「現役のプロ・アマ選手と一緒に野球あそびをしよう」イベントレポート(前編)
12月9日、早稲田大学の野球部OB稲門クラブが主催する野球あそびのイベントが早稲田大学安部球場、軟式野球場で行われた。現役プロ野球選手、社会人野球選手も参加したが、いわゆる『野球教室』とは趣旨が異なるものだった。そのイベントの様子をレポートする。
早稲田大学のOBが中心となって行われている今回のイベントは二年前から行われているもので、今年で3回目を迎える。一昨年行われた第1回目のイベントには和田毅(ソフトバンク)、青木宣親(当時アストロズ/現ヤクルト)などプロ野球で活躍する早稲田大学のOBも参加したが、今回のイベントにも斎藤佑樹(日本ハム)、重信慎之介(巨人)、東條航、丸子達也(JR東日本)、そしてこの秋まで主将をつとめドラフト会議でロッテから3位で指名された小島和哉が参加した。

シーズンオフのこの時期は現役選手が全国で野球教室を開催しているが、このイベントは少し趣旨が異なる。野球の技術を伝える、指導するのではなく、あくまで一緒に野球の楽しさに触れてもらうということをテーマにしているのだ。そのためイベントで行われるのはあくまで野球に類似した「あそび」。難しいルールを省略し、子どもにも理解しやすい工夫が凝らされたゲームとなっている。
過去二年間も行ってきたこのイベントだが、今年は昨年とは大きく異なる点がある。それは参加する子どもの対象を『“野球チームに所属していない”小学3年生~6年生の男女』としたのだ。もっと年齢の低い未就学児に対して野球を体験してもらうイベントは少なくないが、この年齢層のチームに所属していない子どもに絞ったイベントというのは他にも類を見ないものであろう。今回このターゲットに絞った理由をイベントの発起人である大渕隆氏(日本ハムファイターズスカウト部長)と、運動指導や子育てについて研究している勝亦陽一氏(東京農業大学准教授)はこのように話した。

大渕「今回参加しているお母さんに話を聞いてみたとこと、(お子さんは)もともとチームに入っていたのですが受験勉強のために少しお休みしますと言ったら、チームからは毎回来られないなら辞めてくださいと言われたそうなんですね。そういう話からもチームに入ることのハードルが高くなっているのが現状だと思います。あそび感覚ではやりたくてもやれない。だから今回はあえて現在チームに所属していない子どもを対象にしました。今は“やる”か“やらないか”しか選べない。これは野球に限らずそうなっていて、なんでも習うものになっています。でも本来スポーツはあそびのはずで、あそびの中から工夫が生まれると思うんですよね。大きな話をすると野球だけの問題ではなく社会的な問題だと考えています」
勝亦「今までも保護者や子どもに対してなぜチームに入らないのか調査していて、その結果から見ても時間や場所がないことは明らかだと思います。だからこのイベントだけではなく、大学のリーグ戦でグラウンドを使わない期間を利用してこの安部球場を開放する試みを行っていて、今年も年8回実施しました。そうやって継続して行っていくことが重要だと考えています」
子どもの募集については西東京市の小学校へのチラシ配布、SNSを使って行い、当初は苦戦したものの最終的には募集人数を上回る応募があったという。この日も最終的には163人が参加し、そのうち136人がチームに所属していない、本格的な野球を経験しない子どもたちだった。
この日はまず10時45分にグラウンドを開放。午前中の時間は自由参加であり、広いグラウンドを使って何をしても良いというものだった。トスマシンやスピードガン(マイル表示)が設置されたエリアでは初めてバッティングやピッチングに多くの子どもたちがチャレンジしていたが、あくまであそび場の開放ということもあり、トランポリンやサッカーボールを使って遊ぶ子どもも多く見られた。これも既存の野球教室とは一味違うものだろう。
大渕氏は「チームで野球をすると子どもが一列に並ぶところから始まりますが、それがそもそもおかしいと思う」とも話していたが、確かにあそびにはそのような規律は必要ないだろう。同行していた保護者たちも一緒になって楽しむ様子はまさに“あそび場”というコンセプトにふさわしいものだった。
12時になると開会式が行われ、前述したプロ、社会人、現役大学選手の紹介とデモンストレーションが実施された。最初に子どもたちにプレーを見せたのは小島投手。マウンド付近からホームに向かってキャッチボールを開始し、その様子を斎藤選手が「相手の胸に投げることが大切」といった風に解説する形で行われた。その距離は徐々に伸び、最終的にはセカンドベース付近まで後退。約40メートルの距離でも真っ直ぐの軌道で相手まで届くボールの勢いに子ども、保護者から歓声が上がった。
次に実演を見せたのは重信選手。小島投手がマウンドに立ち、牽制をかいくぐって盗塁を決めるデモが行われた。プロでもトップクラスの脚力を誇る重信選手が楽々盗塁を決めるとそのスピードにも大きな歓声が上がっていた。
そして最も子どもたちを沸かせたのがバッティングのデモンストレーションだ。ここでは社会人でも屈指の強打者として知られる丸子選手がロングティーを披露。徐々に飛距離を伸ばしてスタンドインすると、関係者も含めた全員から大きな歓声と拍手が起こった。
丸子選手の後には飛び入りで来年からルートインBCリーグの茨城でプレーする鴨志田舜人選手(慶応大学卒)と、かつてアメリカのマイナーリーグでプレーし、最もメジャーに近い日本人野手とも言われた根鈴雄次さん(法政大学卒)も参加。ともに苦戦しながらもスタンドインする打球を披露し、早稲田大学以外の東京六大学OBが交流する姿も見られた。これらのいわゆる“プロの技”を見る子ども達の目は輝いており、野球をやりたいという動機づけには非常に有効だと感じるデモンストレーションだった。(取材・西尾典文、写真:編集部)