健大高崎の監督、トレーナーが口をそろえる「柔軟性」の大切さ

「機動破壊」というスローガンのもと、足を生かした攻撃で相手を圧倒するスタイルで甲子園でもすっかりおなじみとなった健大高崎。機動力を使った野球だけでなく、豊富なスタッフの下で多くのデータを駆使していることもその特徴だ。また脇本直人(2014年ロッテ7位)、三ツ間卓也(高千穂大、武蔵ヒートベアーズを経て2015年中日育成3位)、長坂拳弥(東北福祉大を経て2016年阪神7位)、湯浅大(2017年巨人8位)、山下航汰(2018年巨人育成1位)と5年連続で卒業生からプロ野球選手を輩出しており、選手を育てながら勝つということに関しても関東で指折りの存在と言える。そんな健大高崎を指揮する青栁博文監督とトレーニング部門を担当する塚原謙太郎トレーナーに高校野球で伸びる選手の特徴、ジュニア世代の間に取り組んでおいた方が良いもの、少年野球に対しての考えなどを聞いた。

身体が柔らかいとプラスが多い

昨年春の関東大会では東海大甲府、浦和学院、木更津総合、日大三と並み居る強豪を相手に4試合で49点を挙げるなど足だけでなく高い打力の印象が強い健大高崎だが、青栁監督が選手を見る時に重視しているところは意外にも守備の面だった。
 
「ピッチャーの場合はまず体が大きいこととボールのスピードがあること。やっぱり身長があるのは武器ですから、スケールを重視します。野手についてはまずスローイングを見ますね。肩が強くて速いボールを正確に投げられること。あとしっかりとした投げ方で投げられていること。投げ方は高校ではなかなか直りません。打つことに関しては後からでも形は作れると思います」
 
関東近郊だけでなく、全国各地から進学してくる選手も多い健大高崎だが、中学時代に凄い実績を持っていなくても高校入学後に伸びる選手も少なくないという。そのような伸びる選手の特徴、条件についても聞いた。
 
「技術がしっかりしていてセンスがある子は伸びますね。そういう子は体力がついてくると一気に結果が出るようになることが多いです。
加えて大事なのは柔軟性。身体が柔らかいと怪我もしづらいですし、プラスの面が多いと思います。
あとはやっぱり気持ちの面でしょうか。以前は力があれば1年生でもどんどん使っていましたが、ここぞという場面では上級生の方が結果を出すことの方が多いです。きつい練習をこれまでやってきたという思いと、『負けたら終わり』という気持ちの面が上級生の方が強いのかなと思いますね。私学は実力が同じなら来年のことも考えて下級生を使うというチームが多いですけど、うちは上級生で気持ちが強い子を使います」

学童野球や中学野球の現状についても青栁監督の考えるところがあるそうだ。
「中学でも少年野球でも試合数が多いですよね。その分選手に負担がかかっていると思います。特にピッチャーの投げ過ぎには注意してもらいたいですね。あとはさっきも言いましたがまずは投げる動作をしっかり覚えてもらいたいというのはあります。今、群馬県内でも少年野球に対して全体でアプローチしようとする動きがありますが、それは凄く良いことだと思います。うちは幼稚園もあるのですが、サッカー部はそこに教えに行ったりしています。だから今度は野球部も幼稚園の子たちに教えに行く機会を作って、一人でも多くの子どもが野球を始めてもらえるようにしたいと思っています」

中学生はトレーニングよりも柔軟性!

続いて話を聞いたのはチームのトレーニング部門を担当する塚原トレーナー。まずトレーナーの観点から小中学生を指導する上で重視するポイントを聞いた。
 
「特にやってもらいたいのはストレッチです。いわゆる『トレーニング』というものは中学の段階ではやらなくていいと思います。走ったりするのも大事ですけど、それよりもまずは柔軟性ですね。
中学から入ってくる子を見ていると手先は器用で技術はあっても大きな関節が動かない子が多いです。小学生から中学生にかけては成長期なので言ってしまえば何もしなくても体は成長します。骨が伸びきる前には力をつけるよりまず柔軟性ということを考えてもらいたいですね」
 
また小学校の年代では他のスポーツに触れておくことも、野球にとってプラスに働くことが多いという。
 
「根尾くん(大阪桐蔭→中日)なんかのスキーもそうですけど、野球以外のスポーツを並行してやっていたような選手は伸びることが多いですね。スキーは体幹やバランス感覚にとっていいと思います。あと柔道などの格闘技も体の使い方を覚えるのにいいですし、ボルダリングなんかも全身を使ってバランス感覚を養えると思います。
そういう意味では子供の頃は野球だけでなくどんどん他のスポーツをやってもらいたいです。あとはよく言うのは姿勢。しっかり骨盤が立った状態で立つ、歩く、動くということは意識しておいた方が良いと思います」

加えて塚原トレーナーが指摘したのが食事の面だった。食事についても小さな心がけを続けることで大きな効果が生まれるそうだ。
 
「高校生もそうですけど、成長期ですからやっぱり食べることに対してはしっかり意識を向けてほしいですね。バランス良くしっかり食べる。可能であれば添加物のないものがいいですね。添加物のあるものとないものでは肌にも違いが出てきます。
あとはなるべく朝に温かいものを食べてほしいですね。時間がなくてパンと牛乳だけで済ませるのではなくて、スープを飲むなどしてもらいたいです。体が温まると代謝も高まって、色んな面でプラスになると思います。
よく言うことなんですが、自分の体にしっかり興味を持って注意を向けることが大事です。そうすることで普段の生活、食事にも気を遣うようになりますし、それが野球にも影響してくると思います」

青栁監督、塚原トレーナーがともに重視しているという柔軟性。重要だと分かっていてもなかなか本格的に取り組んでいるチームは多くないのではないだろうか。
また現在検討中とのことだったが、高校生が幼稚園や小学生に野球を教えるという機会もお互いにとってプラスになることが多いのではないだろうか。健大高崎のようなレベルの高いチームが率先してそのような取り組みを行い、少年野球に対しても正しい知識が広まっていくことを今後も期待したい。(取材:西尾典文/写真:編集部)