【近江】全員で声を出しながらボールを追いかける「全員の空間」

01年には県勢初の夏の甲子園準優勝を果たし、今年は春夏連続甲子園出場。夏の甲子園はベスト8。準々決勝で金足農に劇的なサヨナラ2ランスクイズを決められ敗れたが、近江の強さを全国に印象付けた。そんな近江のグラウンドで多賀章仁監督にお話を聞いた。

全員でひとつのボールを追いかける

監督に就任してちょうど来年で30年になる多賀章仁監督は、これまで滋賀県の高校野球をけん引してきた1人でもある。01年には県勢初の夏の甲子園準優勝を果たし、以降はコンスタントに甲子園の土を踏み、近畿圏の中でも常連校の呼び声が高い。

長い指導の中で多賀監督が心掛けてきたのは「全員が練習できる環境」。ノックでは以前は内野手がボール回しをする時、外野手は外野の守備位置に散って外野ノックを受けていたが、今はボール回しの際から外野手も内野に集まり内野の各ポジションを取り囲んでいる。

実はこの秋、指揮官が練習見学に訪れた奈良学園大のノックをヒントにして変えたのだが、「全員でひとつのボールを追いかけることで一体感が増す」という指揮官のポリシーをひとつの形にした。基本的に全員が平等にボールに触れることを心掛けてきたが、部員数が増え、練習環境の広さの限界があるのも正直なところだ。班分けをして、ノックを受けるサイドでトレーニングやティーバッティングをする、いわゆる合理的な練習も行っていたが、真ん中に指揮官が立ち、その指示に応えながら全員で声を出しながらボールを追いかける“全員の空間”を大事にしている。ノックでは良いプレーに対しては全員で大きな声で称え、ナインはとにかく元気がいい。
「やっぱりこうやって大きな声を出しながらはつらつと動くのはいいものですよね」と指揮官は笑みを浮かべる。

この日の練習は朝から雨天のためグラウンドコンディションが悪く、グラウンドの一部を使うメニューとなった。外野でランニングののち、アップ、短い距離のダッシュ。その後、キャッチボールが始まったが、キャッチボールで意識するのはボールの高さ。胸からベルト付近の位置にいかに正確にボールを投げられるかだ。
「ボール回しでも、相手の位置を見ながら一定の高さに常に投げていけるかが大事。あまりにもボールが高くなってしまうと、相手の動作が遅くなってしまう。相手がいかに次の動作に移りやすくできるよう、胸からベルト付近に投げられるかなんです」と指揮官は言う。

打撃練習も同じだ。ひとくちに“自分のポイント”とは言うが、そのポイントがどこなのかを熟知しておかなければならない。
「基本的にはベルト付近のコースに来た球を自分のスイングで打ち返せたら、強い打球を遠くへ飛ばせます。バッティングは飛ばしたいという意識が一番出てしまうけれど、ベルト付近のどこが自分のポイントなのかしっかり把握しておかないと技術は向上しません。その中で、好球必打、そしてフルスイングができるようになって、ヘッドスピードが上がっていけば打球は飛ぶようになりますね」。

今年のチームは春夏連続甲子園出場を果たし、夏の甲子園はベスト8。準々決勝で金足農に劇的なサヨナラ2ランスクイズを決められ敗れたが、“打の役者”はいた。4番の北村恵吾選手は1年夏から中軸を打つ強打者だ。今夏の甲子園では初戦の智弁和歌山戦では2本の2ランを放ち、3回戦の常葉大菊川戦では4安打6打点をマークした。今夏の甲子園で打率.769を残した2年生の住谷湧也は169cmと小柄ながら鋭いスイングから長打も打てる好打者で、現チームでは4番を任されている。1年夏から3番を打つ土田龍空は俊足も売りで、今夏の甲子園4試合で5安打を放ち、さらに自信をつけた。(取材・写真:沢井史)

*後編「苦労する冬場の練習メニュー」に続きます*