【履正社】毎日行う実践練習「決まった練習ばかりでは試合で対応できない」

野球優先ではない学校生活

子供たち大阪府豊中市にある学校から大阪府茨木市にあるグラウンドまでシャトルバスで揺られること約30分。ナインがグラウンドに到着すると、更衣ののち、足早にグラウンドに集まりキャッチボールが始まる。曜日によって練習の開始時間は異なるが、遅い時は4時半を回ることも。学校の方針でテスト前、テスト中は練習ができず、毎朝授業前に小テストが実施されるなど、学校生活は決して野球優先ではない。

練習を行うグラウンドでも完全下校のシャトルバスの最終時刻が夜の8時半に決まっているため、アップを入れると練習時間をどれだけ確保し、効率よくやるかがポイントだ。

「今までは1学年が15人から20人ほどで、3学年が揃っても60人に届くか届かないかほどの部員数だったんですけれど、今は受け入れる部員数が変わって今は1、2年生を合わせても58人。でも、これまでと同じように工夫しながらやっています。ウチは室内練習場がないので、その時は構内のスペースやウエイトトレーニングを使っての練習になりますね。普段は昨年までテニスコートとして使用されていた敷地をうまく使って片方はバッティング、片方はノック、というようにチームを班分けしながら効率よく練習をこなします。だから部員が増えても練習量は減っていないと思います」。

とにかく多い実戦練習

子供たち岡田龍生監督は86年に野球部監督に就任以降、長年にわたって下地を作り、今や履正社を全国有数の強豪として数えられる強豪校に育て上げている。T—岡田(オリックス)や山田哲人(ヤクルト)など、プロの世界の第一線で活躍する選手も多く輩出。97年夏の初出場以降、春は7度、夏は3度、チームを甲子園に導き、15年、17年のセンバツでは準優勝するなど、今や同じ大阪のライバルの大阪桐蔭にも負けない戦力を誇っている。

子供たち練習の特徴としては、履正社はとにかく実戦練習が多い。ケースバッティングやシートバッティングなどに時間を割き、いろんな場面を想定しながら選手に考えさせる。年によっては冬場でも紅白戦をすることが多かったが、岡田監督はそのやり方をさらに変えていくつもりだという。

「実戦練習は毎日やっていますね。バッティングだけではなくて守備、走塁、それぞれの位置から自分で考えてやるかたちは必ず取っています。試合になると何がどうなるのか、どんなケースが起こるか分からないですし、決まり切った練習ばかりしても試合では対応ができませんから。ただ、この秋は様々なパターンの試合展開を経験して、紅白戦をどんどんさせるのも少し違うかなと思って。ただ、紅白戦を完全にやらないわけではなく、行う頻度は減るかなと。もっと様々なケースを設けたバッティング練習をやった方が効果的かと思ったんです」。

時間の使い方の工夫が大事


子供たち実戦練習を多くこなすメリットは、当然試合に生きる部分が多いことだが、卒業後、さらに上の世界で野球を続けた時に役立つことも多々ある。大学に進めば練習時間はほぼ自主練習を占める場合もある。自分で考えて、何ができるか。

「聞くと、ウチでは高校の時に当たり前のようにやってきたことが、大学に行くとできない同級生がいるとこともあるそうです。そういう時にウチでの経験が生きるし精神的優位に立てるでしょう」。

子供たちそれを完全に生かせているかはもちろん本人たちの意識次第だ。指揮官が毎年きっちり教えたつもりでも、学年によっては飲み込みが悪く理解不足な年もある。

「実戦練習の中でお互いに意見を言い合えるチームはやはり結果が出ていましたね。“今のはランナーの判断が悪い”とか“ここはカバーにいかないといけない”とか。練習の中であれこれ厳しいことを自分たちで指摘できるかどうかで、チームの力は見えてきます。指導者に言われて動いているようでは、のちのちの成長度合いは低いです。

そもそも自己分析が出来ない子は伸びない。周りがやっているから自分もやろうではなく、自分に何が足りないかを分析して課題練習の時間をどう使うかです。持っている課題はそれぞれ違うけれど、24時間という1日の時間はみんな同じ。でも、生徒によって通学時間が違うから、その分時間の使い方を工夫すれば何かができます。そういう工夫する習慣って大事だと思うんです。これは世の中に出ても言えること。仕事をしていてうまくいかない時に、じゃあなぜダメなのかを自己分析できるようにならないといつまでたっても同じ。周りの変化にも気づいて、自分に足りないものは何か、客観的に自分を見られるようにならないとね。これは最近、よく選手たちに言っています」。(取材・写真:沢井史)

後編へ続きます