かつてマー君と激闘を繰り広げた剛腕 故郷・仙台で復活なるか
願いを込め、頭に思い描いた。復帰凱旋登板。楽天・由規投手が本拠地・楽天生命パークのマウンドに向かうと、仙台のファンはスタンディングオーベーションで出迎えた。温かい歓声が飛び交う。「お帰り、由規!」、「由規、待ってたぞ!」。律儀な男はスタンドに向かって頭を下げ、プレートを踏んだ。

6回6安打1失点。140キロ中盤の直球にスライダーを織り交ぜ、粘り強く投げた。そして勝った。ヒーローインタビュー。「泣き虫王子」が泣かないはずがない。スタンドで見守る両親も泣き、地元のファンももらい泣きだ。涙の後には、満面の笑みが広がった。
勝手に書かせてもらったが、「由規と仙台」には強烈な印象が残っているからだ。楽天・田中将大(現ヤンキース)との息詰まる投手戦だ。ヤクルト時代の2009~11年、由規は3年連続で故郷のマウンドに上がり、相手の先発は全て田中。いずれも、1点差の投げ合いだった。
09年5月20日 由規は7回1失点の好投を見せたが、田中が完封で初対決を制する。
10年6月13日 由規が7回2/3を1失点に抑え込み、8回2失点だった田中に投げ勝ち、前年の雪辱を果たす。
11年5月20日 東日本大震災が起きたシーズン。由規は2失点で完投したが、田中が1失点で完投勝利。2勝1敗と勝ち越した。
由規が唯一勝った2度目の対決。初回を全て直球で3者凡退に打ち取り、異変に気づいた。まさか…。2、3回もオール直球。4回先頭に打たれるまで、何と39球も直球を続けた。90年代終盤からプロ野球を取材し、こんな力勝負を見るのは初めてだったし、今後もないだろう。それほど型破りな投球だった。
その年は開幕から勝てない日々が続き、かわすような投球が目立った。捕手・相川の「直球を磨け」というメッセージで、由規本人も「中学でも高校でもこんなに(直球を)続けたことはない」と驚いていた。直球の最速は155キロ。最大の武器を再認識し、田中も「直球に力があって、常に150キロ以上出るのは武器」と評した。由規は1学年上で憧れの田中に初めて勝ち、自信を取り戻した。同年は自身初の2桁となる12勝を挙げた。先日の自主トレ公開でも「あの試合が一つのきっかけになった」と当時を振り返っていた。
かつて、日本人最速の161キロを誇った右腕。11年後半から右肩痛に苦しみ続け、ついにヤクルトを戦力外になった。それでも地元・仙台を本拠とする楽天に拾われた。育成選手からはい上がり、故郷に錦を飾れるか。田中と激闘を繰り広げた剛腕の復活を期待している。(記者コラム・飯塚 荒太)