【今、野球と子供は。】問題山積の「小学生の野球環境」(前編)

総てのスポーツがそうではあるが、野球にとっても「就学前児童、小学校低学年」は、野球というスポーツを体験させ、選択へとつなげる導入時期。

一定の成果が見えてきた、未就学児、小学校低学年の普及活動

これまで、野球界は、小学校低学年以下の子供に対しては何のアプローチもしてこなかった。「投げる、打つ、捕る」という動作をするには幼すぎるし、複雑な野球のルールを理解させるのも難しい。それでも昔は男の子はほっておいても親や兄弟、友人に感化されて野球に興味を持つから、関係者は心配していなかった。多くの子供は9歳前後から野球を始めたのだ。
しかし最近は「野球好き」の大人が減った。また幼児であってもサッカーをはじめとするスポーツの選択肢が増えてきた。このために、まだ野球をする年限に達しない子供が他のスポーツを選択することが多くなった。
これに危機感を抱いたNPB球団やアマチュア野球界は、ようやく就学前児童、小学校低学年へのアプローチを始めた。そのこと自体は遅ればせながら良いことだ。事実、こうした取り組みを通じて野球を選択する子供が少しずつ増えている。

しかしその上の段階、小学校の中高学年を対象とした「学童野球」の現状は厳しいと言わざるを得ない。関係者の中には「小学校の野球環境を改善しないと野球の将来はない」という人も多い。今回は小学生を取り巻く野球環境について考える。

ライトユーザーを醸成する「ベースボール型授業」

小学校中学年の子供にとって「野球」の選択肢にはどのようなものがあるのだろうか?

一番ライトなものは「ベースボール型授業」だ。
文科省の新学習指導要領では小学校中学年を対象に、ゴール型ゲーム ネット型ゲーム ベースボール型ゲームの3類型を選択肢として提示している。
べースボール型ゲームでは、ゲームのルールや「投げる」「打つ」「捕る」などの動作を習得している。この理解を踏まえて小学校高学年では「ティーボール」や「ソフトボール」などのゲームを行う。
2010年代にスタートしたこの授業は、小学校に徐々に浸透しつつある。この夏、メットライフドームで行われた「教員のためのベースボール型授業研究会」の会場でも、約4割の教員が「ベースボール型ゲームの授業をしたことがある」と答え、半数以上は「今後も取り入れたい」と答えた。
こういう形で、学校での「野球」は少しずつ普及しつつある。
しかし、この授業はあくまで「導入」に過ぎない。野球を競技として選択したり、熱心なファンとしてかかわっていくうえで、決定的なトリガーとなる可能性は少ない。あくまでライトユーザーを醸成する「下地」というレベルだ。

深刻な「スポーツ少年団」野球クラブの衰退


従来、小学生が野球を始めるのは「スポーツ少年団」が一般的だった。

スポーツ少年団は1回目の東京オリンピックの2年前の1962年に設立された、スポーツを通じて、青少年の健全育成を目的とする社会教育団体だ。学校ではなく、地域単位に設立されるクラブチームが基本で、独自に指導者を養成し、大会を開いている。ただし実質的に学校単位で編成されるクラブも多く、放課後に校庭で練習をするケースも多かった(地域により事情が異なっている)。
軟式野球倶楽部は、男子の「スポーツ少年団」では最大の競技人口を誇ってきた。全盛期には男子の60%。約40万人が軟式野球部員だったが、近年、部員数は激減している。

スポーツ少年団全体の男子部員数も2010年の62万人が2018年は48万人と大幅に減少している。少子化もあるがコミュニティの変化でスポーツ少年団を結成しない地域が増えているのだ。
しかし軟式野球の登録部員数はわずか8年で32%も減少。2016年には前年より297人増えて下げ止まってはいるが、多くの地域でチームが結成できない事態が生じている。
 
減少の要因は、少子化やスポーツ少年団の結成率の低下に加えて、指導者不足があげられる。これまでスポーツ少年団の指導者の多くは、選手の父兄が務めることが多かった。そうした指導者は子供が卒団するとクラブを離れることが多かったが、中には我が子が卒団してもクラブの指導を引き続き行う指導者もいた。スポーツ少年団はこうした熱心な指導者によって支えられていたが、高齢化が進んだこともあり、指導者が減少している。「野球をやりたい子がいても、クラブがない」状況が全国に生じている。

スポーツ少年団を抜けるクラブチームの増加

もう一つ注目すべきは「全軟連(全日本軟式野球連盟)」との関係だ。スポーツ少年団の軟式野球クラブは、全軟連にも加盟しているのが一般的だった。
スポーツ少年団軟式野球の全国大会である全国スポーツ少年団軟式野球交流大会は、日本スポーツ少年団と全軟連が共同主催していた。
しかし、近年、スポーツ少年団には属さず、全軟連にだけ所属するクラブチームが増えている。スポーツ少年団は公的助成があるが、地域のコミュニティや学校の枠組みで活動をするため、制約もある。意欲的な指導者の中には、そういう制約にしばられたくないという人がいて、スポーツ少年団に属さないクラブチームが増えたのだ。全軟連の学童チーム数は2017年で11792、スポーツ少年団のチーム数が6378だから5000以上のクラブチームが全軟連だけに加盟していることになる。
このこともスポーツ少年団の軟式野球競技人口の減少につながっている。関係者によればスポーツ少年団の軟式野球チームは競技人口の減少だけでなく、その指導内容や運営のレベルも低下している。(文・写真:広尾晃)

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