筒香嘉智選手が語った、トレーニング、指導者、少年野球(前編)

1月20日、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手は、出身地である和歌山県橋本市のスポーツ推進アドバイザーとなり就任式に出席した。 この席上で、筒香選手は抱負を語るとともに、あらかじめ募集された質問に答える形で、トレーニングや指導法に関する持論を語った。

質問(1)小学校時代の練習メニュー、トレーニング内容を教えてください

僕は、トレーニングとは呼ばず、エクササイズと呼んでいますが、小学校高学年から始めたエクササイズを今も続けています。

ブリッジ、ブリッジから三点倒立をしてまたブリッジに戻ったり、前転、後転など。「自分の体を扱う」練習です。これを続けることで、「自分の体の状態」をチェックしてきました。
僕は小学校時代、友達と一緒にこうしたエクササイズを始めましたが、僕は覚えるのが遅かったです。例えば今日は逆立ちをしようとなると、一番遅くまでできませんでした。
今でもそうです。チームメイトと何か新しいエクササイズをするとなると、一番できるようになるのが遅いんです。

でも、それでもかまわないと思います。すぐにやれることより自分でやってみてできることが大事です。できないからあきらめるのではなく、少しずつ努力してできるようになっていくことで、できた時に得るものは多いと思います。

一つのことをできるまでに時間がかかるということは、たくさん練習をすることでもあります。すぐにできた子は、そのあと練習をしませんが、全然できない子はその日も、次の日も練習します。やめずに続けて、できるようになるのは非常にいいことです。

反対に、ぱっとやってすぐにできてしまうのは、自分のためにならないと思います。苦労してできた子は、失敗の回数を繰り返しているので、できた時にはすぐにできた子よりもうまかったりします。また、再びできなくなっても修正方法を知っているとか、深く理解できます。大事なのは、自分の体を自分で動かしてパフォーマンスできることの方です。

それから僕は、野球だけでなくバスケットボールやバレーなど野球以外のスポーツもかなりやりました。ボールを投げるときも左で投げて見たり、ソフトボールを投げたりしました。野球以外のことに使った時間がかなり多かったですね。
(故郷の)橋本市は田舎です。稲刈りが終わった田んぼでノックをしたり、山道を走ったりしていました。小さな怪我はしょっちゅうしましたが、大怪我はしませんでした。

プロに入ってみて、田舎出身の選手の方が、ねん挫などの故障は少ないように思います。切り株が植わった田んぼでノックを受けたりしたことで、危機回避する能力が身についたんじゃないでしょうか。

現役のプロ野球選手が大きい怪我をしたら試合出られません。小さい怪我でどれだけ済ますことができるか、危険回避できるようになるのかが大事です。ナチュラルな環境で育った方が怪我が少ないと思います。

橋本市の皆さんは、そういう田舎ならではのメリットを活かして練習してほしいと思います。

質問(2)指導者に求めることは何ですか?

現状、目につくのは「先に答えを与えていく」指導者です。選手が自分で考えて動いていないのをよく目にします。そして長時間の練習です。子どもたちは骨もしっかりできていません。そんな状態で長時間練習すれば、怪我のリスクが凄く高まります。無理やりやらせて怪我をすることもあります。その二つが問題だと思います。

プロの世界でも「ああしなさい」と先に答えを言うコーチはかなりいます。また、技術的なミスを怒ったり、できないことを怒ったりする指導者もいます。

少年野球で、飛んできたボールを捕れなくて怒られたら、子供たちは次のボールが飛んできたときに「また怒られる」という思いがよぎると思います、

本来は、守備なら「いいプレーしてやろう」、打席なら「いい当たり打ってやろう」と思うところが「打たなければ怒られる」「ミスしたら怒られる」という回路になってしまうと、子供たちが尻込みしてしまいます。これも良くないと思います。

「ああしなさい」という指導者は、自分が受けてきた指導の経験をそのまま子どもたちに言っている場合が多いと思います。

言葉は悪いですが、頭の中でアップデートさされていません。時代は大きく変わっています。昔のいいところももちろんありますが、今は変えないとといけないこともたくさんあります。頭がアップデートされていない状態で教えるのは、子供たちのためになっていないと思います。

良いコーチは、まず「会話」がしっかりできます。当たり前のことですが、できないコーチも多いです。「ああしろ」「こうしろ」だけで終わる指導者も多いように思います。ちゃんと会話ができていたら選手と指導者の間に「僕はこっちを選びます」という会話が成り立ちます。

また僕は、指導者の方が「子どもたちのことを本気で考えているのかな」とも思います。自分の満足のために、「こうしたい」と思ったことだけを伝えているのではないかと思うことがたくさんあります。

野球選手になるにしても、野球をやっていて社会に出るにしても、自分で考えて行動し、先を読んで行動できないと、通用しないと思います。そういう指導をする必要があると思います。

コーチングのコーチとは「馬車」のことだそうです。馬車のように子供たちをどこかに導いてあげるのが本来の仕事なのに、それができていない指導者が多いように思います。

質問(3)中学や高校に進むときのチーム選びのポイントを教えてください

僕は大阪府の堺ビッグボーイズ出身です。子供のことを第一に考えてくれるチームでした。
高校は、横浜高校に進みましたが、小中学校で受けた指導の影響がすごく大きかったですね。僕は、中学時代は騒がれる選手ではありませんでした。成長期に怪我をしたこともあり。無理をすることなくエクササイズをやっていました。堺ビッグボーイズはそういう指導をしてくれたのです。無理をせずに体を動かしていたので「貯金」がある形で横浜高校に入ったのが大きかったと思います。だから横浜高校の厳しい練習も乗り切れたし、大きな怪我をしなかったのだと思います。「子どもの未来」を考えてくれるようなチームを選ぶのが大事だと思います。

高校時代、僕は「甲子園」を目標だとは全く思っていませんでした。その頃から「プロ野球選手」になりたかった。

今の指導者の方は「甲子園、甲子園」と言っています。もちろん甲子園で感じるものも多いですが、子供たちの中にはプロ野球選手になりたい子もたくさんいます。「甲子園がすべて」という高校にはいかないほうがいいんじゃないかな、と思います。

僕は野球が嫌いになったことはありません。野球はずっと好きです。プロになった今でも野球がすごく好きです。野球ばかりやろうと思っているわけではありませんが、野球を通じてたくさんのこと学ばせてもらっています。

中には、どこかで「打席回ってきてほしくない」「怒られるの嫌やな」と思って野球をしている子もいるようですが、そういうことはありませんでした。小中学校時代から指導者に本当に恵まれていたと思います。そういうチームに入れたことに感謝しています。

「筒香嘉智選手が語った、トレーニング、指導者、少年野球」(後編)に続きます*

(取材・写真:広尾晃)