【東京農大】勝亦陽一准教授に聞く「高校時代に大事にしてほしいこと、大学野球の良さ」

東京農業大学応用生物学部でスポーツ科学、発達科学、コーチングなどをテーマに研究を行っている勝亦陽一准教授。学生時代は早稲田大学の硬式野球部に所属し、選手としても研究者としても多くのプレイヤーに触れてきた野球分野の若き研究者である。そんな勝亦准教授に高校生年代の選手が心がけておくべきこと、大学以降も野球を続ける上で重要だと感じていることを聞いた。

――まず勝亦先生が野球に関する研究を行おうと思ったきっかけを教えていただけますか?

「自分は地方、静岡県の出身で、当時は今のように情報もなくて何が正しいか分かりませんでした。そんな環境でしたのでまずは『どうやったら野球が上手くなるか』ということを知りたいという気持ちが強かったですね。大学時代は和田毅(ソフトバンク)投手と同じ学年です。同期に土橋(恵秀)というトレーナーがいて、彼と和田が二人三脚で色々と取り組んで、どんどんレベルアップしていくのは凄いなという気持ちで見ていました」

――ちなみに学生時代の論文はどのようなことをテーマにされていましたか?

「大学生の頃は投手の投げるボールのスピードとコントロールの関係性についてという論文でした。スピードとコントロールは高い確率でトレードオフの関係になるということですね。大学院では身体の発育と投げる能力の関係性をテーマにしました。投げるということはやはり腕が長い分だけ手(ボール)の速度が大きくなりますから、身長と投げる能力の相関性は打つ能力も高くなる傾向にあります」

――発育、発達という観点でも研究して発表されていますが、高校生やその下の中学生の年代の選手にとって、野球を続けるのであればこういうことをしておいた方が良いのでは? という提言はありますか?

「日本の得意なスモールベースボールの部分も確かに重要ですが、それよりもまずは野球の基本的なプレー、動きをしっかり身につけることが大切だと思います。具体的には速いボールをいかに正確に投げられるか、バッティングであればいかに正確にミートして遠くへ飛ばすことができるか、ということになりますね。
投げることであればまずは怪我をしない投げ方を身につけることが重要です。身体ができていない間に、負担のかからない投げ方ができるようになっておけば体力的な向上に比例して速いボールも投げられるようになります。投手であれば変化球も遊びで投げることは良いことだと思いますね。どう投げればボールがどんな回転をするかということを理屈で知っておいて、それを実践してみることは大切です。
打つことに関しては、軽いバットでも良いので自分の意図通りにバットを振れるようになることですね。あらゆるボールに対応するためにはまずバットの操作が重要になってきます。バットを速く振るための力は後からついてきますから、ボールをとらえて遠くに飛ばす、狙った方向に打つなどを重視してもらいたいですね。そのためにはテニスやバドミントンも動きとして近い競技ですので、どんどん取り入れると良いと思います。
捕球については型にはめないこと。これも投げることと共通していますが、遊び感覚でいろんなバウンドや軌道のボールを捕球することでボールへの対応ができるようになります」

まず2年間、20歳までトライがおすすめ!

――勝亦先生が実際の現場で選手を見られる際には、主にどのようなことを指導されることが多いですか?

「時折高校生の選手を見ることもあるのですが、よく言うのは立ち方、姿勢から考えてみようということですね。投げるにしても打つにしても片足で立つことが重要なので、まずは片足で立った時の姿勢を観察します。普段の姿勢も胸が張れているか、猫背になっていないかなどをチェックします。それを意識するだけで野球のプレーにも影響が出てきます。
あとは走り方も重視しています。野球をやっている選手は足が速いのは天性だと考えがちですが、中学から陸上を始めた子でも見る見るうちに速くなります。自分が走るメニューを指導する時はまず股関節のエクササイズから始めます。股関節の使い方を改善することで、後天的にも足は速くなりますから。投げる動きも足を止める、接地するという点で共通していますから、走ることが改善されれば投げることにも良い影響があると考えています」

――高校生が高校野球を取り組むうえで、こういうところを考えておいた方が良いなどの意識的な面でのアドバイスはありますか?

「今与えられているメニューに何の意味があるのか? それを考えるところがスタートだと思います。指導者の方も明確な答えがなくて試行錯誤しながら指導しているケースもあります。練習の意図が説明されない場合もある。言われたままに練習したり、こんな練習意味ないよ、と指導者の悪口を言っているうちに野球人生が花開かないうちに終わってしまいます。そうではなくて、自分の野球人生に自分で責任を持つためにも日々のメニュー、取り組みから意味や目的を考えてプレーするようにしてもらいたいですね」

――大半の高校球児が高校野球でプレーを終えて、大学でも本格的に野球を続ける選手は一握りです。色んな事情があるとは思いますが、勝亦先生から大学でも野球を続けることの良さなどをいただけるとありがたいのですが。

「伸びる時期は選手によってそれぞれ違うということをまず知っておいてもらいたいです。高校の時点ではまだ身体ができていなくても、大学以降で伸びる選手はたくさんいます。
あとは4年間ということを考えずに、まず1年目はこうする、2年目はこういうことをできるようになる、といったように期限を決めてチャレンジすると良いのではないでしょうか。もし思うような成長ができなかったら、その段階で辞めることも決して悪いことではないと思います。途中で硬式の野球部では厳しいと思ったらクラブチームや準硬式、軟式に転向しても良いと思います。
この時期は心も成長していく時期ですので、4年間という期間に縛られずに色んなことを考えて、選択肢を見つけていくことも重要です。個人的にはまず2年間、20歳まではトライしてみるというのをおすすめしたいです」

このお話を聞いて多くの高校球児が大学でも野球を続けるきっかけになると良いですね。貴重なお話、ありがとうございました。(取材:西尾典文/写真:編集部)