【大阪桐蔭】甲子園で見せた相手への敬意と気遣いは「自然なこと」

その強さだけではなく、選手たちの勝ってもおごる様子のない態度、対戦相手をリスペクトする姿勢にも大きな称賛を集めた。このような「強いだけではないチーム」はどのように築き上げられたのだろうか? チームを指揮する西谷浩一監督にお話を伺った。

3人部屋から育まれる他者への気遣い

インタビュー前編:西谷監督「野球さえやっていればいいという考えではダメ」

大阪桐蔭の寮は基本的には3人部屋。同級生3人で形成され、半年に1度メンバーチェンジをするのだが、この“3”という数字には意味がある。例えば夏の大会前のメンバー発表。3人全員がメンバーに入るにこしたことはないが、2人が入って1人が外れる、反対に1人だけが入って2人が外れることもある。そうなった時、自分がメンバーに入った場合は周りにどうやって声を掛ければいいのか。逆の場合はどうなのか。その状況に応じた対応や気遣いが、将来にプラスになることもあるという。

「社会人になると、これに近いケースってありますよね。1人部屋ならそこまで気を遣わなくてもいいけれど、集団で生きていく中で、周りにどれだけ気を遣いながら、そしてライバルに勝つために自分の目標に近づいていけるか。こういう状況で、メンバー入りできない子がちゃんとした振る舞いができる学年はだいたい結果が出ていますね」。

12年に藤浪晋太郎(現阪神)、森友哉(現埼玉西武)らを擁して春夏連覇を達成した年と、今年2度目の春夏連覇を達成したチームは、そのあたりがとてもよく似ているという。レギュラーはもちろん最大限の力を発揮したが、共通点はベンチ入りできなかった選手がレギュラーに尊敬されるほどの存在だったこと。
控え選手はメンバーに外れたからいじけるのではなく、試合に出られなくても今の自分は何ができるかを常に考えていた。大会に入れば対戦相手の偵察に行ったり、練習を手伝ったり。不調になった仲間に声を掛ける選手もいた。そして試合に出られなかった悔しさを心の底に宿し、大学など次のステージでレギュラーを取っていることも少なくないのだ。

選手にある、周囲を見渡す視野の広さ

意識の高さはレギュラー、控え選手は関係ない。そして周囲を常に見渡せる視野の広さも大阪桐蔭の選手にはある。それを最も感じたのが、今夏の甲子園の2回戦の沖学園(福岡)戦だ。足がつった状態で一塁ベース上にいた相手選手に、俵藤夏冴選手らが率先して氷のうやコールドスプレーを持って駆け寄り、素早く処置。この対応に世間から称賛の声が挙がったが、実は西谷監督は少し戸惑いを感じている。

「ウチでは普段の練習からも誰かがケガをすれば氷のうやコールドスプレーを持っていきます。練習試合でもそう。審判の方にボールが当たったりしても同じです。特に、自分のグラウンドでの試合だと氷のうを作るための氷がどこにあるか分かりますから、誰かが気づいて持っていくのは普通なんです。相手チームだからどうっていう感情もまったくないですし、甲子園だからやった訳でもないんです。

あの時はコールドスプレーを持っているランナーコーチャーが(足がつって出塁した相手選手の)近くにいましたし、自然なことです。試合直後、新聞などで大きく取り上げていただきましたが、こちらからするとそんなにすごいことをやったという気持ちは本当にないんですよ」。

それでも迅速にそういった行為が自然にできる選手が集まる大阪桐蔭は、技術だけではない“強さ”を今年あらためて感じた。高校野球を通して、2年半どのような成長曲線を描けるかは、自身の意識の高め方と目標をいかにブレずに持ち続けるかが大きく左右するのかもしれない。(取材・写真:沢井史)