筒香嘉智選手が語った、トレーニング、指導者、少年野球(後編)
1月20日、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手は、出身地である和歌山県橋本市のスポーツ推進アドバイザーとなり就任式に出席した。 この席上で、筒香選手は抱負を語るとともに、あらかじめ募集された質問に答える形で、トレーニングや指導法に関する持論を語った。
質問(4)日々のトレーニングで大切なことは何ですか?
「自分の体を知ること」ですね。自分の体を自由に扱えない子供たくさんいます。そういう状態だと良いパフォーマンスはできません。また永く野球をするためにも自分の体を知らないといけません。
僕は、練習をやっていく中で、勝手にできるようになっていることが良くありました。気づいたらできるようになっていたのです。できなくてもやり続けることで、いつかできるようになります。
僕が教えてもらった先生は、なぜ僕ができないのか知っていても、なかなか答えは言ってくれない先生でした。
いい指導者は、「肘下っているから上げろよ」とは言いません。その代わりに勝手にできるになるような練習をさせます。バットのヘッドが下がっているから「もっと上からたたけ」と言ってしまっては自分の身には着かないんです。自然に修正できるような野球の練習方法を提供するのが指導者の役割です。
自分の体を知って、自分で異状に気づく能力がすごく大事だと思います。
プロ野球でも活躍している選手は、いつもの動きと違う動き、ちょっとしたずれに気づくのがすごく早いです。そして自分で修正することができます。
波が大きい選手は異状に気付くのが遅かったり、誰かに言われて気がついたりします。それでは成績に結びつきません。
難しいことですが、指導者は目に見えることを直接言わないほうがいいと思います。人それぞれに体の感覚がありますから、選手にちゃんと寄り添って会話をしながらいい方向に導いてあげるのがいい指導者だと思います。
僕は、今、ウエイト・トレーニングはやっていません。一時期はやっていましたが、その時にはよく怪我をしました。ウエイト・トレーニングで作った体には細かいセンサーがないと感じています。だからちょっとしたずれに気が付かなかったりします。
ウエイト・トレーニングをすると、筋肉が大きくなり、ボールが飛ぶようになって力がついた気がしますが、実際は、やめてからの方が飛距離がどんどん伸びていきました。
僕は他の選手よりも細いですが、正しい体の使い方をしていれば、成績も上がるし野球寿命も延びます。
ウエイト・トレーニングをしていると人は、すれ違ったときによくぶつかることがあります。体の細かいセンサーが鈍くなっているのでははないか、頭の回路まで硬くなっているのではないかと思います。
大怪我をしないためにも、体のセンサーが働く状態にしておく必要があると思います。ウエイト・トレーニングが自分の体に合った選手もいるでしょう。すべてを否定しているわけではありませんが、少なくとも僕はそう感じています。
僕は今も毎日、エクササイズをしています。逆立ち、前転、後転、マット運動、ブリッジなどをして今日の自分の体の偏りを知ります。そして偏っている部分があったら今日はこういうエクササイズで修正しよう、と準備をして試合に臨みます。体のいろんな部分が柔らかく使えるようになって、手と足がつながるようになりました。そうしてから怪我の数も減りましたし、頭と体で会話しているので、先を考える動作ができるようになりました。
空手や柔道の感覚に近いと思います。合気道の先生の映像も見て参考にしています。
日本人が本来持っているしなやかで、かつ強さがあるイメージでしょうか。
ウエイト・トレーニングは即効性があって、わかりやすいですが、それ以上奥に入って考えられないと思います。エクササイズは時間がかかりますが、はっきり効果が出てきます。
質問(5)打席に立つときは何を考えていますか? 子供たちが打席に入るときにどんな声を掛けますか?
僕自身は打席では「無」というか、ああしよう、こうしようとは考えていません。
小中学生の時は、「こういうホームランを打ってやろう」「思い切りバットを振ろう」と考えていました。でも、「あそこにヒットを打とう」「ちょこんと当てにいこう」「セーフティバントでセーフになろう」などと考えることはありませんでした。
今でも「ホームランを打とう」という思いはもっています。「打てなかったら困るなあ」というような頭の回路はありません。
子どもたちが打席に向かうときに、日ごろから口うるさく言われているチームでは、選手は「ランナー進めたほうがいいかな」「バントしようかな」と思いますが、「好きに打ってこい」「三振する気で思い切り振ってこい」というチームの子どもは思い切りバットを振るでしょう。そういう違いがあると思います。
それから「ボールをよく見ろ」と言いますが、僕は、正直、ボールは全く見ていません。
人間の目はコマ送りで映像が流れています。コマとコマの間は、必ず途切れるので、そこに錯覚が起きます。見ているつもりでも実際と差があることもあります。
ボールを「睨みに行く」とそういうことが起こります。「球場全体が見える中で、ピッチャーが投げている」そういう感覚でボールをとらえる方が圧倒的にずれは少ないと思います。
イチロー選手も視力はあまりよくないと聞いています。打席に立ってもバックスクリーンの文字が読めないこともあるようです。プロでホームラン王とった選手でも視力が悪い選手もいます。
睨みにいった瞬間、ボールの画像は途切れるし、体も硬くなるので怪我しやすくなることにもつながります。
大人はそうしたことも含め、子供たちのために勉強しないといけないと思います。知らないことは、たくさんあるので、常にアップデートしないと子供たちの指導できないと思います。
素振りを披露した筒香選手
僕も上から打て、最短距離からバットを出して上からたたけと指導されました。人によって感覚が違いますが、僕はアッパースイングが一番いいスイングです。
プロでも上からバットを出していると言う人がいますが、実際のバットの軌道は全然違うものです。
指導者と選手の関係は、Wi-Fiと電子機器の関係に似ています。最近は、電波の受信状況が悪いWi-Fiのような指導者もよく目にします。お互いに尊敬しあって良い関係を作ってほしいと思います。
僕も、まだ勉強させていただいている最中ですが、和歌山、橋本の子どもに学んだことを少しでも還元していきたいと思います。
これからも「子供たちの将来」を一番に考えて指導していただきたいと思います。