大きな関節、背骨と骨盤の柔軟性を高める棒、「サプルバット」ってなんだ!?

先日取材した健大高崎高校ではストレッチの際に長い棒が使われていた。『サプルバット』と呼ばれるこの棒を開発したのは、障害予防、コンディショニング、パフォーマンス向上のスペシャリスト、塚原謙太郎トレーナー。そんな塚原さんにサプルバットとは一体どんなものなのか? サプルバットを使ったストレッチの効果などを紹介してもらった。

目的は大きな関節をしっかり動かし、全体のコーディネーションを上げること

――先日取材したの健大高崎のストレッチでサプルバットを使われていて非常に興味を持ったのですが、このような用具を使い始めたのはいつからですか?
「この仕事を始めるようになってすぐくらいですから、14年から15年前は使っていると思います。元々は裏山に生えているような竹でやっていましたが、竹は乾燥して割れて危ないし、選手たちも飽きるとチャンバラに使ったりするので(笑)、専用のものを作ろうと思って作りました。トレーニングのレビューなどを見ても少し重い長尺のバットを振ると神経系のトレーニングをなるということでグリップエンドをつけて、左右のバランスも変えてスイングもできるようにしています」

――このような棒を使ってのストレッチというのは他でもよくやられているものなのですか?
「タオルとかゴムチューブを使ってのものは以前からありますが、積極的に棒を使って積極的にやり始めたのは自分が最初かもしれません。今は色々出ていますけど、やり始めた頃は自分が知る限り(野球では)ありませんでした。
動きについてはダンスの先生などからヒントをもらったりしています。上半身のストレッチ自体があまり種類がないというのもあって、棒を使うと色々できるなと。棒を使うと動きに色々制限が出てくるんですよね。ストレッチは筋肉の一方を固定して一方を伸ばしたり、引っ張って関節可動域を広げたりしますけど、正しくやらないと効果がないんですね。そういう意味で棒を使って動きを制限しやすいというのは効果的だなと思います」

――先日取材した健大高崎でも「『っぽい』動きじゃなくて『そのものズバリ』の動きじゃないと意味がない』とおっしゃっていましたね。
「自分が付きっきりで見ていられるわけではないので、そういう意味でも棒を使った方がやりやすいというのはありますね。トレーニングにも色々使えます。ただストレッチという意味ではやり方は昔からそんなに変えていません。基本的には王道というか、大きな関節をしっかり動かして、全体のコーディネーションを上げていくことを目的にやっています」

――大きな関節というとやはり肩甲骨と股関節周りということですか?
「そうですね。あとはそれを繋いでいる背骨。背骨は小さい関節がバランス良く連なっているので、それを少しでも動かせるようにしたいというのもあります。
あと自分がよく言うのが骨盤の角度、骨盤の動きの柔軟性です。股関節以上に骨盤がきれいに動かない子が多いです。肩甲骨、体幹にある背骨と股関節、それを繋いでいる骨盤、このあたりが人間の体の中で大きい関節で、大きい力を生み出しますから、それがしっかり動くというのが重要だと思いますね」

――骨盤が動かないというのは何が影響しているのでしょうか?
「やっぱり普段の生活だと思います。座る時にも姿勢が悪い。大人でもそうなりますけど、スマホを見る時に猫背になる。そうなると絶対に骨盤が下がってくるので、骨盤周りは動かなくなりますよね」

柔軟性を身につけるためには毎日少しでも続けることが大切

――そもそもの質問になりますが、なぜ柔軟性が重要なんでしょうか?
「地面からのエネルギーを関節を介して手足などの末端、野球の場合はバットやボールに伝えることになりますけど、その時に関節がしっかり動かないと力の伝達ができないんですね。
少し矛盾するんですけど、1球だけ投げるのであれば(関節は)多少動かなくても力は伝わります。ただ、野球は何度も繰り返し同じ動きをしますし、再現性が求められます。そうなってくると関節の可動域が狭いと、関節を動かしている筋肉に局部的に負担がかかって疲労がたまって故障に繋がります。そういう意味では高いパフォーマンスを発揮し続けるために重要ということになると思います」

――ストレッチをやるなら年齢が若ければ若いほどいいということになりますか?
「もちろんそうなんですが、柔軟性はさっきも言ったように先天的な部分よりも生活習慣、運動習慣の影響が大きいと思います。まずは体、関節を動かす習慣をつけること。そして継続することです。回数は何回でもいいので、例えばお風呂上りに必ず何かストレッチをする、テレビを見ながらやる、5分くらいでも全然構わないので、とにかく毎日少しでも続けることが重要ですね」

――チームとしてやるには練習の前にみんなで揃ってやる、といったことも習慣になりますね。
「ただ、静的なストレッチは運動前にはやらない方が良いと言われています。筋肉の反応が悪くなるんですね。だから練習前には動かしながら可動域を広げるような運動をやった方がいいですね。それも難しく考えなくてよくて、例えば大股で歩くだけでも股関節の可動域は広がります。立つ、座るを繰り返したり、寝た状態から立ち上がるのでも脚や背中のストレッチになります。静的なストレッチは練習後の整理運動の中でやる方がいいですね」

――ジュニアの年代の指導やストレッチという意味で他に気をつけておいた方がよいというようなことはありますか?
「まずは安全管理と、次に楽しんでもらいながらやることでしょうか。揃ってやらなくても、遊ぶ動きの中でもストレッチになるものはいっぱいあると思います。
トレーニングという意味では強い負荷ではなく、多少の強度をかけることはやった方がいいです。柔らかさがあっても、強さが出てこないと出力は大きくならないので。例えば走っていて瞬間的に止まる、(肩から)腕を動かしていて止める、などはいいと思います。これで十分に関節が強くなるトレーニング効果があります。
ちゃんと止まれる、ブレーキがあるから大きな力が出る。逆に言うと制動力、ブレーキがないと大きな力が出せないということでもあります。そういう止まる動きを取り入れていくといいと思いますね」

なるほど。非常に参考になりました。貴重なお話、ありがとうございました。

*次回は実際にいくつかのスットレッチを動画で紹介します。

(取材:西尾典文/写真:編集部)