年野球チームは、横ばい。堅調に推移している。しかし全体では競技人口は減少している。 トータルでの競技人口は10年前の40万人弱から、23万人程度に減少している。 なお、中学軟式野球には、学校に属さないクラブチーム、リーグも存在する。中体連には属さず全軟連だけに所属するチームだ。競技人口は確認できない。このチーム、リーグについては今後、取材を進めたい。 中学校の硬式野球チームは、「野球塾化」が進み、一部で加熱しているが、その過程で様々な問題が生じている。
(1)親の負担
少年野球では、父母が子供を練習場や球場まで車で送り迎えをすることが多い。また、試合や練習の際には父母が水分補給や食事の世話をするケースも多い。これを「お茶当番」という。
少年野球の指導者は「子供が頑張っているのを、親が支援するのは当たり前」と言ってきた。
「お茶当番」は、子どもだけでなく監督やコーチの食事の世話などもする。日本の少年野球では、指導者は原則無報酬だ。それもあって、指導者の世話をするのは親の役割になっていた。また遠征も、親が車を出すのが一般的だった。こういう形で親が毎週末、子どもの野球に付き合うのが普通になっていた。
しかし、共稼ぎ世帯が増える中で、「お茶当番」などを負担できない親も増えている。
このため、最近の少年野球では、父母の負担を軽減するチームが多くなっているが、それでも「お茶当番」に時間を取られる親は多い。
少年サッカーでも「お茶当番」は問題視されている。サッカーではサッカー協会や連盟からの補助金で親の負担を軽減する措置もとられている。
経済的負担も重い。野球用具は、少年野球連盟公認のものを使うことが求められる。安価な、いわゆるB品などは使えない。またバッグやシューズバッグ、バットケース、さらにはユニフォームだけでなく、トレーニングウェアやスタジアムジャンパーなども購入しなければならない。
それに加えて、最近は選手にプロテインなどの補助食品を摂取させるチームも多いと聞く。さらに、練習後の体のケア、メンテナンスのために、専門家にストレッチやマッサージを依頼することも多い。
昔の「少年野球」と比較すると、親の負担は激しく増えている。
親の中には「これは大学受験のための塾と同じで、教育投資ですね」という人もいる。
(2)選手の酷使・健康被害
中学の硬式野球リーグには、多くの大会が組まれている。子供たちは毎週のように試合に出場している。大会の多くはトーナメントのため、勝ち進むと投手は連投になる。1日2試合、3日で5試合など、過酷な登板を強いられる。
トーナメントは1度負けると終わりになるため、必勝を期するためエースを連投させることになる。このため、チームで最も優秀な投手の負担が高まり、野球肘などの健康被害に苦しむことになる。また投手ほどではないが、捕手の負担も大きくなる。
リトルシニア、ボーイズ、ヤング、ポニー、フレッシュの少年野球主要5団体で作る日本中学硬式野球協議会は、2015年「中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン」を設け、試合での登板は1日7イニング以内、連続する2日間で10イニング以内と定めた。これは子供の健康被害を軽減するためには、一歩前進ではある。しかし、投手が制球難になったり、打者が待球作戦を取れば、7回で球数が150球近くになることも珍しくない。
MLBは2014年に、年齢に応じた投球数や登板間隔を示した「ピッチ・スマート」という専用サイトを開設した。このサイトによれば15-16歳では1日に95球まで。0-30球までは登板間隔は0日。31-45球は休養日1日、46-60球は休養日2日、61-75球は休養日3日、76球以上は4日以上の休養日となっている。
やはり球数制限をしなければ、投手の「健康被害」は防げない。しかし、試合で球数をカウントする人を常時確保できないなどの理由で、球数制限を常時実施している団体はない。
投手の酷使は、試合だけでなく、練習での「投げ込み」によっても深刻化する。少年野球の指導者の中にも「投球制限」の考え方はかなり浸透しているが、一部には「投げ込まないとコントロールが付かない」と投げ込みをさせる指導者もいる。統一したライセンスがないために、指導法もチームによってばらばらなのだ。
小学校、中学校でずば抜けたパフォーマンスを見せた投手が、高校になると投手を断念したり、野球をやめてしまったりするケースがよくある。少年硬式野球では、こうした「将来性の先食い」が起こっているのだ。
(3)機会の不平等
少年野球の大会はほとんどが「負ければ終わり」のトーナメントだ。このために各チームはベストメンバーで試合に臨む。毎週のようにトーナメント大会があるので、レギュラー選手は年間に数十試合、ときには100試合近くに出場することになる。しかし控え選手の試合出場は少ない。ベンチにも入れない選手は、試合のたびに客席で応援することになる。高校野球もそうだが、こうした機会の不平等が「野球離れ」の一因になっている。
指導者は勝つために、ベストな顔ぶれをそろえたいと思う。新しい選手を抜擢するような冒険は難しい。
親にしてみれば、同じように費用負担をして、子どもが試合に出場しないのは理不尽だと感じることも多い。
シーズンが進むとレギュラー選手は疲労し、故障なども起きやすくなるが、一方でその他の選手は試合経験も積まず、座って声を出しているだけ。レギュラーと非レギュラーの格差は大きくなる一方だ。
こうした状況は、トーナメント戦中心という今の少年野球のスタイルが生んでいるといえるだろう。
(4)暴力、パワハラ
今、少年野球各団体の機関紙では、大きな紙面を割いて「暴力の排除」を打ち出している。
「最近は、指導者がちょっと声を荒げると、すぐに連盟にクレームの電話がくる」と団体幹部は言う。また指導者の喫煙なども、おおっぴらにはできなくなっている。
しかし、それでも試合中に激しいヤジを飛ばす指導者は多い。また失敗した選手を叱りつける場面もよく見られる。
指導者の中には「世間がうるさいから、表立ってはおとなしく指導している」という人もいる。
スポーツにおける暴力やパワハラは、スポーツの本来の目的からは大きく外れている。いついかなる時でも、それは排除されるべきものだ。
しかし指導者の中には「時代が変わったから、仕方なく」声を荒げなくなった人も多い。また父母の中にはいまだに「厳しく指導してほしい。いうことを聞かなかったら殴ってください」という親もいる。こうした体質を変えない限り、少年野球は変わらないだろう。
なぜ暴力やパワハラがダメなのか、を指導者、親が理解しなければならないのだ。
これらの問題点は、「高校野球」が抱える問題点とほぼ同じ。少年硬式野球は、甲子園を頂点とする高校野球に進むことを最大の目標にしている。そのために「高校野球のミニチュア化」しているのだ。
この問題の根本的な解決には、高校野球の改革が不可欠だという一面もあるのだ。(取材・文、写真:広尾晃)