【飯塚ボーイズ】練習試合は全員出場!大事なのは成長を認めて「褒めてあげること」
全国606チーム、20,431人が参加するボーイズリーグ。その中で、ジャイアンツカップ優勝(2011年)、ボーイズ選手権大会優勝(2017年)と二度の日本一に輝き、強豪高校、プロ野球に多くの好選手を輩出している飯塚ボーイズ。チームは福岡の中心部、筑豊地区にあり、指導歴30年以上の春山総星監督が自らノックを打ち、個性を伸ばす指導を続けている。そんな春山監督に指導論、練習方法についてお話を伺ってきました。
「毎年、甲子園が始まると自分の高校時代を思い出しますね。特に夏の福岡大会決勝戦を見ると、負けて相手の校歌を聞いた自分と重なって、自然と涙が出てくるんですよ」。
春山監督は、遠くを見つめながら感慨深げに話した。目じりのシワは深く、御年は71歳。高校時代をふり返る目は野球少年のままだ。
飯塚商の主将、外野手として活躍した。高3夏は決勝戦まで進み、三池工に4-6で敗退。ちなみに勝った三池工の指揮を執っていた原貢監督は元読売ジャイアンツの原辰徳氏の父(故人、のちの東海大相模、東海大監督)。甲子園でもその手腕を発揮し、初出場初優勝を成し遂げた。
「決勝で勝ってたら僕たちが全国制覇? さすがにそりゃ思わんよ。でも三池工は強かったね」。
春山監督はそのあと専修大へ進学し、1年間の高校野球監督(直方学園高校=現在は廃校)を経て、家業に従事。41歳から中学野球の指導に携わった。
「三池工との決勝は同じ炭鉱の町だったし、負けて悔しくてね。だから、僕にとっても甲子園は永遠の憧れなのよ。毎年、教え子たちが甲子園で活躍するのを見るのが楽しみなんですよ」。

県内外に進学する教え子のうち、今年は2名が甲子園で躍動した。折尾愛真のエース・小野剛弥投手(3年)と、浦和学院・美又王寿投手(1年)だ。他にも、メンバーには入っていないが、下関国際、益田東、広陵、大阪桐蔭など、飯塚ボーイズを巣立った選手が夢舞台を味わった。甲子園の季節は自チームの大会、練習があるため、春山監督はほとんど応援に行けない。最後に行ったのが5年前の横浜戦。同校のキャプテンを務めた松崎健造選手(立教大4年)、主砲の高濱祐仁選手(日本ハム)の応援だった。
「30年で5回しか行ったことないけんね~」。
どんな年も目の前の選手が第一優先。甲子園での勇姿を思い浮かべながら、真夏もグラウンドでノックバットを振り続けている。
30年で6人のプロ野球選手を輩出。多くの選手を試合に出場させる
福岡ニュースターズ(現・福岡中央ボーイズ)で12年、現チームで18年。30年の指導歴の中で、吉川光夫投手(日本ハム―巨人)など計6人の選手をプロ野球に送りだした。
もちろん、中学卒業後の本人の努力、良い指導者、仲間に恵まれたことも大きいが、可能性ある田舎の中学生にやる気を起こさせ、可能性を伸ばすのが春山監督の指導方針だ。評判を聞いて、飯塚市外はもちろん、山口県から通う選手もいるという。

「筑豊の子供は野球が上手い。全員に力を発揮して欲しいので、練習試合では全員試合に出します。九州大会と、全国大会につながる試合だけは、どうしてもメンバーを選ばせてもらっていますが、それ以外の大会はみんな出ます。ポジションも、本人たちの希望を優先して入団時は好きな所を守らせているんですよ」。
「全員に出場機会ー」
2017年8月のボーイズリーグ全国大会(大阪)の決勝戦では、スタメンの6、7、8番にレギュラーではない選手を起用し、周囲を驚かせた。飯塚ボーイズは出場選手14人で投手戦を制し、初優勝を果たす。
「控えの選手を先発に置いて、1打席限定で交代させる起用法はよくあるんですよ。その方がベンチも盛り上がり、試合への一体感も増すじゃないですか。誰が『流れ』を作るかわからないですからね」。
7イニング制の中学野球でも、選手を信頼し、思い切った采配をするのが春山流だ。
野球は、上手い子がそろったら勝てるというわけではない

高校野球へバトンを渡す中学野球。春山監督は直接的に「甲子園を目指せ」という言葉を使うことはない。選手一人一人の成長曲線には違いがあり、その成長度を認め、褒めてあげることが大事なことだと力説する。
「前チーム(3年生)のエースは身長が150cmくらいのチビッ子エースでした。その子はいつも1番早くグラウンドに来て、準備をしっかりとする選手でした。コツコツと努力した結果、球速が入学時から27キロも速くなり、打球は80mも飛ばなかったのが、最後の試合でライトオーバーを打つまでになりました。努力する子は活躍できます。高校でもきっと頑張ってくれると思います」。
強豪私学から誘いが来る選手もいれば、そうでない選手もいる。中学生は心身ともに成長期であるがゆえ可能性を見守ることを最優先としている。「野球は、上手い子がそろったら勝てるというわけではない」と話す。
「素直で明るい子、社会に出ても挨拶ができる子、そういう子を育てたいですね。高校野球に入ったらどこも厳しいからね。中学野球は大らかに育てたい。とはいっても、練習は大事ですから、技術的なことを言えば、多く走らせ、多くバットを振って、多くノックを受けること。中学生の間は、数をやり込むことも大事なことだと思っています。そして試合になったら、楽しく、みんなで戦う。勝つか負けるかは時の運です」。
新チームのキャプテンは、唯一の女子選手が選ばれた。「負けん気の強い、しっかりした子ですよ」と太鼓判を押す。孫のような年齢の選手たちにノックを打ち、野球を上達させる春山監督。1打、1打に込める思い、それは自分が果たせなかった甲子園に行って欲しいと言う子供たちへの願いと、野球愛が込められている(取材・樫本ゆき)
飯塚ボーイズ
創部:1999年4月、所在地:福岡県飯塚市、練習場:飯塚穂波球場(B&G)ほか、練習日:水、金、土、日、祝日の17時~20時(平日)、9時~17時(土日祝)、部員数:39人(3年14人、2年11人、1年14人)スタッフ:井上益美代表、春山総星監督、坂田陽平ヘッドコーチ、田中定宗コーチ、斉藤達也コーチ、花山亮太郎コーチ、モットー:感謝・気迫・行動 *2013年に飯塚ライジングスターボーイズから改称
春山総星(はるやま・そうせい)監督
1947年生まれ。福岡県飯塚市出身。飯塚商-専修大。1988年に福岡ニュースターズ(現・福岡中央ボーイズ)監督から2000年に飯塚ライジングスターボーイズ初代監督に就任。2011年ジャイアンツカップ優勝、2017年ボーイズ日本少年野球選手権優勝。「神ノック」と言われるノックさばきは、2001年エンゼルスのトライアウトにノッカーとして参加した際、メジャーからスカウトされた経験を持つ。