高松商業が実践する!最新のコンディショニング方法
「四国四商」とは、古くから四国の高校野球を牽引してきた4つの商業高校を指す言葉。その一角を占める香川県立高松商業高校野球部は、2014年に就任した長尾健司監督のもと、新時代の黄金期を築くべく奮闘中。同校が取り入れている最新のコンディショニング方法に迫った。
チーム練習にも「働き方改革!」
量よりも質を重視した効率的なトレーニング
高松商業野球部は1909年に創部し、1924年の第1回全国中等学校選抜野球大会で優勝を果たした。これまでに春、夏、国民体育大会、明治神宮大会合わせて6回の全国制覇を成し遂げた強豪校だ。勝利を記念し、ストッキングにラインを刻んでいることでも知られている。現在は7本目のラインを刻むべく、1・2年生合わせて43名の部員たちは練習や身体づくりに取り組んでいる。かなり厳しい長時間の練習をしているのでは……、と思いきや、「うちは量よりも質重視。働き方改革ではないですが、いかに短時間で効率を上げるかをテーマにしています」と長尾監督。
そもそも長尾監督はこれまで中学野球の指導をしており、高校野球のチームを率いるのは高松商業が初めて。「自我が確立している高校生は、何事に対しても納得できなければ、身が入りません。そこで全員で考え、目標を設定し、強化ポイントを意識しながら練習するスタイルを目指しています」と話す。その練習を見ていて驚いたのは、いわゆるレギュラー組、控え組の選別を行っておらず、選手全員が同じ練習に取り組んでいること。そこには長尾監督ならではのチームづくりへの思惑があるようだ。
夏場と冬場で練習内容は大きくは変えていない。チームを6つのグループに分け、試合、打撃、守備、走塁、フィジカルトレーニングなどのメニューをローテーションにより実践している。1タームは約40分。集中力を切らさない時間配分となっている。冬場は多少フィジカルトレーニングの時間を増やすが、「試合のなかで得られるものは大きい」と、ゲーム形式の練習を重要視している。試合勘を磨くことで、瞬時の判断能力を養っていこうという考えだ。グラウンドを他部と共有しているため、ゲームをしている以外のグループは、体育館下のピロティ、バッティング練習場、筋トレルームなどに分かれて、それぞれのメニューをこなしている。監督はゲーム形式の指導を行っているため、選手の自主性が非常に大切。その日のスケジュールを確認しながら、各自が課題に向かい合っている。
「効率」と「納得感」を食トレでも実践中。
いざ、新たな黄金期の構築を目指して
チームは「食」による身体づくりにも熱心。「1日6食」を基本とし、朝昼晩に加えて、1時限終了後と練習前に中食を摂っている。さらにパフォーマンスアップや練習後の疲労軽減のひとつとしてアミノ酸入りのサプリメントを取り入れるようにしている。
「食トレにおいて大切なのは継続すること。また練習と同様に何のためにこれが必要なのかを各自が理解し、取り組むことも重要です」。
練習の合間にも口にしやすいアミノ酸入りのサプリメントは、昨夏の選手権大会前から積極的に摂取し、練習中や試合前のミーティング後などに飲み始めた。こうした取り組みが功を奏し、夏場に起こりやすい足のけいれんなどの筋肉疲労が軽減されたようだ。
そうした変化を身体で感じたことから、就寝前にアミノ酸入りのサプリメントを摂取している選手もいる。
長尾監督からは「効率」と「納得感」という言葉が何度も出てきた。練習方法しかり、食トレしかり。そこで得られる効果のための最短距離を探り、選手自身が納得して行うことがテーマとなっている。
高松商業は、2016年の選抜大会で準優勝、2018年の秋季四国大会で優勝を果たすなど着実に力をつけている。長尾監督は、最新のトレーニング法やコンディショニング法などを常に模索しながら、取り入れることで今後も強いチーム作り改革を進めていく。
選手に聞きました!僕らのコンディショニングの整え方
適度なアドバイスを行いながらも、基本的には選手たちの自主性を重んじるのが長尾監督の方針。それぞれのトレーニングや食生活にも各自の工夫が見て取れた。春の大会でベンチ入りを狙う4人の話を聞いた。
1日交代で行うウエイトトレがルーティン
2年・香川卓摩(投手)
「ウエイトトレーニングは、上半身と下半身を1日交代で行っています。このルーティンは自分に合っていて、身体をひと回り大きくすることができました」
食事に気をつけ、プロテインの摂取が習慣
2年・松下航大(投手)
「朝ごはんは納豆、夕食は炭水化物を控えて身体づくりをしています。また個人的に取り入れているのがレモン味のプロテイン。これを毎日の習慣にしています」
体幹トレーニングとサプリメントが欠かせない
1年・山下聖矢(捕手)
「柔軟性と瞬発力を養うために、体幹トレーニングに力を入れています。就寝前にアミノ酸のサプリメントを摂っていますが、疲れが翌日に残りにくいですね」
ウエイトトレに加え腸活もポイント
1年・上北光太郎(中堅手)
「脚力を磨きたいので、ウエイトではハムストリングを意識したトレーニングに力を入れています。おやつはヨーグルトを食べて、腸活にも力を入れています」
競い合い、高め合う切磋琢磨の日々で育くまれる相手を認める気持ち
レギュラーを公式試合直前まで決めず、全員が同じ練習をこなしている高松商業の選手たち。レギュラーを強化する方が、「効率」が良いと思うのだが…。「そうかもしれませんが、それよりも大切なことがあるのです」と長尾監督。まず、「自分にもチャンスがある」と考えることで、自ずと個々のモチベーションは高まっていく。同じ練習をこなすにしても力が入り、充実した練習ができるというのだ。また、ともに練習をすることで、自分に足りないものが見えてきて、「追いつくためにはこんな練習に力を入れよう」という課題も明らかになる。競い合い、高め合う練習環境が個々の能力を引き出し、結果的にはチーム力を高めることに繋がっているのだ。
「それだけではないんです。最後の最後まで凌ぎを削り、結果的に自分がベンチ入りできなかったとしても、得るものは大きい。同じ練習メニューをこなしているから、ライバルとの力の差は当然、理解することができます。自分が試合に出られなくても、素直にそれを受け入れることができ、それがチームワークに繋がっていくのです」と長尾監督は力を込める。確かに競争意識はいい方向に働いているようで、上級生、下級生の垣根なく、同じポジション同士の選手がアドバイスし合う姿も見受けられた。自分を磨くことと同時に、相手を認めて、ともに高みを目指そうという気持ちを養う高松商業のスタイル。その清々しい部風は、どんな旋風を巻き起こすかこれからも目が離せない。(取材:阿部美岐子/写真:恒岡健太)
SCHOOL DATA
●香川県立高松商業高校
●監督/長尾健司
●部長/三好明彦
●部員数/2年生21人、1年生22人、マネージャー3人