【東邦】東海王者の練習は基本重視の「東邦スタイル」

今秋の東海大会で頂点に立ち、2年連続のセンバツ出場を当確にしている東邦(愛知)。2016年夏の甲子園では、八戸学院光星(青森)を相手に終盤で7点ビハインドをひっくり返したミラクル劇も記憶に新しい。看板となった全国屈指の強打線など攻守に地力が際立つが、どのように強さを築き、維持し続けているのか。その練習に迫った。

4種類の練習をみっちりローテーション

東邦には確立された練習方式がある。4種目の練習メニューのローテーションだ。4種目とはフリー打撃、ティー打撃、個別ノック、近距離での手投げによるゴロ捕球。主力組の16人が4人ずつの計4組に分かれ、ローテーションしてそれぞれに時間を割く。平日は各25分、土日などは各40分と長時間に及ぶ。グラウンドには、打撃投手やマシンを打ち込むフリー打撃用のケージが4つ並ぶ。ファウルエリアで他の3種目を行う。
 
連日、時間をかけてこれを繰り返す。現在のスタイルになって3年ほど。藤嶋健人(現・中日)が最上級生になった2015年秋ごろから取り入れ、設定時間などに若干の変化はあれど、時期を問わず続けてきた。逸材・藤嶋が卒業してからも東海地区王者の座をほぼ不動のものとしており、効果は大きそう。森田泰弘監督は「集中的にやることで考えながらできる。各メニューで意識すべきことがあるので、より強くそれを強調してやっていける」と意義を説く。

それぞれの練習のミソや注意点は後篇で詳述するが、練習量の確保と技術向上を実現してきた基本重視の“東邦スタイル”。主力組ではない“Bチーム”も、打撃メニューを室内練習場で行うこと以外、内容は同じだ。この4種目を一巡した後、全体でのシートノックや筋力トレーニングに移る。

今秋は試合形式の色彩をこれにプラスした。シート打撃も連日の練習に組み入れ、秋季大会中は平日夜も練習試合に臨んだ。「今のチームが勝てた要因の一つは、実戦形式によりゲームでの能力が上がったこと。従来、1月や2月はゲームから離れて基本練習やトレーニングにあててきたけど、この冬は実戦形式をゼロにせず、ある程度残しながらやっていきたい」と闘将は構想をブラッシュアップさせている。

全国級の打線「打ち返す打力がなければ勝てない」

ここ数年、東邦打線は毎年全国トップクラスだ。昨秋の東海大会では3試合で25得点、打率は3割5分を超えた。さらに今秋の東海大会では3試合で27得点をたたき出し、打率は4割に迫った。前任の阪口慶三監督(現・大垣日大)が築き上げた伝統の守備力に、バトンを受けた森田監督が強打をプラスしたと言われる。

この秋、チームを東海王者へ導いた森田泰弘監督

森田監督のスタンス自体は守備へのウエートが高い。「攻撃力を優先しているわけではない。打つだけの選手を守備に目をつぶって使ったことはない。守備はうるさく言う。打撃はタイミングについてはやかましく言うけど、それ以外は『自分なりにさばき方を身につけろ』と言うぐらい」(森田監督)。投手を中心とした野球を軸とし、今秋の東海大会制覇の要因には強打者・石川昂弥(2年)が主戦投手として活躍したことを真っ先に挙げた。

それでもやはり、東邦打線の力強さは魅力だ。「攻撃力がないと上までいけないのは確か。いいピッチャーでも試合後半は疲れてくるもの。打ち返すだけの打力がないと勝てない」(森田監督)。

日々のフリー打撃やティー打撃でのスイング量は相当で、強く振る力や対応力、見極めはバッチリ。さらに実戦に向け、練習では「いろいろなタイプのピッチャー(味方の投手)をミックスで打つ」(森田監督)ことをしてきた。好投手対策も十分で、味方の打撃投手を1メートル半ほど短い距離で打ち込んだ。「いい投手と試合で当たっても、ナインは『練習でのチームメートの球と変わらない』と言っている。練習で最初は手こずっても、やっているうちに体感を通じて慣れてきて、試合でも対応できている」(同)。

東邦といえば、2016年夏の甲子園(八戸学院光星戦)や、昨年・今年の秋季東海大会準決勝などに代表されるミラクル逆転劇が有名。森田監督は「特別なことをしているわけではないが、何かあるんだろうね。先輩たちがああいうゲームをやって、伝統として伝わるし、自信になっているのでは。ビハインドでも受身にならず『なんとかできるぞ』という雰囲気がある。私も『相手を見上げたら負ける。見下ろしてやれ』と言っている」。そして「地力がないと(逆転劇は)できないことでもある」と力強く結んだ。(取材・写真:尾関雄一朗)

後篇では、練習内容の詳細をお届けします。