DeNA筒香選手が「野球の未来」へ向けてメッセージ、堺ビッグボーイズ「アグレシーボ体験会」
ボーイズリーグに所属する、大阪府堺市の堺ビッグボーイズは、1月14日、堺市内の同チームの専用球場で、小学生以下の未経験者を対象にした野球体験教室「アグレシーボ体験会」を実施した。
付き添いの父母もわくわくの体験会
「アグレシーボ体験会」は、今年で3回目。堺ビッグボーイズOBで、小学部スーパーバイザーの横浜DeNAベイスターズ、筒香嘉智外野手も参加して、2部制で行われた。
1部は、未就学児、低学年児童。2部は、中学年以上の小学生が対象。併せて80人弱の子どもが参加。
父母が見守る中、子供たちは小学部の佐野誓耶コーチの指導で、ウォームアップから、ランニング、ボールを使ったトレーニング、簡単なゲームと約1時間にわたって体を動かした。
1部、2部ともに基本的なメニューは同じだったが、2部ではウォームアップで三点倒立をしたり、ゲームも少し高度になるなど、子供たちのレベルに合わせてきめ細かな配慮がされていた。
「このウォームアップは、筒香選手もずっとやっていたんだよ」と佐野コーチが言うと、子供たち以上に、見学をしている父母が反応した。
侍ジャパンの4番打者、現役のスター選手が子どもたちを指導する姿には、子供よりも親の世代がときめく。筒香選手の雄姿をファインダーに収めようという父母の姿があちこちで見られた。
筒香選手は、子供たちの中に入って、ストレッチする子供の体を支えたり、声をかけたり、細やかな心配りを見せた。
ゲーム形式で、子供たちがバットを振る体験では、バッターボックス周辺に集まる子供に「危ないから後ろに下がって」と注意することもあった。
単にお飾り的に姿を見せるのではなく、実際に子供に手ほどきをしようという意気込みが見て取れた。
「野球が好きになる」体験がいっぱい盛り込まれる
最初はおずおずと体を動かしていた子供たちも、次第に体が動くようになる。ゲームでは、グランドを走り回る子供たちの声が、響き渡った。
野球の「投げる」「捕る」「打つ」という動作を体験し、それを組み合わせて行う「試合の楽しさ」を実感する。「アグレシーボ体験会」は短時間だが、子供たちを「野球好き」にする工夫が随所に取り入れられていた。
体験会では、堺ビッグボーイズ小学部の先輩選手たちが手本を見せたり、手伝ったり、サポートをしていた。年齢が近い「お兄さん」たちが、さっそうと体を動かすのを見るのは、子供たちにとっても刺激的なことだったに違いない。
筒香選手のフルスイングに歓声を上げる
ゲームが終わると、子供たちはバックネット裏に回った。
筒香選手が、ソフトボールを使ってフルスイングを披露するのだ。重いソフトボールが、あっという間に小さくなって、空のかなたに飛んでいく。子どもたちは歓声を上げた。
外野では、小学部の選手たちが待ち構えていたが、ほとんどの打球は選手たちのはるか上を飛んでいった。しかしダイレクトキャッチする子供もいた。
筒香選手は「フルスイング」という野球の原点を、身をもって示した。
昨年の「アグレシーボ体験会」のあと、入団者が相次いだが、今年もかなりの子どもが入団するのではないかと思われた。
「野球の未来」へ向けて筒香嘉智選手のメッセージ
2回の「体験会」のあと、筒香選手は、報道陣を前に、野球の現状と未来についてメッセージを発信した。
「昨年は、スポーツ界で良くないニュースが数多く取りざたされました。アメリカンフットボールの悪質なタックルや、ボクシング界、体操界などで良くないニュースが取り上げられました。これは偶然ではなく、スポーツ界全体が変わらなければいけないのかなと感じます。残念ながら、野球界でも強豪少年野球チームの監督の暴力、暴言の映像が出てきました。これもたった1つのチームの問題ではなく、今までこういうことが行われてきたんだな、と思っています。これから子供たちのことについて本当に考えたときに、今行われている指導は正しいのか? なぜこういう問題が起こってしまうのか、みんなが掘り下げて考えていかなければいけないと思います」
筒香選手はこう切り出した。その上で、試合数の増加で子どもたちの負担が大きくなっていることにふれ、
「企業や新聞社などが主催する大会は、ほとんどがトーナメント形式で勝ち進めば進むほど、過密な日程になります。みなさん良かれ、と思ってやっていただいていますが、子供たちが犠牲になっているという観点を持つべきだと思います」
と指摘した。
さらに、
「野球界の体験会が増えるのは、すごくいいことだと思いますが、そこで野球の楽しさを知った子供たち、興味を持った子供たちが、入ったときのチームの環境が変わらなければまた同じことの繰り返しになると思います。子供たちの人生に活かせなければ、本当の意味で野球をする意味はないと思います。ここにいる皆さんのご協力も不可欠だと思いますので、皆さんとも知恵を絞って、よい野球界にしていければと思います」
と語った。
指導者が変わらないと野球は変わらない
この後の報道陣との質疑応答でも、筒香選手は明確な意見を述べた。
――野球界は重い腰で動かないが、少しでも変わったという実感はありますか?
プロ野球界を通じた体験会が増えているのではないかと思います。でも体験会、野球教室は増えたけれど、指導者の方はあまり変わっていないという現実があります。野球を楽しみたいという子が入ったときに「思っていたのと違う」ということになります。やはり指導者の方が変わらなければと思います。
――今日の体験会でコーチの方がホームランを打とう、と言っていましたが?
強い打球を打つことが楽しさにつながりますし、細かいことを言われずにフルスイングをしていた子供が、のちのちそれが役に立ったというケースがかなり多いと思います。小さいころから細かいことを詰め込みすぎると、小さくまとまってしまいがちだと思います。日本にスーパースターが出ないのはそのためだと思います。
――なぜそうなると思いますか?
言い方は悪いですが、いちばん感じるのは指導者の自己満足。ストレスを発散しているのではないかと思うこともあります。勝つことが常に優先されるので、姑息な手を使って勝ちにいったりしても子供たちの将来のためになりません。いちばん勝ちたいと思うのは、選手ではなく監督やコーチだからだと思います。
――甲子園で一人の投手が投げ切ったりしますが、そういう姿を見てどう思いますか?
いちばん印象的なのは、外国人選手の反応です。ベイスターズのロッカールームでも甲子園のテレビが流れていることがありますが、外国人選手は「こいつら潰れてしまうぞ、クレイジーだ」と驚いています。
――新潟県高野連では「球数制限」を導入しようとしていますが?
そうやってルールを変更しないと、みんなやってしまうと思うので、ルールを変えて子供たちの将来を守るのが大事なのかなと思います。
現役選手でありながら「野球の未来」を真剣に考えた筒香選手のメッセージ。
野球界はいろいろな問題を抱えている。変革はまさに「待ったなし」である。