いま東北野球がアツい!!東北6県の監督が語る「わが県」の魅力
東北暮らしの大変さを、想像したことがあるだろうか。突き刺さる寒さ。長い夜。長い長い冬。止まない雪が何度もつもり、そのたびに雪を掻(か)く。その地に住んでみると、夏の屋外競技である高校野球で頂点を目指すことが簡単でないことが想像できる。 それでも、東北の高校野球は元気だ。昨夏の金農フィーバーがそれを証明した。「白河の関越え」もそう遠くないと囁かれている東北の強さと魅力を探しに、Timely!がみちのくの旅に出た。
東北6県の監督が語る「わが県」の魅力
6つの県がある東北地区は大きく分けて、太平洋側(岩手、宮城、福島)と、雪の多い日本海側(秋田、山形)、そして両方を兼ねる青森に区分されている。高校野球の特徴と魅力を各県の監督に語ってもらった。
青森県|青森山田高校 三浦知克監督(46)
「2002年付属中に硬式・青森山田シニアが創立。中高一貫で連係、強化し、青森の中学野球の活性化にもつながっています。地元の子供たちが青森の高校から甲子園で優勝したいという夢を形にできる場になってきています。」
青森県|八戸学院光星高校 仲井宗基監督(48)
「金沢成泰前監督(現明秀日立)の代から約20年、青森山田と八戸学院光星が青森を盛り上げてきたことに間違いはない。青森から全国制覇を狙えるのはウチだけ、というくらいの気持ちで練習をやっています。」
岩手県|盛岡大学附属高校 関口清治監督(41)
「甲子園抽選会のときに『東北勢とは当たりたくない』と言われるようになりました。岩手を全国区にしたのは花巻東さん。ここを倒すために奮起することができています。これまで私は9勝9敗なので勝ち越したい。」
秋田県|金足農業高校 中泉一豊監督(46)
「公立42、私学2。『公立から甲子園』の熱が強いのが秋田。秋田、秋田商、金足農が古豪ですが、毎年どこが出るかわからない。上手い中学選手たちが「○○高に行こうぜ」と言い合って一校に集中する流れもあります。」
宮城県|仙台育英高校 須江航監督(35)
「宮城、いや東北の高校野球は間違いなく佐々木順一朗前監督(学法石川)が引っ張ってくれました。24年の在任中『チーム東北』で歴史を変えよう、弱いレッテルを覆そう、と他県と一丸となり、尽力されたのです。」
山形県|日本大学山形高校 荒木準也監督(47)
「酒田南、鶴岡東、体育科のある山形中央、そして日大山形。4強を軸に準決勝からの2つが厳しい戦いとなります。県最多の春夏21回甲子園出場ですが、2013年全国4強を超えるチーム作りは毎年毎夏行っています。」
福島県|聖光学院高校 斎藤智也監督(55)
「東北最多の78校。戦後では全国最長の夏12連覇中ですが一昨年まで決勝5年連続1点差勝利。心の成長が執念を生みました。『白河の関』は福島にありますからね。日本一が一番絵になる県だという自負はあります。」
いま、東北野球の何が“アツい”の!?
高校野球103年の歴史のなかで東北勢は12度(春3、夏9)の決勝進出があるが、優勝はまだない。全国制覇を果たしていない地区は東北だけで、どの高校が優勝旗をつかみ「白河の関」を超えるかが注目されている。その期待度と、本気度が東北の強さの要因になっているのだ。5つのキーワードで検証してみよう。
Point1|夏の甲子園大会では過去11年連続ベスト8入り!
「どこが全国優勝してもおかしくないところまで来ている。呪縛が解かれた瞬間、連続優勝、複数回優勝もあると思います」と話すのは仙台育英高・須江航監督だ。過去の夏の甲子園大会の上位校を見ると11年連続8強入り、準優勝3度、4強3度。あと一歩という期待度が年々増している。そんななか、昨年の聖光学院高校のように優勝候補と言われながら初戦敗退(春は東海大相模高校、夏は報徳学園高校)に泣くことがあり「クジ運も大事」の声も。関東・近畿勢への攻略が監督たちの命題となっている。
過去11年のベスト8入りした東北勢の高校一覧
第90回 聖光学院高校(ベスト8)
第91回 花巻東高校(ベスト4)
第92回 聖光学院高校(ベスト8)
第93回 八戸学院光星高校(準優勝)
第94回 八戸学院光星高校(準優勝)
第95回 花巻東高校(ベスト4)、日大山形高校(ベスト4)
第96回 八戸学院光星高校(ベスト8)、聖光学院高校(ベスト8)
第97回 仙台育英高校(準優勝)、秋田商高校(ベスト8)
第98回 聖光学院高校(ベスト8)
第99回 盛岡大学附属高校(ベスト8)、仙台育英高校(ベスト8)
第100回 金足農業高校(準優勝)
Point2|野球を底辺から支える普及活動が盛ん!
ここ10年で6県▲19%、約1万3000人の高校球児が減少している東北。「野球の未来」を真剣に考える活動も盛んだ。宮城では2018年に「宮城県高野連普及振興委員会」発足。選手の野球検診や、園児・小学生のTボール教室など普及活動を行っている。委員長の石巻工高・利根川直弥監督は「北海道は日ハムと上手く連携しており、楽天のある宮城としても学ぶ点が多い」と話し、17年続く石巻市アマチュアチーム全選手が参加の「野球フェスティバル」も継続していく姿勢を見せている。
Point3|監督同士、仲がいい!
「東北の監督はみんな仲が良い!」と言われている。練習試合はもちろん、東北大会で顔を合わせると「同窓会」のような雰囲気になるそうだ。盛岡大附の関口清治監督は「佐々木監督(学法石川)、斉藤監督(聖光学院)、佐々木洋監督(花巻東)らと東北大会前に決起会をしたこともあります。東北福祉大出身の監督のつながりは特に深くて、光星の仲井監督とは公式戦の前夜も食事をする仲ですよ。認め合い『負けられない』という気持ちが相乗効果となり、東北を強くしているのでしょう」。
Point4|万全のコンディションを作る医療チームが充実!
野球検診も盛んだ。宮城では整形外科医とPT(理学療法士)が「NPO法人スポーツ医科学ネットワーク」を立ち上げ、県高野連からの要請を受けてエコー検査、可動域測定、ストレッチ指導を行っている。「早期発見と予防喚起はもちろんですが、医学系の学生が『ケガ予防に携わりたい』と活動に参加してくれることもうれしい」と永元英明理事長。山形も「県野球活性化推進会議」が高野連、医師、マスコミと連携して野球検診を実施しており、東北は野球=医療の連携が熱い。
Point5|マリナーズ菊池雄星も誕生!スーパースターたちの存在!
今年、岩手から大谷翔平に続く2人目のメジャーリーガー、菊池雄星が誕生した。花巻東高時代から甲子園スターとして人気を博した両選手。地元の野球少年たちの憧れであることは間違いない。そして今年の目玉が大船渡高・佐々木朗希投手(2年)である。昨秋の岩手大会で最速157キロを記録しドラフト上位確実と言われている。公立の怪腕を見るため岩手を訪れるファンが急増しそうだ。
(取材:樫本ゆき/写真:松橋隆樹、樫本ゆき)