【今、野球と子供は。】問題山積の「小学生の野球環境」(後編)
全軟連所属クラブチームの二極化
現在、小学生の軟式野球=学童野球で、活発に活動しているのは、主として全軟連だけに所属しているクラブチームだ。
全軟連が主催するマクドナルド杯などでは、予選を勝ち抜いた強豪チームが覇を競っている。野球のレベルは高く、優秀な選手が集まっている。
しかし、こうした強豪チームの中には極端な「勝利至上主義」に走るチームが出てきている。
今年の夏に関西地区の学童軟式野球の指導者が子供に暴力をふるう動画が公開され、テレビのワイドショーに取り上げられるなど社会問題化した。
こうした指導者はごく少数ではあるが、時代錯誤ともいえるスパルタ指導は今も根強く残っている。また小学生のうちから球数を投げさせて「野球肘」を発症させるなど、誤った指導を行う指導者も多い。
さらに、大会数、試合数が増加していることも子供の酷使や健康被害につながっている。
一方では、部員数が維持できないクラブがある反面、一方では多くの部員を抱えて、中学の硬式野球並みの練習を強いるクラブもある。格差が広がっているのだ。
スポーツマンシップなき学童野球

地方の少年野球大会でよくみられるのは「コールド勝ち」戦法だ。明らかに実力差があるチーム同士の対戦で、力が上位のチームが初回からバントや四球で出塁し、盗塁をしまくる。野手の動揺を誘い、相手の失策を誘引してさらに攻め立てる。早いイニングで大量得点をとって、相手に野球をさせずに早々にコールド勝ちするパターンだ。
小学生のうちから、対戦相手へのリスペクトもないこうした戦法で勝ち進む。まさに「勝利至上主義」だ。こういうチームは指導者が試合中に選手を叱責することも多い。応援席から父兄などが相手チームを野次ることも多い。小学生の頃からスポーツマンシップを置き去りにした野球をしているチームが存在するのだ。
中には、このサイトでも紹介した「小部東アローズ」のように、子供たちの将来を考えて年齢に即した合理的な指導を行っているチームもある。こうしたチームは選手数も増えているが、ごく少数だ。
一方で「勝利至上主義」のチームの中にも全国大会の成果をPRして多くの少年を集めているチームもある。
学童野球は、「勝利至上主義」に特化する少数のチームと、部員数が減少し、衰退するチームに二極化が進んでいる。
親の負担が大きい硬式野球

小学生を対象とした主要な硬式野球リーグには、リトルリーグとボーイズ、ヤング、ポニーがある。リトルリーグは1950年代にアメリカからもたらされた少年硬式野球の老舗だ。1970年代から加盟数が増えた。特に中学生の入団者が増えたために2000年に中学生のリトルシニアが分離独立した。リトルシニアが選手数を増やす一方、リトルリーグは登録選手数が減少している。
ボーイズ、ヤング、ポニーの各リーグは、それぞれ中学校の硬式野球クラブの下部組織だが、小学生の入団者は減少している。
もともと少年硬式野球の主力は中学生ということもあるが、硬式野球は小学生であっても用具などの負担が軟式よりも多い上に、お茶当番などの父兄の負担も重たく、近年は減少傾向にある。
ボーイズリーグの連盟関係者は「小学生の部員数の減少を深刻に受け止めている。中学生の部員数もいずれ減少するだろう」と語る。
これ以外に、NPBの12球団の多くがベースボールアカデミーを所有し、小学生を指導している。ただし、選手数は全部合わせても1000人以下だ。
適切な「受け皿」がない
小学生をめぐる野球環境を図に示すと以下のようになる。

NPB各球団やアマチュア球界などが未就学児、小学校低学年へのアプローチを開始して数年。高野連も200年構想によって普及活動を行うという。
底辺からの活動は、こういう形で盛んになっているが、それを継承する小学校中学年以降は、受け皿が乱立している。
小学校の「ベースボール型授業」はライトユーザーの醸成には一定の効果があるだろうが、競技人口の増加までは期待できない。
もっともボリュームが大きい全軟連やスポーツ少年団の野球クラブはまさに玉石混交。
一部の強豪クラブは「勝利至上主義」に走り、昭和の時代さながらの指導を行っている。
一方で多くのスポーツ少年団のクラブが衰退、消滅の危機に瀕している。
小学校の硬式野球はもともと数が少ない上に、親の負担が大きく、減少傾向にある。
NPB各球団のアカデミーも少数派だ。

こうしてみると、未就学児や小学校低学年にアプローチをして野球に興味を持たせたとしても、そこからバトンタッチして子供を「野球好き」にする「受け皿」が全く未整備の状態であることがわかる。
野球界の常として、組織が乱立して統制が取れていない上に「野球離れ」に対する危機感を共有していない。指導法も統一されていない。
今後は、小学校レベルでの野球界を上げた改革が急務になってくるだろう。(文・写真:広尾晃)