【東京城南ボーイズ】「高校で選手が伸びること」に主眼を置いた指導(前編)

1998年に創立し、過去に3度全国大会でベスト4に進出するなど、関東でも指折りの強豪として知られる東京城南ボーイズ。チームを指揮するのは江戸川南シニアで松坂大輔投手(中日)などを指導したことでも知られる大枝茂明監督だ。 全国大会での優勝を目指しながらも、目先の勝利だけでなく将来日本を代表するような選手の育成を心がけ、高校に進んでからいかに選手が伸びるかということに主眼を置いて指導を行っているという。そんな大枝監督に東京城南ボーイズの指導方針、注力しているポイントなどを聞いた。

――これまでも大会で結果を残しながら、プロで活躍するような選手も輩出されていますが、どのようなことを心がけて指導されていらっしゃいますか?
「まず選手にも保護者の方にも言っているのは中学野球は通過点ということです。中学でいくら勝てても高校で活躍できなければ意味がないですし、選手も保護者もそれを望んでいますから。そういう意味でまず全員にチャンスを与えるようにしていますし、部員数も多くなってきているのでチームを二つに分けて交互に大会に出ています。実力的にどうしても差は出ますが、あくまでどちらも代表です。そうした方が選手たちも東京城南ボーイズの代表として堂々とプレーするようになります。また単純に実力順で二つに分けてはいません。現段階で多少力の劣る選手でも、力のある選手と一緒にプレーすることで上達することも往々にしてありますから」

 
――具体的なプレー、技術指導の点ではどのようなことを重視されていますか?
「一つ目は型にはめないことですね。小学校時代にも野球をやってきて、得意なこと、苦手なことはあるんですよね。うちはそれについて『欠点を残して利点を伸ばす』ということを方針としています。欠点、できないことばかり指摘するとどうなると思いますか? 多くの選手の場合は悩んでしまうんですよ。そしてスランプ、イップスに繋がる。逆にその選手の利点、得意なプレーにフォーカスすると楽しくなってどんどん自分から取り組むようになるんですね。
あとは結果論から話すようにしています。例えばバッティングの目的は遠くへ飛ばすことですから、フォームのことを細かく言わずに打球について話します。中学生の段階では完成されたフォームで遠くへ打球が飛ばないよりも、変な打ち方でも当たれば飛ぶ方がいいと思うんですね。だからうちはフライアウトはOKです。ちゃんとミートして前にフライが飛ぶような打球を打てということを言っています。だからランナーが三塁にいるときはスクイズはせずに、外野フライを打つ。そして外野が下がるような打球を打たなければいけません。外野が前に来て捕球した打球はタッチアップ禁止にしています」

――(取材時に行っていた)練習試合を見ていても確かに転がすようなスイングをしている選手はいないですね。一方で守備の面では何か方針はありますか?
「守備もバッティングと同じで結果論から話します。捕り方、投げ方の形よりもまずはアウトにすること。よく言うんですけど、ファインプレーの時ってよく基本と言って教えるような捕り方や投げ方をしていないじゃないですか。だから逆シングルでもランニングスローでもグラブトスでもアウトにできるやり方で良いと伝えています。あとはシートノックをやらずにフリーバッティングの打球を受けるようにしています。実際のバッターの打球の方が実戦に近いですからね」
 

選手主体で考えさせることが基本

――少年野球や中学野球の一般的な教え方ではなく、だいぶ独特な教え方という印象を受けますが、そのような指導法に至った経緯を教えていただけますか?
「型にはめるような細かいことを最初から教えようとすると選手は反発するんですね。やるのはあくまでも選手ですから、選手主体で考えようというのが基本にあります。主語が指導者になって『俺がこうする』となると、どうしても選手の欠点に目が行ってしまうと思います。
そうではなくて自分でまずやらせてみて、それで困ったときにアドバイスをした方が選手は聞く耳を持つと思います。だから高校の監督によく言われますよ。城南の子たちは雑で細かいことはできないけれど、よく話を聞くって。細かいことは中学では教えていないから、そういうことに対する欲求も強くなるんでしょうね」

――試合や実戦での指示で気を付けている点などはありますか?
「判断基準を明確にすることですね。例えば基本的にストライクのボールは『打て』です。それはどんな状況でも一緒で、2球でツーアウトになった時の3人目のバッターでも初球がストライクなら『打て』ですね。実戦で実際に打たないと上達しませんから。ただ低めの膝頭のボールは『待て』です。低めの変化球、特にワンバウンドになるようなボールを見極めるためです。これもどんな場面でも一緒で、ツーストライクで追い込まれていて、膝頭に来たボールを見送り三振してもOKです。
逆にピッチャーの方もどんどんストライクを投げるように言います。守備練習は投手が打たれた時の練習をしているわけですから、打たれることは全くとやかく言いません。
試合は練習の成果を出す場所なので、3年生の最後の大会は勝ちにいきますけど、それまでは勝敗よりも『やろうとしていたプレーがいかにできていたか?』ということを言います。そうやって判断基準をはっきりさせてやることで、選手は迷うことがなくなって力がついていくと思います」

後編はどのように練習に取り組んでいるか、今まで指導してきた選手のエピソードなどについてお届けします。

(取材:西尾典文、撮影:編集部)