「野球を好きになること」「選手、指導者相互のリスペクト」高知市で阪長友仁氏講演会

2月24日、高知市内で野球指導者阪長友仁氏の講演会「ラテンアメリカ野球から学ぶ選手指導・育成」が開催された。

すでに「ヤキュイク」にも何度か登場しているが、阪長友仁氏は大阪府交野市の出身。新潟明訓高校に進み、1999年に夏の甲子園に出場。卒業後は立教大学に進み4年次には主将を務めた。その後、旅行代理店勤務を経て、世界の野球の現場をつぶさに見て、学び、指導者としての見聞を広める。現在はプロスペクト株式会社に勤務、少年野球チーム堺ビッグボーイズのコーチとして野球少年を指導する傍ら、全国で野球指導の講演会を行っている。
高知県での講演は今回が初めて。四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスが主催して行われた。

当日は駒田徳広監督以下、高知ファイティングドッグスの選手、コーチが出席。さらに室戸高校女子硬式野球部の選手、県内各地の野球指導者、野球部OBなどが参加した。

根本が違うドミニカ共和国の野球指導

阪長氏は、昨年、1.2億人の日本からMLBでプレーした日本人が8人だったのに対し、人口1000万人のドミニカ共和国出身のMLB選手が134人に登ったことを紹介。なぜ、これだけの差がついたのか? からドミニカ共和国などラテンアメリカ諸国の野球の特色を紹介した。

ドミニカ共和国には、日本の甲子園のような全国規模の大きな野球大会はない。日本の中学生に当たる年齢の少年たちは、アカデミーに入るのが目標だ。
アカデミーとはMLB30球団がドミニカ共和国に設置したマイナーリーグの最も下のランクのチームのこと。日本のプロ野球で言えば「9軍」に当たる。アカデミーに入ることができれば、競争を勝ち抜いてMLBでプレーすることも夢ではない。

ドミニカ共和国の子どもたちは、みんなメジャーリーガーになることを夢見て野球をしている。
指導者たちもそれを承知しているから、子どもたちに無理をさせない。
アカデミーに進んでも、コーチは選手たちの肩、肘を消耗させないために細心の注意を払っている。アカデミーは夏の3ヶ月間に72試合を消化する。投手もローテーションを組む。コーチが日本の高校野球のように目先の勝利を求めて投手を投げさせ過ぎたりすると、そのコーチは「球団の大事な資産」を損なったとしてクビになりかねない。
アカデミーの選手たちも、目先の勝利ではなく、将来、一流の選手として活躍することを目標にプレーしている。

大事なことは「野球を好きになること」

野球を始めた小学生の年代にとって、いちばん重要なことはなにか?
日本なら技術・知識、体力、規律やマナーなどの言葉が上がるだろうが、ドミニカ共和国の指導者はそれより大事なことは「野球を好きになること」だという。とにかくこのスポーツは楽しい、時間も忘れて出来る、と小学生のうちに思わないと、その後のメジャー、マイナーでの厳しい練習や競争に耐えることができない。
だから、小学生の年代には、細かな技術、知識を与えるのではなく「野球は楽しい」と子どもたちに思わせるような指導が中心になるという。

「球数制限」と飛びすぎるバット

日本では新潟県高野連の「球数制限」の話が話題になっているが、MLBは2014年に年齢ごとの球数と登板間隔を定めた「ピッチスマート」を制定した。ドミニカ共和国では球数制限のルールはないが、将来へ向けた大事な「資産」である子供の肩、肘を守るのが当たり前になっている。韓国高校野球でも「球数制限」をしている。日本だけがかけ離れている。
また飛びすぎる金属バットも日本の高校野球だけが導入しているものであり、その弊害も大きい。

スポーツ界の不祥事は「リスペクト」がないから

日本では昨年、スポーツ界で様々な不祥事が起こった。日大アメフト部、アマチュアボクシング協会、女子レスリング協会、女子体操協会、野球界でもそういう事件が起こった。
こうした事件を防ぐにはどうしたらいいのか。
ドミニカ共和国では選手と指導者が互いに「リスペクト」することを大事にしている。日本の「リスペクト」は「上下関係」があり選手が指導者をリスペクトする事が多いが、ドミニカ共和国では「横並びの関係」であり、選手と指導者が同じ立場で認めあっている。
日本では試合でミスをすれば指導者が叱るが、ドミニカ共和国では「次は大丈夫だ、思い切ってやれ」と励ます。ミスをしたいと思っている子供はいない。「次は取り返そう」と思っているのだから、指導者はその気持を尊重して励ますのだ。

堺ビッグボーイズの方針転換

阪長氏がコーチを務める堺ビッグボーイズは2年連続で全国大会で優勝したこともある強豪チームだったが、そのメンバーの大半が大学までに野球をやめてしまっていた。
チームは10年前に方針を変更し、球数制限を導入。練習時間も短縮し、効率的にトレーニングする仕組みを作った。また怪我をしないためのエクササイズにも重きを置いている。堺ビッグボーイズのOBである筒香嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)はいまだにこのエクササイズを行っている。
またトーナメントではなくリーグ戦の大会も実施している。

もちろん、日本の野球にも「規律」や「道具を大事にする」など良い部分もたくさんある。ドミニカ共和国でも日本の良い部分を取り入れたいという動きもある。
しかし世界の動きからみれば日本野球は改革すべきことが多い。特に少年野球では、子供の健康を守り、野球を続けていくためにも「球数制限」など、早急に導入すべき課題がたくさんある。
野球の未来のために、今後も活動していきたい。

活発な議論も

講演後は活発な質疑応答が行われた。高知ファイティングドッグスの駒田監督からは「球数制限の重要性はわかるが、野球界全体を変えていかなければ改革は進まないのではないか」という意見が投げかけられた。

阪長氏の講演会は1回ではなく「指導者論」「技術論」などさらに専門的な分野の内容に別れていく。他の地方ではセミナーとして定期的に行われている所も多い。高知県での講演会も、今後、更に回数を重ね、議論を深めるべきだろう。(取材・写真:広尾晃)