【東北野球がアツい!】金足農|踏まれても強い根で上へ。雑草軍団が、新しい時代を作る

日本中を沸かせた「金農フィーバー」から5カ月。先輩の偉業を胸に、自分の手で新たな1ページを作ろうとしている現チームの姿があった。雪の降る秋田で、黙々と練習に打ち込む「今の」金足農を取材した。

あの奇跡は、この練習に耐えた選手たちへのご褒美だったのかもしれない――。そう思うほどの猛練習だ。

耳がちぎれそうな風雪のなかを選手たちが一心不乱に走っている。雪と泥でシャーベット状態になった地面を、長靴で「シャリ、シャリ」と踏み進めながら。足の指の感覚はないし、ユニフォームは絶望的に真っ黒だ。それでも選手たちは自分に負けるもんか、と言わんばかりに声を出し続け、走り続けた。

「僕らのときより、よく練習していますよ。声も出ていますしね」。自主練習に来ていた前エース吉田輝星投手(3年・日本ハム入団)が、集中力を切らさない後輩たちを見て感心していた。

金足農の冬の練習は昭和の雰囲気そのままだ。グラウンドで白い歯を見せて笑う者は誰もいない。腹筋、背筋、おんぶや肩車などの下半身トレーニング、外野のポール間ダッシュ、インターバル付きのタイム走など、決められたメニューを一つ一つやり抜き、終わった選手は走っている仲間に励ましの声をかけていた。「踏まれても踏まれても、強い根で上へと伸びていく」という意味でつけられたスローガンの「雑草軍団」。名付け親である嶋崎久美元監督の指導が伝統となって残っている。

校門には1984年建立の栄光燦然の石碑。来校者を迎えてくれる

伝統の根性野球に絶妙のスパイス

「忍耐力っす!金農だけっす!」。昼休みに金足農の強さの理由を選手たちに聞くと、明るい顔でそう答えてくれた。「根性がつきます!」、「1年の春はマジで地獄。ついていけなかったよな」。なかには「こんなに練習するなんて知らなかったよ(笑)」、「見学に来たとき、音楽流れてなかったっけ?」という冗談まじりの本音も。

一昔前の金足農は県内一の野球エリート校で覚悟を持った選手が集まるチームだった。時代の流れとともに野球観が多様化され「根性論」を見直す風潮も起こりつつある。そんななか、中泉一豊監督が根性野球に「今時」のスパイスを加え、絶妙な“味付け”で選手を指導してきた。そして「旋風」を起こしたのだ。「僕らのときのような厳しさではやりません。でも、妥協はしません。高校野球は2年半しかない。時間がないんです。そのなかで何を考え、行動できるかなんです」。

中泉一豊 Kazutoyo Nakaizumi
1972年9月21日生まれ。秋田県出身。金足農高―青山学院大。高校時代は中堅手として1990年センバツ出場。秋田商高、秋田明徳館高(定時制)、五城目高で監督、コーチを務め2015年母校監督に赴任。環境土木科実習助手。

「気づき。考えさせる」というスパイスを使ったのは昨秋だ。8月、新チーム1戦目の練習試合で羽黒に1−21の大敗をした。守備でアウトが取れない。バントができない。「できないことだらけだったんです」。中泉監督の怒りが沸点に達した。技術の未熟さを怒ったのではない。「新チームの遅れは仕方ない。なにも3年生と同じように戦えと言っているわけでもない。試合中、仲間を見ていたか?声を掛け合ったか?普段の練習ってそういう所をやって来たんじゃないの?ってね」。

選手たちは反省した。船木弦主将(2年)は言う。「周りから常に見られているというプレッシャーがあって自分たちの野球ができなかった」。新エースの関悠人投手(2年)は「自分の持ち味はコントロール。打たせてとろうと思い直しました」。そして秋の公式戦。県大会2回戦は1点差の逆転勝ち。準々決勝・横手戦は初回に先制されるも、5回にバントと適時打で同点に追いついた。3-5で敗れたが、結果的には1年前と同じベスト8。短期間で成長できた選手たちを中泉監督は心の中で褒めた。「よく頑張ったな」と。

自信はまだない。だから練習する。声を出す。それが今の金農ナインのありのままの姿だ。「自分たちは強くない。あと半年しかないので、自分たちの高校野球をやり遂げたい」。踏まれるたびに強くなるのが「雑草」だ。自分自身をしっかりと見つめる船木主将の言葉に、チームの思いすべてが込められていた。

(取材:樫本ゆき/写真:松橋隆樹)

*次回「【東北野球がアツい!】金足農|練習2日間密着取材!」に続きます。

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