【東京城南ボーイズ】「高校で選手が伸びること」に主眼を置いた指導(後編)

江戸川南シニア時代は松坂大輔投手(中日)を指導するなど、中学野球界でも多くの実績を残してきた大枝茂明監督。現在指導している東京城南ボーイズも結果を残しながら高校やその先で活躍する選手を多く輩出している。前編では主に指導方針について触れたが、後編では実際の練習や過去に指導した選手のエピソードなどについてお送りする。

選手の自主性と責任に任せる「準備」

――普段の土日の練習のタイムスケジュールはどのような感じですか?
「3年生、2年生、1年生の学年で分けて練習していますが、ローテーションで回すようにしています。9時から11時までが3年生、11時から12時までが2年生、12時から13時までが1年生というのがワンセット。その後にまた3年生が13時から15時、2年生が15時から16時、1年生が16時から17時で終了です。
グラウンド整備もその練習が終わった上級生がやるようにしています。あくまでこの時間は練習の時間。アップやキャッチボールはその前に各自が終わらせるようにしています。時間も最長連続で2時間にしているのは理由があって、それはボーイズリーグの試合は基本2時間までと決まっているからです。普段の練習からその時間に集中するためにこのようにしています」

――アップやキャッチボールは練習時間に含めないとのことですが、それは全体ではやらないということですか?
「うちは並んで走ったり揃ってキャッチボールしたりしていません。『フリーアップ』と呼んでいるのですが、選手たちが各自で必要な分だけやるようにしています。これは試合前も同じですし、選手の自主性が試される部分でもあります。
ある時、一人の選手が動きが悪かったので次の試合では使いませんでした。これも結果論に通じるのですが、準備がしっかりできていなかったんですよね。選手にもそのことを伝えたら、次の試合ではしっかり取り組んで結果を残しました。そうやって自主性と結果論で話しています」

――他に普段の練習で特徴的な部分はありますか?
「バッティング練習は基本マシンだけでやります。バッティングピッチャーが投げるとどうしてもボール球が来ますが、マシンは基本ストライクしか来ませんから。それを2か所でやってどんどん回す。そして守備の練習も兼ねて行う。マシンのバッティングだけで打てるようになりますか?と聞かれることがありますが、全く問題ありません。それを補うために練習試合を組んでいますから。あと練習試合は試合という位置づけではなくて、あくまでも『実技練習』です」

――土日以外の平日ではどんな取り組みをされていますか?
「火曜日と金曜日はジムのスペースを借りて練習をしています。火曜日はオーバーホールのためのスローイング、金曜日は土日の練習のための準備という意味合いが強いです。あとは水曜日の夜間に神宮の室内で練習をしています」

身長が伸びてそこから一気に伸びた松坂大輔


――野球の練習以外のトレーニングなどはいかがでしょう?

「ランニングメニューは主に三つです。一つは25メートル走で、これは毎回タイムを計って3.5秒を切るように走る。あとは10段の階段を一段ずつ走る練習。これはピッチを速くするため。そして120メートルくらいのボール間を走るもの。これはストライドを広げるためのものです。ピッチとストライドを分けて練習して実戦の塁間に近い距離のタイムを意識するためにこのようにしています。自重トレーニングをやることはありますが、ウエイトトレーニングとプロテインは禁止です」

――これまで多くの選手をご覧になられてきたと思いますが、例えば松坂投手などで印象的なエピソードはありますか?
「松坂は凄いピッチングをしたという記憶はほとんどありません。立ち上がりが悪くて、これはボロボロになるなと思ってみていてもなぜか抑える。そんなタイプのピッチャーでした。
体も太かったですが、中学校の後半で身長が伸びてそこから一気に伸びましたね。ただ『さぼりのマツ』とよく言われていますが、中学時代もそうでしたね。シーズン最後の試合で、翌日に走る練習があると分かっているときにランナーだった松坂がホームに突っ込んで足を怪我して痛がったんですね。それを見たチームメイトは『出た出た!』と言って誰も信じていませんでした。蹴ってる奴もいたくらいです。結局は本当に骨折していたんですが、みんな松坂が走る練習をさぼりたいから痛いふりをしていると信じて疑っていませんでしたから(笑)。
でもその後にあったマラソン大会では足を怪我しているのに、もう一人怪我している後輩に支えてもらって「ブービー賞」を持っていった。そういう要領の良さはあったと思いますね」

――実際にプレーしている中学生やこれから中学野球を始めようという小学生、保護者の方などに伝えたいことやメッセージがあればお願いします。
「まずは野球を長く続けるためのことを考えてもらいたいですね。中学野球はあくまで通過点ですから。高校、更にその先で野球をやるために今どうするべきか。そう考えられる人が少しでも増えてもらいたいと思ってやっています」

大枝監督、お忙しいところありがとうございました!

(取材:西尾典文、撮影:編集部)