【星稜】U18で受けた刺激、奥川恭伸「まだまだやるべきことはある」
2年生で唯一U18日本代表に選ばれるなど、センバツ、夏の甲子園出場と合わせて着実に経験値を上げている奥川恭伸投手。特に今夏の甲子園では開幕戦の藤蔭戦で150キロをマークするなど、成長曲線を描く本格派右腕に話を聞いた。
秋の県大会では準々決勝の金沢戦に初登板し、4点を失うも10奪三振の完投勝ち。打っては公式戦初ホームランを含む7打点を記録するなど投打にわたり大活躍だった。今は来春のセンバツ出場がかかる北信越大会に向け調整を続ける毎日だ。9月上旬までU18に帯同していたが「まったく疲れはない」という。
「入学当初の自分のプランから見ると予想以上の経験をさせてもらっています。150キロを出すのは2年の夏と設定していたので、そこは自分の思うとおりに結果は残せているのですが、ここからがものすごく大変になっていくと思います」。
危機感を見せる理由はこの秋の大会だ。星稜は昨秋から県では4連覇。他校からのマークが日に日に厳しくなるのを感じた。と、金沢戦では8安打を浴び9回には公式戦で初めてホームランを打たれた。「この秋のピッチングは悔いが残ります。結果は優勝だったんですけれど、まだまだやれたんじゃないかと思って」と唇をかむ。
その金沢戦ではヒットを打たれたイニングはほぼ失点をした。この秋の県大会5試合で失点をしたのもこの試合だけで、甲子園を経験した寺沢孝多や1年生の寺西成騎、荻原吟哉ら投手陣は無失点だった。「エースとして情けない。もっと自分が引っ張らないといけないのに、引っ張り切れていなかったです」。
奥川を一言で言うと“完璧主義”だ。マウンドに立てば全てのアウトを三振で取りたいと思ってしまう。その心理が邪魔をしているのか、打たせて取らないといけない場面でも力みが目立った。「相手が開き直ってバットを振ったところに力を抜いたボールを投げると、打たれてしまうのではないかという心理が働いてしまうんです」と本人。マウンドであれこれ考えすぎてバッターを必要以上に見すぎてしまうことも反省点に挙げた。昨秋、北信越大会決勝の日本航空石川戦で登板した際も、コースを突けばいいのに突いても打たれるイメージしかなかった。マイナス思考な自分を「調子が良くない証拠だと思います」と自己分析するが、こういう壁を乗り越えないと次はないと腹をくくって練習に打ち込む姿があった。
全国で活躍している同級生の好投手の活躍も常に意識している。共に出場した夏の甲子園で快投した西純矢(創志学園)や、今夏から秋の大会にかけ豪速球で世間を賑わせている佐々木朗希(大船渡)ら。彼らのニュースが耳に飛び込むたびに、自分も負けたくない、常にそういう成績を残せないといけないと気合を入れるが、それが自分を見失う要因になることもあった。
刺激を受けた吉田輝星とのキャッチボール
U18で最も刺激を受けた投手が吉田輝星(金足農)だった。「キャッチボールからボールの質が違う。体の回転軸がしっかりしていて、ボールにちゃんと回転がかかっているんです。自分が投げている映像を見たら、自分は回転軸がずれていてシュート回転してしまっているので、まだまだやるべきことはあるなと」。
宮崎で同部屋だった根尾昂(大阪桐蔭)からは勝つための投球術を学んだ。「詳しいことはここでは言えません」と笑うが、フォームだけでなく、自身のメンタルや心構え…。様々な課題を突きつけられている今は、順調に歩んできた高校野球の中で“正念場”と言える位置に立っている。
「自分の主張ができて分析力もある。頭の回転が早い」というのは林和成監督の奥川評だ。「このままだと自分が北信越(大会)で勝たせることはできないと思う。それどころか自分のせいで負けてしまうかもしれないです」と終始ネガティブな言葉を並べる奥川だが、もがき苦しんだその先に、どんな姿が待っているのか。ここまで思った通りの道を歩んで来られているのだから、それを自信にすればいい。誰もが認めるエースになりたい。その高いハードルは、奥川を一層“真のエース”にしてくれるのかもしれない。(取材、写真:沢井史)